第112話 サヤカ、聖女になる!


 ~~~~~サヤカ視点


 そして、私は組み敷かれてしまった。


 どうしよう?

 怖い!

 誰か、助けて!!


 口を塞がれながらも、大声を出そうとするのだが。

 声がくぐもり、上手く声が出せない。


 助けてーー!!

 誰か・・・トーマ、助けて!


 私は、なぜか、トーマ王子に心の中で助けを求めていた。


 もちろん、王子が来るわけがないのに・・・・・。



「げへへへへ、大人しくしてたら、すぐに終わるから・・・たぶん・・ぐへへへ」


「う、うう、やめて・・」


「ぐへへへ、いいよ、いい、いい。そして、良い匂いだね、君、げへへへ」


 男子の握力には敵わない。

 片手で両手を万歳の形で掴まれて、口を塞がれている。

 私は、必死に身体をよじって、抵抗しているが、身体の上に乗られていて、思うように動けない。


 涙が出て来た。

 くやしい。


 今まで、いろいろなイジメを受けたりしたけど、男性にこんな風にされたことはなかった。

 私は、いつも、同級生の男子からも、距離を置かれていたから。


 トーマ・・・・。

 彼の顔が浮かんだ。

 左の顔は、たしかに醜くただれてはいたが、彼から感じる波動は、私の魔力の波動に似ている。

 なぜか、一緒に居て、安心できた。

 そして、頼もしく思っていた。

 実際は、マッケンナさんに負けたんだけど、でも・・。


 トーマ、助けて!

 私は、頭に浮かんだ彼の顔に助けを求めた。

 お願い!


 その時、クモの眼が光った。


 えっ?

 魔力が・・・・。


 私に覆いかぶさっていた男は吹っ飛んだ。

 そして、男は、ぐったりとなり、気を失った。


『サヤカ、私をその手に取りなさい』


 あの声が響いてきた。

 あの時の声。


 私は、導かれるままに、物置の奥の方を探し、目当てのモノを掴む。


『私の名前は、シンシア。貴女を聖女と認めます。これは、癒しの聖女の武具でハゴロモと言います。これからは、これを貴女が使うのですよ。わかりましたか?』

 そう言うと、ハゴロモは光の粒となって消えた。


『あの、なぜ、私が聖女に?』

『何って、貴女は勇者に認められたのよ。もともと、私の方が先でしたがね』


『えっ?どういうことなの?』

『うふふふふ、それは、これからわかってくるわ。それより、早くここを出て、教会に行かないと、ソフィーが心配しますよ』

『えっ?ソフィア母様の事を知ってるんですね。だったら、あなたが・・・』

『そういうこと。これからは貴女を、私もソフィーと共に導きます。覚悟なさいな』


 こうして、サヤカは聖女として、覚醒した。


 ~~~~トーマ視点


 うん?

 突然、クモより、サヤカの映像が!

 何だと?


 サヤカが男に組み敷かれている。

 どうしてこんなことに?

 早く助けねば!


 えっ?

 オレの魔力が突然抜けて行った。


 いったい、どうして?

 何が起こった?


 映像から、サヤカが男を吹き飛ばしたのがわかった。

 そこで、映像が乱れ、途切れた。


 しばらくすると、声が聞こえて来た。

『勇者さん、また、お会い出来ましたね』

『あなたは?』

『うふふふ、シンシアです。以前は、あまり話さなかったですけど、今回はそういう訳にはいかないようですからね』


『だいたい、ソフィーが秘密好きだったからな。それより、さっきのは何だ?お前だろ、やったのは?』

『正確には違います。あなたが勇者だからできたのですよ。早くから、サヤカには聖女の素養がありました。ですが、儀式は、まだ行っていません。こういう場合は、過去に一例しかないのですよ、わたしが知っている限りは・・・。』


『今、何か、言いたげだったな。教えろ』

『そうですね・・・いえ、今の時点で不確かな情報は、却って結果を悪くするかもしれませんので、いずれ、またの機会に。それより、もっと、訊きたいことがあるんでしょう?』

『そうだ。良くわかってるな。アノンとその辺は似てるな』

『そうですね。同じ聖武具なので。でも、アノンは特殊ですよ。なにせ、聖剣ですからね』

『いや、お前の方が、戦ってる時は特殊だったぞ。それでだ、その戦いの時に、同じ技を使えるのか?』


『そうですね、それは使用者によります』


『・・・そうか、まあ、それはいい。それから、今、お前と繋がっているんだが、そっちの結界はこっちよりも強力なハズ。だったら、なぜ繋がることが出来た?』


『それは、あなたが操るクモががんばってるからですよ』

『う~~ん、具体的に言ってくれ』

『聖結界・・知ってるでしょ。何度もソフィーが張りましたね。アレと同じことがクモを通して、できるみたいですよ。でも、それには、あなたの勇者としてのチカラ、サヤカのチカラ、そして、私のチカラが必要です』


『それは、いつでもできるものなのか?』

『そうですね・・・まだ、あなたの能力、サヤカの能力が不足の様です。今回、そして、今は、あなたの魔眼の下支えがあるようですね。それは、あなただけのチカラではないようですが・・・そうですね・・・あなたをいつも支えているチカラの様ですよ。そのチカラに感謝したほうがいいでしょうね。それから、あなたは勇者としての能力が制限を受けているようです』


『それは、呪いだ。前魔王の呪いが解けていないんだ。お前に解呪できるか?』

『難しいですね。サヤカがもっと、聖女のチカラを発揮できなければムリのようです』


『そうか・・・』


『ですが、あなたには魔眼があります。これには呪いが掛かってないので、もっと、魔眼を使いこなしてください。そうすれば、聖結界的なこともできますし、さらにもっと何かができるようですよ』


『何ができる?』

『それは、私にはわかりません』


『勇者パーティーの人間なら、それぞれの武器が使えるはずだが、オレもお前を使う事が出来るのか?』


『今は、出来るとも、出来ないとも言えません。だから、もっと能力を上げてください。それだけは、言えます』


『そうか・・・・よし、わかった!じゃあ、今後ともよろしくな』

『よろしくお願いしますね』



 また近いうちに、王都へ行かないといけないな。


 オレは、今、あまり人と会いたくなかったが、王都での情報収集は欠かさず行わなければならなかったので、ギルにも、そして、できればサヤカにも会いたいと思った。


 そうか、サヤカには、オレが勇者だって教えてもいいのか?


 えっと、どうなんだ?


『アノン?どうなんだ?』

『・・・・トーマ、シンシアも言ってたが、儀式を経ずして勇者には、ふつう、成れない。そして、シンシアには、まだ、魔王ってことがわからない方が良い。だから、あまり、彼女を使う事を考えない方が良い』


『どうしてだ?』

『シンシアは・・・・実は・・・・・』

『ちょい、待ち!ダメじゃない、アノン。あなた、やっぱりモウロクしちゃったかな?いくら勇者でも、これ以上は話してはダメよ』

『すまない、トーマ、そういうことだから、これについては、我から言うべき言葉はない』


『おい、さっき、言いかけた癖に』


『ええ、そういう事だから、サヤカには言ってはダメよ。あなたが勇者だってことがわかったら、彼女、あなたの事をもっと知りたくなって、転移してお互いイチャイチャするでしょ。そうなると、シンシアはあなたが魔王であることに気がついてしまうかもね。それは、止めた方が良いわ』


『で、その理由は?』

『それは、シンシアが魔王を憎む理由になるんだけど・・・これ以上は、精霊の契約上、他の精霊のことをとやかく言えないのよ。アノンはバカだから、勇者に甘いけどね。まあ、そういうことで、シンシアが勝手にサヤカに教えるまでは、悟られない事ね』


『う~ん、わかったような、わからんような・・・まあ、わかったよ。とにかく、こっちからは悟られないように気を付けるよ』


 こうして、オレは、サヤカの前では、魔王のチカラを封印し、また、勇者であることも教えられないという、もどかしい事となった。



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