第95話 彼女たちとの距離

 連続で学園を休んだ翌日、アーネが話しかけて来た。

 まあ、そうなるか。

 ここで、アーネとは決別しないと・・・・。


「トーマ王子様、お身体の具合はどうですか?」

「うん、もう大丈夫だよ。この前のお見舞いの品、ありがとう」


「いいえ、本来なら、夜通しでも看病したいのですが、これからは大目には見れないと寮監様がおっしゃいまして、寮に入らせて頂けません。申し訳ありません」


「ああ、そういうこと。あのね、アーネ、これからもオレは、授業を休むことが多くあるから、別にいちいち気にしなくてもいいんだよ。オレは、このような身体だから、ときどき、疼いて発作が起きるんだ。でも、安静にしてたら治るから、もうお見舞いとかしなくていいよ。というか、来てもらったら、おしゃべりしてしまうので、もう来ないでほしいんだ。ごめんね」


「そ、そうなんですか。わたしこそ、ごめんなさい。どうか、お大事にしてくださいね」

(オレですって?ちょっと、大人な感じ?魔力の感じが強くなってる。でも・・・前よりもっと暖かい・・・・)


「ああ、ありがとう」


 オレは、もちろん、ウソをついた。

 そして、寮監にそう言わせたのもオレだ。

 オレは、できるだけ、彼女と顔を合わせたくなかったし、しゃべるのも嫌だった。

 オレが居ない方が、ジェイと仲良くできるだろうから・・・。



 それから、冒険者として、久しぶりにセーラとクエストを行った。

 セーラがどうしても、クエストをしたいと言ってきたからだ。

「お久しぶり、ユーマ!もう、お姉さん、ユーマ成分がなくなって、飢え死に寸前だったよ~~~」

「なんだよ、その成分。不味そうじゃないか?」

「あら、ルナお姉さんも欲しいわ、その成分」

「ルナ、わたしが先なんだからね」

「あら、あら、その成分の取り方がわかれば、あなたよりいっぱい会ってる私にはなんてことないのよ、おほほほほ」

「えっ、やっぱり、何度も一緒に会ってるんだ!」

「そうね、この前なんか、ちょっと、良い感じのお部屋に入って・・・えへへへへ」

「おい、そこまでにしといてくれよ。これから、転移をする。セーラは初めてだから、眼を瞑っといてね。開けたら転移の闇の中に落ちちゃうから、いいね(ウソ)」

「ホントに転移できるんだ。凄いわね、ユーマは!でも、あんた、そんな事ができる人って、この人間族には居ないって事なんだけど、あんたってやっぱり?・・・・魔眼の、そういうチカラがある人ってことなのね?」


「あはははは、そうさ、今わかったのか?オレの魔眼は、テン目眼って言って、10のスキルを有するモノなんだ。だから、能力が成長すると、もっといろいろと出来るようになるんだぜ」


「えっ!!あのお伽話の世界の天目眼てんもくがんなの!わたし、子供の頃にその話を聞かされて憧れてたんだ。でも、わたしの魔眼はまだまだだし。さすがよね、ユーマは!」


「まあ、それほどでもあるけどよ」

 えっ?そうなの?

 テン目眼って、お伽話?神話級のヤツってこと?

 ってか、出まかせに言ったテン目眼ってホントにあるのか。



 オレ等の前には、竜モドキがいた。

 竜でないけど、竜のような身体で、竜のようなブレスを吐く。

 でも竜でないから、魔法は効果がある。

 物理攻撃も効く。

 つまり、何でも効く。

 体長は、前に戦ったミニ竜くらいだ。


 竜モドキは、腐っても竜とかではなく、弱いので群れを作る。

 この竜モドキ達も20匹の群れだった。

 その数の多さに、冒険者たちもクエストの受注に二の足を踏むのだ。


 しかし、オレ達のパーティーには関係ない。

 セーラの魔眼が発動し、ルナのクロワッソンで狩りつくす。

 オレは、セーラが縛り切れないモドキ達をシルフィー姉さんから貰った剣で斬り裂いて行く。


 そして、全て倒した後、魔核を回収しながら、セーラが言う。

「わたし、ユーマが好き。だから、ユーマ、わたしを奪って」

「えっ?う、うばうって・・・なに?」

「・・・あんたね~~、お姉さんがここまで言ってるんだから、早く、奪いなさいよ!」

「あの・・セーラ姉さん・・・その・・」

「セーラでいいわ!もう、お姉さんは卒業するから」

「えっ・・・卒業?・・・そしたら、何に?」

「ばか!ばかユーマ!」

「えっ?・・・なんでバカ?」


「なになに、君達、喧嘩はダメだよ~~」

「ルナ、わたし、フラれた~~」

「おーー、よしよし」


「あの・・・魔王様、ちょっと(小声)」

「ダメじゃないですか!居酒屋で詳しく伺いますからね!(小声)」


 そして。

「かんぱーーい!!」

「うんまーーい!」

「おいしい!!」

「ふぅ~~~、オレ、いつものダブルで!」


「えっ?ユーマ、もう常連なの?」

「セーラは知らないかもねー、ユーマって、ここの部屋の年間予約までしてるんだから」

「えっ?お金持ち?」

「なんだよ、そのくらい稼いでるさ」

「まあ、ルナお姉様のほうがお金持ちだけどね。この部屋の半分、私のお金なんだから」

「えっ、そうなの?」

「それで、セーラ、何て言ったの?」

「わたし、あなたの事が好きって、ユーマに・・・ちらっ?」

「いやいやいや、えっ?・・ああ、そうだった」

 その後の言葉が衝撃過ぎて、忘れてたよ!


「どうなのよ、ユーマ!ちゃんと、はっきりお返事しなさいよね!ね!」

「・・・えーと、セーラには他に好きな人が居るんだろ?オレなんかに何で?」

「好きなんだもん、知らないわよ。他には好きな人なんかいないもん」

 おまえ、なんで、急に乙女になってんだよ!


 どうしたものか・・・えっ?ああ、別にオレ、今、婚約者はアーネで、他には誰もいない・・・アーネとも、婚約を解消する予定だし・・・。

 えっ、でも、この名前も素性もわからんオレに、なぜ急に告白?


 そうか?!


「セーラ、おまえ、違うだろ。よく考えろよ。まずは、何があった?言ってみ?」


「うううううう、だって、好きでもない人と婚約しろって、お父様が!!ああああんんんん」

 こいつ、飲んだら陽気になるとかウソだったわ。

 飲んだら、うるさいんだったよ!

 オレは、周りの部屋とか、カウンターの人たちにエール1杯を奢った。

 まあ、ここの常連だから、その辺の気配り必須な!


「ルナ、解決しろ!(小声)」

「トーマ様、これは無理ですよ(小声)」

 ちっ!


「なんだよ~~~~、あははははは、そんなことか~、あはははは」

 こうして笑いながら、頭をフル回転させる。


「おい、セーラ。簡単な解決策があるんだが、いいか?」

「ううう、うん、な~に?教えて」

「いいか、よっく聞けよ!そして、よっく、見ろ!オレは、トーマだ!」

 オレは仮面を脱いだ。


「へ?・・・・・わたし、酔っぱらっちゃった!」

「いやいやいや、おまえな~、言っただろ!オレは、トーマなんだよ!」


「うそん・・・・・・」

「そうなのよ、こちらはトーマ様。セーラ、今まで黙ってて、ごめんなさいね」


「でだ、オレが王子様権限で言ってやるよ。お前の親父にな」

「何て言うの?」

「だから、お前を妻にするって」


「・・・・あの~~、ちょっと待って下さい。あの、わたし、トーマの妻になんてなれません。だって、アーネがいるもの、ムリです」

「何を言ってるの?二番目でもいいんじゃない、セーラ?私は、何番でもいいけどね、ちらっ?」


「わたし、アーネと親友なんです。婚約してるのを知ってて、そんなマネはできません。わたしは、アーネを裏切ることなんかできない」

「別に、裏切るって・・・でも、ステキ!そうよね、女の友情よね!(ライバルが減ったわ!)」


「いや、えっと・・・・実は、アーネとは婚約破棄するつもりなんだ」


「えっ!なにを・・・何を言ってるの!それ、いったいどういうことなの?」

「うんと・・・」

 あれ?なんかメンドクサイことになって来たぞ。

「アーネには、他に好きな人が出来たんだ。だから、もう、オレでは彼女を幸せにはできないから・・だからだよ」

 忘れようと思ってたのに、あの映像が思い出されてしまう、くそっ!


「それって、本当なの?おかしいわね、ついこの前、トーマのために何か身体に良いモノがないかって、相談されたんだけど」


 そんなことを・・・・ダメだ、もうオレは見てしまったから・・。

 それに、そんなことは、婚約者の義務としてやってることだ。

 愛情だったらうれしいけど・・・・。

 もう、ここは・・・・。


「ああ、もうそんなことはしなくてもいいって、言ってくれない?皇帝に言われて仕方なくしてもらっても、こっちは嬉しくないし、それに、もうそんな義務のようにオレのことを無理に構うことないからさ。アーネに相応しい人はオレじゃないし、オレは別にアーネのことが好きじゃないから、これ以上オレに関わるなって言っといてくれ」

「・・・冷たいのね、トーマは」


「・・・そうだ、オレは嫌なヤツだよ。それに、非情である事は皇帝になるために必要な事さ。だから、オレを使え。お前の縁談くらいすぐに潰してやるからさ」


「トーマ・・・あんた、嫌い!」

 そう言うと、セーラは出て行った。

 そうだよな、セーラはトーマが嫌いだからな。


「いいんですか?あれで?」


「ルナ、セーラを送ってやってくれ。それが終わったら、連絡な、クモで。ああ、それから、彼女からクモを回収するのと、パーティーは解散するってことを言っといてくれ」

「なんか、多いわね、私の仕事、トーマ様」


「報告が終わったら、君を回収して、また、ここで飲もうか、奢るから(っていうか、ここの支払いは大概、オレが払ってるけどな)」


 カレン『あなた、最初から嫌われるつもりでその顔を見せたのね』

『いいんだよ、これで』


 これで良い。

 これで良いんだ。

 もう、オレにかかわらない方が良い。

 オレにかかわると・・・不幸になるから・・・・。


 オレは、ルナの報告があるまで、左眼に映るアーネの映像とセーラの映像、そして、サーヤの映像を酒を飲みながら見ていた。

 もちろん、眼帯を外して。


 ときどき、画面に霞みがかかる。

 オレは、左眼を時々、拭いながら、呟く。


「さよなら・・・ありがとう・・・」


 オレは、これを最後に、もう見ないことに決めていたのだった。





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