第109話 ジェイだじぇい!


 珍しく、セーラと二人で、カフェにてコヒーを飲む。


 実技試験の翌日、セーラに呼ばれて、教室の前に来たら、セーラがオレの腕を取り、別室に連れて行かれて転移させられたのだった。


「昨日の実技試験でね、ジェイが」

「知ってるよ」


「じゃあ、なぜここでのんびりとコヒーなんか飲んでるのよ!」

「はあ?お前が連れて来たんだろ?」

「違うわ!あんたが私を連れて転移したんだからね!」

「だから、お前が行けって言ったんだろ?」

「はあ?あんた、ちょっと、冷静になってよね!」


「・・・・(これ以上、楯突いたら、堂々巡りだし。これだから女は・・。聖女達とも、こんな感じでいつも会話はアイツ等のペースだったな)まあ、わかった。それで、君は何が言いたいんだ?」


「あのね、あんた、いきなり冷静になってんじゃないわよ!っていうか、冷静になってる場合じゃないのよ!」


「まあ、落ち着け。えっと、このレアチーズケーキデラックスだっけ、君の好きなの?それをとりあえず、食べて落ち着けよ」


「・・まあ、あんたの奢りだから、仕方ないわね。ホントはこんなに大きいのは、レディーとしてハシタナイんだけど」

 そう言って、セーラはオレの所に置いてあったケーキを自分の前に持って来て、自分のとこにあるケーキをオレの方へよこした。


 コイツは、注文するとき、わざわざ、『普通のレアチーズケーキひとつと、レアチーズケーキデラックスをひとつ、この人、大きいのでないと食べた気がしないんですって。もっとダイエットしなさいって言ってるんですけどね。オホホホホ!』とか言って、オレが注文したことにしてるのだ。


 もう、いつものことだから、深く考えないことにしている。


「おい、口の周りにクリームがついてるぞ」

「また汚れるから、最後に綺麗にするんで、黙っててくれるかな?」


 これだから、コイツは・・・。

 アーネなら、あら、ヤダ、とか言って、上品に口元を拭うのに、コイツ、ほんとに伯爵令嬢なのか?


 ああ、冒険者とか、ひとりでするくらいだから、そんなの無頓着になってるのか?って、そうか、まだ12歳だもんね、ときどき、歳を忘れてしまうぞ。

 しかし、コイツと結婚するヤツは大変じゃね、いろいろと・・・・オレじゃないよな・・そう言えば、あの婚約騒ぎはどうなったんだ?


「あの、セーラさん、前に婚約させられるとか言ってたの、どうなったんですか?」

 改まって、訊いてみた。


「うん?もごもご・・・ああ・・・もごご・・ごっくん・・・あれね、あれは、白紙になりました・・ぱっくん・・・もごもご・・・」


「えっ?なんでそんなことに?」


「うん?・・もごもご・・・う~~ん・・・知らない・・・もごもご・・」

「なんだ、知らないのかよ、あははは」

 いやいや、あはははじゃねーぞ。


 何なんだよ、あの時、あんなに悲壮な感じだったのに。

 コイツ、やっぱ、わかんねーや。


「そう言えば、初めて会った時に・・・もごもご、ごっくん・・・こんなケーキを食べさせてくれたんだよね。おいしかったな、アレも・・ぱっくん・・もごもご」


 そうか、コイツの事、なんかわかった気がする。



「さてと、そろそろ帰ろうか?」

「さてと、そろそろ行きましょうか?」


「えっ?どこに?」

「決まってるでしょ!ちょっと、付き合ってあげるんだから、例の所でご飯を奢りなさいね」


「えっと、どういう事?」


 オレは、ショッピングに、セーラと行った。

 そして、いろいろと買わされた。

 そして、今、いつもの居酒屋に居る。


「どれにしようかな?こっちかな?あっちかな?困るじゃないの、トーマ、こんなに買ったら!」

「おいおい、お前が言うな!って、まだ買い物の理由を聞いてないんだけど」


「そんなの、決まってるじゃないの。アーネに贈り物をするのよ!」

「なんで?」

「あんた、ホントに鈍いというか、乙女の気持ちがわからないのね!」


「そう言えば、セーラ・・おまえ、なんか会った時からテンション高くねーか?」

「えっ!・・・いえいえ、そんなことはございませんわ」


「なんか、怪しいんだけど」


「・・・トーマ、それより早く、この中から、アーネに贈るモノを選びなさいよ」

「オレには、わからんから、セーラが選んでよ」


「うふふふふ、じゃあ、これなんかどうかしら?」

 それは、二の腕につける、ピンクと白の花柄が可愛く装飾されており、ピンクとブルーのサファイアが綺麗に煌めいているアームレットだった。


「うん、良いと思う。アーネにぴったりだよね」


「そうよね、これ選ぶの、大変だったんだから。えっと、そしたら、残りの物は、仕方が無いので私が貰うわね?」


「・・・そうくるか(小声)」

「はい?何か、おっしゃられたかしら?」


「いや、セーラ、ありがとな」


「うふふん、仕方ないじゃない、パーティー仲間なんだし・・・」



 こうして、オレは、翌日、プレゼントを忍ばせて、授業を受けにAクラスへ入ろうとしたら、中から笑い声が聞こえて来た。


「あははははは!」

「あの王子が?あははは」


 オレは思わず足を止めてしまった。


「ホント、王国のイケメンにやられて死んだって思われて、先輩達が皆んなでお祝いの歌を合唱してたって話しだぜ」


「どははははは!」

「ウケる~~~」

 大ウケしている。


 いつもの事だよな。

 オレは、こんな事ではくじけない。

 そうして、教室内へ入ろうとした時。


「みんな、そんな根も葉もない噂を信じるなよな」

「ジェイの言うとおりだぜ、みんな」


「ありがとうございます、ジェイとリッター」


「いやいや、当たり前の事を言ったまでだよ。それより、アーネ、これを受け取って欲しい。おめでとう!魔法理論の論文、学園一位!よく頑張ったよね!これ、君の素晴らしさに比べたら大したものじゃないけど、受け取って!」


えっ?そんなことがあったの?


「あっ!いいのですか?」

「もちろん、開けてみて」


「まあ、ステキ!」

 それは、アームレットだった。

 オレが、今持っているのと同じ様な。

 オレの勇者の目が、しっかりと確認した。


「わあああああーーー!!」

「いいなあ!!」

「いや、これは、ホントの恋人通しじゃない?」

「ステキだわ~~~」

「ホントにね~~~」

「もう、恋人ってことでいいんじゃない?」

「だよね~~、だよね~~~」

「ラブラブすぎるわね」

「ヤバいな、これは」

「羨ましすぎる」

「二人が眩しすぎて、見れないわ」


 アーネの顔は、真っ赤だった。

 ジェイは、喜色満面で、アーネの手を取り、アームレットを着けてあげている。


 オレは、持ってきたプレゼントを握りしめていた。


 オレは、踵を返し、別室へ移動する。


 オレ・・・いつも、そうだ・・・わかってたことじゃないか・・・オレは生まれた時から、恋なんかしてはダメなんだよ。


 そうだ・・・わかってたことなんだよ・・・なのに・・・。

 好きだなんて、言ったらダメだったんだ。


 アーネが好きって言ってるのは、まだ恋愛を良くわかってないからなんだ。

 アーネは、純粋に育ってるから、世間知らずで、夢の続きを見てるだけなんだよ。

 まだ、子供なんだ。


 オレは、前世のことを知ってる。

 アイツ等より、知識もあるし、経験だってある。


 コイツ等は、まだ、子供なんだよ。

 なに、オレはマジになってたのかな?


 バカだよな・・・。


 オレは、握りしめているプレゼントを、両手で更に握りつぶし、窓の外に投げ捨てた。

 あの庭園の方へ、握りつぶされ、小さく丸くなったアームレットは、飛んで行った。


『トーマ・・・あなた・・・』

『あははは・・笑ってくれよ、カレン・・笑えよ!!・・・オレは、バカなんだよ。そもそも、アイツ等とは、もう・・オレは同じ人間ではないんだよ。オレは、人間じゃ・・ないんだよ・・・・生まれた時から化け物で、今、ホントの化け物になってるんだから・・・魔王という化け物に・・・ううう・・・』


『・・・・・・・・トーマ(小声)・・わたしは好きよ、あなたの事が(小声)・・・・・・』


 オレは、それから、転移して、冒険者ギルドでクエストを受け、魔獣狩りをやった。


 もう、涙なんか、流してられない。

 愛や恋など、どうでもいい。


 オレは、やるべきことに向かってがんばるだけだ。


 そう、がんばるだけ・・・。


 でも、心の奥が苦しくなるのを、抑えることはできなかった。


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