第52話 2通の手紙

フランツ国王ピエールの目の前には、2通の手紙があった。


「 愛するトーヤへ


  私は、元気でやっているわ。

 もちろん、お母さん(シオン)もお父さん(ザイン、ヨハン)も元気よ。


 貴方からのお手紙を読みました。


 いい加減にしてよね!

 勘違いなんかで許さないから!!

 バツとして、帰ってきたら、思いっきり抱きしめてあげるんだからね!!


 いきなり婚約解消なんて!

 泣いたよ、絶望したよ!

 その怒りを魔獣や魔人にぶつけちゃいました。


 わたし、剣聖のスキルを会得して、剣帝のお父さんともいい勝負になってきたよ。

 貴方の方は、どうですか?

 勇者だから、とても強くなっているよね。


 がんばって、私たちの世界を救ってね。


 わたし、聖女様たちと仲良くなって、彼女たちに貴方の事をよく頼んでおいたから。

 彼女たちとなら、上手くやれると思うわ。

 トーヤも彼女たちと仲良くなってね。

 もし・・もしもよ、魔王討伐後に彼女たちを貴方の妻にしても、私は許すわ。

 でも、彼女たちには婚約者がいるのよね、だから、彼女たちと・・その・・愛を交わすことはダメよ。

 でも、もちろん、彼女たちと仲良くならないと勇者のチカラが十分に発揮できないと聞いたわ。

 だから、その・・彼女たちとキスくらいなら許すわ。

 でも、それ以上の関係はダメだよ。


 わたし、トーヤのこと、信じてるからね!


 魔王討伐までは会えないけど、私なら大丈夫。

 この村も、お母さんもお父さんたちも、絶対に守るから!


 だから、安心して、魔王を倒すことだけを考えてね。


 全てが終わって、会いに来てくれることを心待ちにしています。

 絶対に、魔王を倒してね。

 トーヤならできるから!!


 信じてる、そして、心から愛してます!

 貴方の婚約者のサーヤより」


                                 

「 愛するあなたへ


 トーヤ、なかなか会えない日が続くけど、頑張っている様で、私は誇らしく思います。

 私も、貴方に負けないように、日々、剣技を鍛え、努力しています。


 そして、サリュート聖教国の聖王宮とその王都の街の警備や治安維持を任されましたので、その任務に頑張っています。


 でも、早く、貴方が魔王を討伐して、私を迎えに来てくれることを楽しみにしています。


 サーヤさんに会いましたが、元気にされています。

 貴方が私を妻に迎えてくれるのは、嬉しいのですが、サーヤさんとも仲直りしてほしいと思っています。


 私は、彼女を出し抜いてまで、貴方を奪ったという訳ではありません。

 そして、貴方の気落ちしているところを狙って、貴方の愛を勝ち取ったと思われては癪に障ります。

 私は、純粋に努力をする貴方に惹かれ、いつしか愛するようになったのです。

 私は、貴方と過ごして、貴方のサーヤさんへの想いを知っています。

 だから、貴方がサーヤさんを妻にされるのを反対するつもりはありませんし、私はサーヤさんともうまく付き合っていきたいと思っています。


 私は、ただ、貴方の妻になれれば、それだけで幸せです。


 私は、貴方の足手まといにはなるつもりはありません。

 だから、魔王討伐までは会うつもりはありません。

 だって、会ってしまうと、感情に流されて、貴方をずっと求めてしまうから・・・。

 それでは、貴方の訓練や技能・能力の向上に支障を来します。

 私は、貴方の妻ですので、魔王を倒すその時まで貴方に会わずに我慢します。

 貴方は優しいので、私の事を気遣うでしょうが、そんな必要はありません。

 私は強いのです。

 だって、貴方の指導をしてましたもの。


 貴方が魔王を倒す日を心待ちにしています。

 絶対に迎えに来てくださいね。

 貴方が魔王を倒すまで、会うことができませんが、貴方の無事と勇者パーティーの皆さまの無事を心よりお祈りします。


                      あなたを愛するルーシーより 」



 シモン「いかがいたしましょうか、閣下?」

 ピエール「うむ、こういう場合のセリフ、良きに計らえ!だよ。そして、よくやった、マリー!君は天才だね!」

 マ「うふふふふふ、ああん、ピエール、わたし、最近、よく胸やけがするんですの」

 ピ「えっ?それはいけないな。医者によく診てもらわないと」

 マ「そうするわ。でね、ピエール。もしかして、アレかもしれないわよね」

 ピ「アレ?・・ああ、もちろん、アレかもね?」

 マ「そうなのよ、うふふふふふ」

 ピ「あはははは(?)」

 マ「その時は、よろしくね、ピエールお父さん?」

 ピ「はいはい、マリーママ」(えっ?そういうことなのか?)


 ピ「と、ところで、勇者くん、弱いよね~~~。どうするシモン?」


 ピエールのところには、魔道通信により、帝国での戦いの詳報がもたらされていた。

 勇者は、強い魔人と戦ったようだが、同士討ちのようになり、それ以降は、寝たきりになってしまったこと。

 したがって、勇者が寝ている間、聖女たちは劣勢を覆すために、大活躍をし、魔族を敗北させたこと。

 その後も、聖女たちは傷病者の回復に尽力したこと。

 帝都でのパレードでは、聖女たちが大人気で、沿道では帝都に暮らす人々の大半が押しかけて、物凄い騒ぎだったこと。

 帝国では、聖女クッキーが爆発的に流行っていること、などなど。


 シ「わが国でも、聖女クッキーを作りますか?」

 ピ「きみ、そういう冗談を真顔で言わないでね。でも、一考の余地はあるかな」

 マ「わたしも、食べてみたいわ、そのクッキー、ねえ、ピエール?」

 ピ「そ、そうだね。でも、胸やけがするんじゃ・・」

 マ「お菓子なら、大丈夫ですわ」

 ピ「そ、そうかい?」


 シ「さて、勇者の事ですが、帝都のパレードでは、勇者パーティーという勇者の名前にバツをして、聖女と書かれたそうな。そこまで、無様な戦いをしたんですかね、トーヤは?」

 ピ「う~~ん、まあ、もともと弱かったでしょ、彼は。もう、魔王討伐は期待できないのかな、彼には」

 シ「そう考えた方がよろしいかと。もう、覚悟をお決めにならねばなりませんと、陛下!」

 ピ「ええ~~~、僕は、嫌だな~~。ねえ、マリーはどう思う?僕が勇者みたいに魔族を殺しちゃって、魔王まで殺しちゃって、なんか世界の英雄みたいなヒトになっちゃうのって?」

 マ「そんな・・・そんな人になったら、わたし・・・わたし、今でも素敵だと思うのに、もう、幸せを通り越して、天国に召されるかもしれませんわ」

 ピ「えっ?死んでもらっては困るよ、マリー」

 マ「うふふふふふ、大好き!」

 ピ「う~~ん、仕方がないね。マリーもそう言ってるし、ちょっとかっこよくなっちゃうかな~」

 マ「ああ~~~、ピエール、応援してるわね、がんばって!」

 ピ「じゃあ、今晩、ちょっとサービスしてね」

 マ「うふふふふふ、エッチなんだから~~、大好き!」


 シ「うほん、それでは、例の場所へ行きましょうか、陛下?」

 ピ「嫌だな、暗いのや狭いのは・・・」

 マ「がんばって、ピエール!」

 ピ「うん、がんばるよ!」


 ピエールは、嫌々ながらも、仕方なく行くのだった、アレを取りに・・・・。




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