第80話 サヤカの能力

 私(サヤカ)は、物置部屋に何度も入れられた。

 最初は怖くて泣いた。


 その日も、泣き続けていた。


「ひっく、えっく、うぇ~ん・・・うううう・・・怖いよ~~・・」


「きゅるる!きゅるるる!」


「ひぇっ!!・・な、なに?・・・うえ~~~ん、怖いよ~~~、何かいるよ~~~、だれかぁ~~~!!!・・」

 もちろん、誰も来ない。


 私は、身の危険を感じた。

 薄暗がりの中、習いたての生活魔法を使ってみるが、上手く発動できない。

 ただ、指先に光を灯すだけの、初級中の初級魔法なのだができない。


 だから、必死で、目を凝らすと、傍に壁モグラがいた。


 それは、王宮内では珍しく、たぶん、ここくらいしか生息していないだろう。

 なぜなら、常に、ネズミやモグラなどは魔法で駆逐され、それらの害獣に宮内が汚染されたり、被害に会わないように結界が施され、さらにその結界内では時々、浄化の魔法が使用人たちで行われるからだ。


 おおよそ、その浄化の魔法の盲点となっている区画だったのかもしれない。

 壁モグラは、土中も移動できるが、多くは壁に住みつき、壁の中を自在に移動できる小型の害のない魔物である。


 その壁モグラは、顔を私に向けると、鼻をひくつかせて、手をこすり合わせるようにスリスリしている。


 可愛い・・・とても可愛い。

 私は、壁モグラとか、見たことがなかったので、最初は怖かったが、その姿と動作に見惚れてしまい、いつしか、泣くのを止めていた。


「きゅるる、きゅるるん」

 何か、私に話しかけているようだが、よくわからない。


 でも、私は、その子に思わず、手を伸ばした。

 その子は、警戒して、ササっとどこかへ行ってしまった。


「ごめんね、驚かせちゃったね。出ておいで・・・ひとりにしないで・・・お願い」


「ねえ、出てきてちょうだい!・・・そうだ、これ!これをあげるから、出てきて!」

 私は、焼き菓子の一部を千切ると、床の上に置いた。


「きゅる・・きゅるんきゅるん」

 そう鳴いて、すぐにそのお菓子に駆け寄ると、素早く口にし、また、どこかへ行ってしまった。


 その時は、それでおしまいだったが、それからその部屋へ行く度に、その壁モグラは出てくるようになった。

 私も、いつもポケットに焼き菓子を入れて持ち歩き、その部屋へ入れられた時には、そのお菓子をモグラと一緒に食べるようになった。


 そして、もうあまり部屋には閉じ込められないようになると、今度は私からその部屋へ行くようになった、ポケットにお菓子を入れて。



 そうしたある日、その子が、仰向けになって手足を痙攣させているのを見つけた。


「どうしたの?何か悪いモノでも食べたの?・・どうしよう?」


 私は、使えるようになったヒールを掛ける。

 私は、何度もヒールを掛けられた為、身体でヒールを体得していた。


 でも、全然、良くならない。


「きゅる・・・きゅー(小声)・・・・・」


 その子は弱弱しい声で、私に話すように鳴いている。


 何を言っているのかはわからないが、助けを求めているのだと思い、私は必至でヒールを掛け続けた。

 でも、ダメだった。

 だんだん、その子の声がか細くなってくる。


 どうしよう?


 私は、前に掛けられたことがあるパーフェクトヒールを思い出しながら、やってみることにした。

「パーフェクトヒール!!」


 ダメだ。

 ヒールを掛けるときは、相手の事を救いたいって気持ちが一番大切なのよ・・そう、ソフィア母様は言ってた。

 私は、今、救いたいという気持ちがマックスのハズ、それなのに・・・・。


 何かが足らない、足りないのよ・・・何が・・・・。


「パーフェクトヒール!!」

 涙ながらに唱えたそれは、明るくその子を包み込むオーラを発動させたが、効果はなかった。


 もう、この子は、鳴かずに、手足を痙攣させているだけ・・・もう・・・もう危ない・・・ごめん、わたしには・・・・

『パーフェクトヒール、もう一度、言ってみなさい!言葉に貴女の気持ちを乗せるように、その言葉の一文字一文字が癒しの波動を持つように、さあ!』

 どこからか聞こえてきた声に、藁をもすがる気持ちで、私は唱えた。


「パーフェクトヒール!」

 だめだ。

 もう一度!


 私は何度もチャレンジした。

 もう、魔力がなくなってきて、頭がくらくらしながらも、必死で・・・言葉に癒しの気持ちを乗せる・・・いいえ、癒しの気持ちって・・違う・・・私のこの子を救いたい、この子を元気にさせたいっていう気持ち、この子への愛を、私の全てのチカラをこの子へ!!


「パーフェクトヒール!!!」


 それは、大きな暖かい光だった。

 全てを温かい気持ちにさせてくれる真の癒しの光。


「きゅるる、きゅるるん・・・・・」

 壁モグラは、鳴いた。


「モグちゃーん!!」

 私は、その子を抱いた。


 壁モグラは、安らかな顔をして、死んでいた。


「モグちゃーーーーーん!!!」


『よくやったわね、貴女。それがパーフェクトヒールよ。その子は寿命だったの。どんなに凄いヒーラーでも、前の聖女でさえも、寿命には逆らえないわ。貴女、精進なさいな』

(このの最後に見せたものは、ホントはパーフェクトヒールじゃなかったわ。その上のエクストラよ。この娘、もしかして、あの娘の再来?楽しみになって来たわ)


「ぐすん、あなたは、だーれ?」


 そう訊いても、もうそれからは応えてくれなかった。

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