第58話 魔王との会談②

 そこは、見渡しが効く平原の中ほどの所だった。


 ここに、魔王たちと勇者たちとが一堂に会した。


 魔王側は、魔王ソーマ、幹部のアラクネ、魔王の義妹のミーシャ。

 勇者側は、勇者トーヤ、癒しの聖女ソフィー、剣の聖女エリー、魔道の聖女アヤカだった。


 アラ「では、わた」

 ミ「トーヤ、そして、みんな、会いたかった!」

 ト「エミリ、君は大丈夫だったのか?」

 ソフィー「元気にしてた?」

 エ「なんだか、そっち側にいるのが不思議」

 アヤ「どうして、魔王と?」


 ~~念話

 ト『みんな、落ち着け、ここはオレが代表して発言する』

 ソフィー『じゃあ、任せるね』


 ソーマ「まあ、落ち着こうか。オレは、ソーマ。魔王だ」

 アラ「私は、アラクネ。魔王3鬼将の一人にして最後の将軍です」

 ミ「私は、ミーシャ。魔王の義理の妹。ごめんね、別にみんなを騙してたわけじゃないのよ。私の姉で魔王の婚約者だったナスターシャは、人間に殺されたの」


 ソーマ「お前ら人間にな。しかも、惨たらしく殺された。凌辱されて、辱められて、泣き叫ばせながら、懇願させながら、惨たらしく、惨めに・・・ぐぐぐぐ・・お前ら人間は生きてはダメな生物だ・・・ホントは、話すことなど何もないのだが・・」


 ミ「私が、話すように言ったのよ。勇者に聖女である、あなた達ならわかってくれるって。だから、説得したの、ソーマお義兄様を」


 ソフィー「わかるよ。私でも、そんなことされたら、黙ってなんかいられないわ!」

 エ「そうだよ!なぜ、言ってくれなかったの?」

 アヤ「そうよ、絶対、チカラになってあげたわよ」

『だから、オレが代表して』

ソ『もちろん、任せるわ』


 ミ「ごめんね。でも、あの頃、まだあなた達は、ちゃんとしたパーティーになっていなかったわ。それに、私のために、迷惑を掛けたくなかったし。私は、姉を殺した者を探そうとしてたの。最初は、姉が殺された近くのサリュート聖教国の人間だと思って、聖王に近づいたわ。でも、聖王じゃなかった。聖王は私のためにいろいろと手を尽くしてくれたわ。そして、最近、帝国が怪しいというところまではわかったの。でも、そこからが、このアラクネでもわからなかった」


 アラ「どうも、アラクネです。わたしは、一番に帝国だという情報を掴みました。そのため、帝国を中心に情報収集をしてましたが、帝国に送ったモノたちは、多くが命を落としました」


 ト「すまないが、ちょっと、待ってくれるか。アラクネって言ったか、では、なぜサリュート聖教国を先に襲った?そして、聖王はどうなったんだ?」


 アラ「それは、あの時はまだ、サリュート聖教国が本命だったのです。そりゃー、そうでしょ。サリュートの国境近くで起こったのですよ。こちらも、彼女が無残に殺されて、彼女の出身国の魔族が黙っていなかったし、彼等を抑える理由がないですものね。さすがに、策は授けましたし、結局3鬼将の2人が行きましたけどね、魔王様」


 ソーマ「そうだな。でも、聖王とかは知らないぞ。アラクネ?」

 アラ「私も、知りませんですわ」


 ト「そうか、ならいい。しかし、この会談で、もう、戦うのは止めにしたいのか?」

 ソーマ「それは」

 アラ「ふふふふ、それは、そちら次第でしょう?そもそも、あなた達がこの戦争を引き起こしたのですよ。魔王の婚約者を惨殺するなんて非道をして、こちらが黙っている訳がないじゃないですか?」


 ソフィー「それは、そうだけど」


 ミ「でも、もう、戦いは真っ平よ。多くの者が死に、多くの恨みが生まれ、そしてまた多くの犠牲者が出る。誰かが、こんな事を止めないと、ずっとお互いを憎み、恨んで、終わりがないのよ!そうでしょ、お義兄様!」


 ソーマ「しかし、ターシャの無念を無しにするというのは、我々魔族が惰弱に思われる。人間に侮られることになり、お前の言う対等な関係など築けないだろう?」

 アラ「そうです。だから、平和条約を結ぶにも条件が必要になります」


 ト「聞こうか?」

 アラ「条件には、細かいこともありますが、それは省きまして、重要な条件や原則だけ言いますと、まずはナスターシャ様を惨殺した犯人達を我々に引き渡すこととその首謀者たちも我々に引き渡すこと、そして我々に謝罪し、賠償金の代わりとして、サリュート聖教国を我々の領土とすること。それから、お互い不干渉を貫くのが原則ですが、何か互いの交流において不当な事があった場合は、それぞれの主張を正しく裁ける第3者的な組織を作り決裁できるようにすること。そして、我々にはほぼ居ないのですが、人間族の元で不当な扱いを受けている我々同胞の者達の即時解放をすること、民間の文物の交流はこれを妨げない事、そして、これらのことにより生じる細則については、お互いに協議し、知恵を絞り、あくまでどちらにも平等に公平に決定できるように努力するとともに、互いに利害関係のない第3者の協力を仰ぎ、速やかに決定すること。どうですか?ご理解いただけましたか?」


 エ『えっと、みんな、わかるの?魔族の言葉って難しいよね?」

 ア『そうね、これ、私たちには手に負えないわね』

 ソ『トーヤ、これ、あんたが一人で決めていい問題なのかな?向こうは魔族の最高権力者だよ。一方、私たちは、田舎者だよ?』

 ト『そうだな。ここは、オレ達田舎者には、ムリだな』

 エ・ア『私たちは田舎者じゃないけど』

 ト『バカか、あのな、こういうふうに田舎者って言ったら、向こうも仕方がないって今すぐに返答せよとか言う話しをにしてくれるんだよ!これは方便?っていうテクニックだ』


 ト「すまない。これはオレ達が即答して良い範囲を超えている。しかし、あんた等の言い分はもっともだし、前向きに考えていいのではないかと思う。しばし、猶予をもらえないか?」

 ソーマ「いいか、オレはこの条件をお前ら人間が飲むか飲まないかを答えてくれるだけでいい。つまり、我々はこの条件を変えるつもりはないということだ。その点を理解して、お前んのとこの上司に、しっかりと伝えてくれよ」

 アラ「では、制限時間を決めますか?」

 ソーマ「そうだな・・・」


 ト「ちょっと、待ってくれよ。この会談はお前たちが勝手に言ってきて、勝手に条件をつけてきて、勝手に制限時間とか言ってきて、おかしいだろ?お前たちがその条件の様に対等とか言うのなら、こっちにも、もっと考える時間をくれないか?」

 アラ「あらあら、それはおかしいですね。もともと一方的に仕掛けてきたのは、そちら側ですよ。つまり、あなた達に非があるのは明白。こちらは、この条件で充分に譲歩しているのですよ?わかってもらえませんかね?」


 ト「悪い、アラクネさんとやら。オレは、勇者になってまだ一年も経っていない田舎者なんで、学のある君のような人の意見を完全に理解することもできない。なので、そちらの言い分をちゃんと理解して、説明するのに時間がかかる。その辺のところを考慮してもらえないだろうか?君は賢いし、こんな田舎者相手では交渉役に不向きなのはわかっているのだろう?」


 アラ「仕方がありませんね。もちろん、アナタがアジャ村出身の田舎者って言う事は知ってますよ。それに、そこの癒しの聖女も同じような田舎者でしょ。ふふふふ、そんな者が人間族を代表して物事を考えられるわけがありませんよね~、ふふふふ、そうですか、でも愚かだとわかっているだけでも、アナタ、少しはマシですよ、田舎者の勇者様?うふふふふ」

 ミ「よしなさい、アラクネ。勇者様に失礼よ!ごめんなさいね、トーヤ。でも、アラクネの言った条件は、私もお義兄様も承知をしているモノなの。だから、お願い、なんとか人間の偉い人を説得して」


 ト「ああ、できるだけやってみるけど、あの条件を説明できる者を一緒に連れて行きたいのだが・・」


 ソーマ「アラクネ、行けるか?」

 アラ「はい、御命令とあらば」


 ソーマ「よし、では、明日のこの時刻この場所で、また会おう。それまで、待つからな。アラクネは、説明が終われば、直ぐに返してもらうぞ、いいな?」


 ト「ああ、それでいい。では、明日。ミーシャ、できるだけいい返事ができるように頑張るよ」

 ミ「ええ、お願い!」


 こうして、我々は、アラクネと共に、帝国騎士団のルシーの所へ行き、説明する。

 ルシーは魔道通信を使い、いろいろと話し込んで、オレ達は無視だった。

 アラクネは、いつの間にかいなくなっていた。


 そうして、オレは、ザピエルと共に、夜を過ごし、翌日、またあの場所へ向かった。

 今度は、あのルシーと一緒だ。

 条件を飲むのかさえも、オレ達には秘密にして、コイツだけで交渉するらしい。


 そして、約束の場所へやって来た。


 アラ「その者は?」

 ル「帝国騎士団団長のルシフェール=フォン=デュフォー伯爵だ。結論を言おう!我々は、あなた方の条件を飲む。戦争は終了だ。これで、いいか?」

 アラ「では、ここにそのあかしの証拠を記し、そして、条約約定の契約魔術を使用します。どうぞ、これを」


 ル「ああ、でも、ここに帝国皇帝から頂いたあかしのエンブレムがある。これは、貴重なマジックアイテムでな!」

 そして、懐から取り出したモノを魔王に向けると、強烈なビームが出た。


 が、魔王の前にミーシャが飛び出していた。


 ミーシャは、彼女特有の感知能力でルシーの手にしたものが高エネルギーの魔力を持っているのを直前に察知したのだった。

 トーヤや聖女たちは、まだ、そういう探索系が苦手だったので気がつかなかった。

 しかし、それもそのはず、そのビームを放つぎりぎり前までは、その魔力が感知できないようになっているからだ、まあ、質のいい魔道具なのでそのくらいのカモフラージュが施されていて当然なのだが。


 ミーシャは、魔核を砕かれてはいないが、致命傷を負ったようだ。


 ミーシャが命を投げ出したにも関わらず、魔王ソーマの魔核は破壊された。

 ソーマは蹲った。


 アラ「まおうさまーーーーー!!!」


 ト・エ・アヤ・ソフィー「ミーシャーーーーー!!」


 ル「ひひひひ・・・やった・・・オレがやったぞ!!魔王を倒した!!!!!」


 オレは、何もできなかった?


 ト「ルシーーーーー!!貴様っ!!ゆるさねーーーーー!!!」


 ミ「トーヤ、ダメよ・・・ごほっ・・・ソーマ・・愛してた・・・・ソー・・・」


 ミーシャは動かなくなった。

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