第96話 彼女たちとの距離②


 例の居酒屋に帰って来るなり、ルナはあおるように飲む。


「ふぅ~~~、もう一杯!ほら、トーマ様も、もっともっと!かんぱーーーい!!」

「おい、ペースが速いぞ!大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫!なに?見惚れました?」

「いや、ルナはいつも綺麗だよ」

「えっ?もう一度言って!」

「ルナは綺麗だ(こいつ、酔うと面倒くさいから、ヨイショしないとな)!」


「えへへへへへ、そ~んなこと、当たり前よ。ねえ、セー・・・・あっ、いないんだっけ?・・・・トーマ様、よかったんですか、あれで?」

「ああ・・・・」


「ねえ、トーマ様。セーラからパーティーを解散するってクモを取り上げたら、泣いてたわよ」

「そうか、そんなにクモが好きになってたか」

「トーマ様・・・・あんた、女ごころってわかってないわね、あきれたわ!」


「えっ?なんだよ、急に」

「これから、お姉さんが教えてあげるんだから」

「おいおい、わかったよ。オレは、まだ12歳だぜ!女の気持ちなんて考えてもわからねーよ」

「だから、教えてあげます。ダークエルフって、おいしいのよ!」

「おまえ、酔い過ぎだろ!」

「うふふふん、いいでしょ・・・・セーラ、可愛そうに、わたし、セーラの分まで愛してあげるんだから、いいよね、トーマ様・・・ちゅ!」

 キスされた!


「えええっ!!」

「うふふふん、もっといいことしよう・・・・・」


 オレ、12歳だけど・・・やれるのか?

 そう思うと、勝手に身体が反応した。

 あれっ?前世を思い出したからか?


 ルナを優しく押し倒し、彼女の唇を求めた・・・・。




 ルナは、眼を閉じて・・・・・寝ていた。


「くくくくく、あははははは」

 オレは、彼女の頭を撫でて、オレの上着を被せた。


『ざーーーんね~~ん!』


『おい、カレン、お前も、飲みすぎだろ』


『いいじゃない、別に減るもんじゃないし』


『いや、お前が飲むと、薄くなってる気がする、アノンのように大人しくだな、できないのか?』

『アノンのじじいは、酔っぱらって寝てるわよ』


『えっ?・・お前ら精霊の生態がオレにはわからんわ。ところで、あの時、オレがオレでなくなったあの時、オレは自分の魔眼に魔力を暴発させたよな。なんで、死ななかったんだ?』


『うふふふ、それは、私のファインプレーよ。まあ、だいたい貴方の魔力の扱い方が下手だったのが原因だけど、私も貴方の魔力を使ってシールドを展開したりして、そもそもの威力が少なくなったのも原因ね。その代わり、代償を払ったけどね』


『代償だと?』

『その代償は、貴方の心が魔族寄りになったのと関係してると思うのよ。でも、私も魔王と勇者のジョブを一人が持つなんて、今までに聞いたこともないから、どういうことかはよくわかんなかったんだけど』

 そして、カレンにその考えを聞く。

 それなら、オレは・・・・でも・・・・・。



 2日授業をサボった時に、何もしてなかったわけではない。

 その間に、すぐにやるべきことをしていた。


 オレは、クモに、前母親のシオンの行方を探させていた。

 故郷の、あの教会にいたらしいことはわかったのだが、後の消息がわからなかった。

 子供も一緒に行方がわからない。

 あのダルジとその父親も居なかった。


 だから、クモを3匹、取り合えず、故郷には残している。


 そして、フランツ王国の王宮にクモを潜入させているが、連絡が取れない。

 もっと、オレの能力が上がるか、オレが直接調べないと、結界を潜り抜けることはできないようだ。

 しかし、アノンは・・・・・。

 だからオレは、アノンに訊いたのだが。


『アノン!お前の場合は、何で召喚できるんだ?』

『それは、聖属性のチカラと我れ自身のチカラとで可能になる』

『まあ、聖剣とか魔剣とかちょっと、特別だからな。オレは、まだ、あそこまで転移できない』


 その結界は、王都にも張り巡らされているようになっており、さらに前よりまた、防御が厳重になっている。

 オレが、勇者になった後半くらいから結界が強力になって来てたからな。

 たぶん、あのことが原因か・・?

 オレは、アラクネの情報と勇者だった前世の記憶から、いろいろと推論し、王国の事情を考える。

 しかし、まだ全然、情報不足だ。


 そして、まだまだ、勇者のチカラが加わっても、うまく魔力操作ができていない。

 今回は、勇者のジョブとか聖剣が手に入っただけ?

 まだ検証してみないとわからない。

 勇者のチカラか・・・それって、魔王のチカラと上手く、かみ合うモノなのか?

 しかも、勇者の場合は、ホントのところはパーティーってのがあるハズ。

 聖女たちは、いないのかな?

 居るなら居るで、少し面倒になるかもしれないから、居ない方が良いけど。


 しかし、オレだけしか勇者関係のジョブ持ちじゃないって、この世の仕組みに反するんじゃね?

 オレって、理外の理なのか?りがいのり・・・これ、前世のスキルの特殊能力か?

 つまり、勇者の頃に使っていたチカラは、使えるってこと?


 いろいろな事を考えながら、追加の酒と肴を注文していた。

 まあ、がんばるしかないか。

 勇者か・・・前世で、オレが最後に憎んだチカラ。

 しかし、これからは、このチカラを更に高めないと倒すことはできないかもしれない。


 けど、やってやる。

 もう、守るモノは、シルフィー姉さんくらいしかいないけど、でも、この世の理不尽を生み出しているアイツ等、前世でオレ達を弄んだアイツ等、母さんやシルフィー姉さんを苦しめたアイツ等、アイツ等たちを倒さなければ、まだチカラが及ばないがあの帝国の得体の知れないモノとか、ピエールの魔剣?とかを・・・・そうか、だからオレに二つのチカラが備わったのかもな。


 やってやるよ、例え、ひとりでも・・・・・。


 そう誓いながら、安らかなルナの寝顔を見た。


 そうだ、コイツも守ってやらないとな・・・・・・ありがとな、ルナ。




 翌日は、もちろん、授業を休む。

 そして、次の日、オレは登校した。


 あれっ?早く来過ぎた?


 オレは、いつもなら始業時間ギリギリで登校する。

 それなのに・・・・。


 アーネ「トーマ王子様、おはようございます」

 セーラ「おはよう、トーマ。早いのね」

「お、おう、おはよう」


 なんだよ。

 もう、関わってこないと思ったのに・・・。


「なんで、授業が始まらないんだ?」

「今日から、30分遅れで始まるのよ」



「じゃあ、さよなら」


「待ちなさい!」


 オレは、部屋の外に出る寸前で、セーラに腕を掴まれる。


「じゃあ、ちょっと、カフェまで転移してもらいましょうか?」

「えっ?ここで?」

「おバカね。そこの空き部屋に入って・・・早く、アーネも」

「ええっ!!なんでアーネも何だよ!!もう、この前、決別するって言っただろ!」


 セーラの魔眼が煌めく・・・。

「待て待て待て!わかったから・・・(いや、わからねーけど)」


 空き部屋に入り、アーネとセーラがオレの腕を取る。


「ああ、ここで転移ってムリっぽいわ。学校内って、かなり強力な結界が張ってあるだろ?残念だったな」


「うそ!それなら何で、寮から転移できるのよ?」


「うんと、それはだな・・・えっ?!」


 転移が発動した!

 なんで?


 オレ達は、いつものカフェに来ていた。


 なにが始まる?


 オレは、彼女たちの真剣な眼差しに動揺を隠せなかった、のだった。









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