第98話 緊急クエスト②

 シルフィー姉さん・・・・。


 オレは、思わず、仮面を確かめるように触った。


「ユーマ!ここよ、ここ!」


「ルナ、大体わかった。もう行くぞ」

「はあ?まだ、これから・・・もう~!」


 オレは、仮面はしていたが、このクエストは仕方がないので適当にして、できるだけ目立たないことを第一に考えることにした。


「ユーマさん!良かったーー!ちょっとこっちに来てください。お話がありますので」

 しかし、良くお世話になっている受付のお姉さんが、目ざとくオレを見つけて、オレの手を引っ張った。


「えっと、すいません、急いでるんで」

「すいません、こっちも急ぎなんです」


『ルナ、何とかしろ』

『これは、もう仕方ないじゃないですか。私は、ギルドを敵に回せません』

『いや、お前、A級だろ。オレなんかB級なんだから、ふつう、用事なんかねーじゃん。A級権限があるだろ?ちょっと、わがまま言える系だろ。なんか、ヤバい気がするし、お前にも火の粉が降りかかるかもだぞ』

『トーマ様となら、例え、火の中』

『ああ、もういいから。覚悟を決めるか』


 ということで、なぜか、別室に連れて行かれた。


 副ギルドマスターが、そこには居た。


「ユーマ、早速だが、本題に入るぞ。簡単に言えば、この緊急はヤバい。表向きの話しは、今、剣聖様が言われているが、マジなヤツは、少人数の精鋭でやることにした。そして、他のA級はもう、ある場所に向かっている」


「えっと、なんで、このB級のオレがそんな任務につくんですか?」


「これは、さっきも言ったようにヤバいクエストだ。ホントの事を多くの者達に知らせる訳にはいかない。なぜなら、これは、帝国の研究施設絡みの案件だからだ。そして、ユーマはB級とはいえ、実績面ではA級と遜色がない。だから、このクエストが無事に終われば、A級に推薦する。それから、君と組んでいるルナはA級だろ。君達のチカラは、このギルドでもトップクラスだ」


「はあ、では、金額を上乗せしてくださいよ」


「わかった、私の身体でも良いのだが、お姉さんは嫌いか?」

 副ギルマスは、女性だった。

 しかも、ムネとか、お尻とか、デカかった。

 オレは、そこには、そんなに興味がなく、目のやり場に困るだけなのだが、男の冒険者達による彼女の人気はとても高かった。


「何を冗談言ってるんですか。それじゃあ、今度、酒を奢ってくださいよ。たしか、良い店、知ってるんでしょ?」


「ああ、でもあそこは私だけの秘密の場所なのだが・・まあ、ユーマならいいか。ああ、もちろん、ルナも一緒に行くか?」


「はい、お供します。うふふふ、楽しみです」


 冒険者やホントに強い人たちは、キツイ戦いの前でも、余裕を見せるのをオレは、このギルドで知った。

 この副ギルマスも、相当な強者である。


 そして、この人には、既に素性を知られている。

 この人のオーラから感じられる波動からは、オレを裏切るようなモノはなかったので、一応、信用したのだが、当然、クモを使って、この人の身辺調査をし裏付けは取ってある。


 なぜ、この人に素性を知られるようになったのかは、話すと長いので止めとくが、簡単に言えば、母のアリシアの元部下だったことに起因する。

 だから、本人はお姉さんとか言っているが、ちょっと歳が離れている。

 おばさんって言って、ボコられた冒険者が多数いるので、みんなお姉さん発言を容認しているのだ。



「では、これから、直ぐに行くぞ」

 副ギルマスのサリーは、金髪の長い髪を後ろに括り、いつもの肌の露出多めの軽装で武器の魔装剣という特殊なレイピアを持ち、オレ達と行動を共にした。


 予定の場所は、意外と近く、馬車で小一時間程度行ってから、徒歩で向かう。

 そこは、森の中にあった。


 この辺りは、実は禁猟区であり、立ち入り禁止の柵が張り巡らされており。さらに設置型の結界装置によって結界が張られているところでもある。

 オレは、中がどうなっているのか知らなかったのだが、ここに研究施設があるらしい。



 そして、その施設への道の途中で冒険者達と交戦している、ソイツが居た。


 ソイツは、キメラに分類されるおぞましい姿をしており、腹には人間の顔が5個並び、眼玉をギョロギョロさせており、口からは何を言っているのかわからない不気味な声を発している。


 体長は5メートル程の2足歩行らしいが、ソイツは宙に浮かんでいた。

 ソイツの背には大きな羽がバサバサ動き、更に重力魔法でも使っているのか、そのホバリングしている羽の風圧は然程さほどでもない。


 首も5個あり、その上についているモノはドラゴンの頭だった。


 それぞれの口から、火炎やブリザード(凍える息吹)、圧縮空気、超音波、超熱ビームが放射されるようだ。


 キメラは、個々が特殊で、それぞれに臨機応変に対応せねばならない。


 オレ達は、まず、状態異常無効、身体強化、アンチマジックの魔法を自分たち同士に重ね掛けする。


 もちろん、これはオレの魔法が一番威力がある。

 そして、オレは聖結界魔法を施す。

 オレしか知らないけど。


 サリーは、魔装を全身に施し、レイピアを握る。


 5個の口から、威嚇の咆哮が放たれた。

 重ね掛けした魔法の半分が消し飛ぶ。


 他の冒険者たちの各種シールドも無効化された。

 だが、オレの聖結界は無事だ。

 なるほど、聖魔法の凄さはこういう時にも発揮されるのか。


 そして、また、5個のドラゴンの口から各種攻撃魔法が放たれようとしている。


 まずい!

 他の冒険者たちが危ない。

 オレは、ドラゴンの口の前に浮かぶ魔法陣に介入しようと、かつての勇者の時に使えた魔力干渉を試みる。

 だが、しかし、一度に5個の同時干渉は即座に出来なかった。

 冒険者の半分が倒れる。


 残りの冒険者たちは反撃に転じる。

 サリーとルナも反撃しようと魔力を込める。

 彼女たちの魔力に反応したのか、腹にある顔の一つがこちらに向く。

 すると、ドラゴンの首の一つがこちらを向き、超音波ソニックビームを放とうとするが、サリーの方が速かった。


「ディメンションクローズド(一定範囲閉鎖)!」

 空間魔法の一種で、一定範囲の物理及び魔法の凍結ができる。


 ソニックビームは、放たれなかった。


 ルナのクロワッソンの斬刃が飛ぶ。

 合計15個。

 これが彼女の最大のようだ。

 しかし、やはり魔法攻撃は無効だった。

 オレは、ルナに魔力をよこせと言い、グラディウスに魔力を先ほどから供給し、勇者のチカラで光の聖剣を30個召喚させ、5個の首すべてにそれぞれ打ち込む。


 聖魔法は、効くようだが、魔法無効のドラゴン本来のチカラと、キメラとして強化された防御力で傷は浅い。

 しかも、すぐに再生する。


 これって・・・・どうする?


 サリーは、オレの攻撃があまり効かないとみると、もう一度空間魔法を複数放つ。

 それにより、3個の首は沈黙する。


 しかし、このままでは・・・・。


 そこに、シルフィー姉さんが騎士団数名を連れてやって来た。

「遅れてすいません」

「帝都は大丈夫?」(サリー)

「まだ、数的にはこちらに分があるので大丈夫でしょう」


 そんな話をしている間にも、残りの首から、また攻撃魔法が発動されようとしている。

 と、同時に羽を大きくはばたたせ、腹の顔が大声を出した。


「おおおおおおおおおおううううううううう」


 オレは、ドラゴンの口からの魔法陣に意識を集中させ、魔力干渉をし、成功させる。

 安堵したのも束の間、地面から地響きが聞こえ、オレ達冒険者の周りを囲むようにトカゲ型の魔獣がうようよと出て来た。

 大きさ一匹3メートルから5メートルはある。

 それが100匹とか200匹では収まらないほどだ。


 そして、空からは100匹程のプテラノドン?型の魔獣が出現していた。


 これ、どうするの?


 オレは、冒険者たちや騎士団とサリー、ルナ、シルフィー姉さんを見る。


 オレ、いいのか?


 もう、勇者の能力の検証とか言ってる場合じゃないぞ。


 バレるかも?


 とくにサリーや姉さんには知られたくないのだが・・・。


 オレの逡巡を余所よそに、魔獣たちは攻撃態勢に入る。

 そして、大型トカゲたちが一斉に襲ってきた。


 仕方がないよな・・・・オレは・・・・・・・。





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