第53話 ピエール覚醒する
ピエールとシモンは、王国魔道師達と先代国王の墓にやって来た。
すでに、魔導師部隊の特殊班が作業をしていた。
そこは、まるで、他の侵入者を拒むように、幾重にも結界が張られていた。
何年もかけて、その結界を解除すべく魔導師部隊の特殊班に解析させていたが、それが漸く、最後の関門まできていたのだった。
しかし、最後がなかなかわからず、今日を迎えていた。
王国魔導師筆頭ザピエルは、ピエール国王ならばなんとかなりそうではないかと、密かに期待の眼差しを向けていた。
~~~~ザピエル視点
今日は、シモン様から言われたように、いろいろと準備をしたからには、絶対確実に成功せねばならんな。
我々王国魔導師の名誉にかけても、失敗は許されん。
私は、朝から、いや、この仕事を頼まれてからずっと、気合を入れていた。
おかげで、頭頂にわずかに残った、3本の毛が、イライラするとつい掻き
このザピエル、一生の不覚!!
しかし、私たちは、なんとか最後の関門までたどり着いた。
あとは、陛下の、なぜかわからぬお力で何とかして頂くだけ。
ふふふ、つまりは、最後は陛下に決めていただくために取っておいたという、私の陛下への配慮、
「さあ、陛下!どうぞ、お願いしまっす!」
ああ、ちょっと、声が上ずってしまった!
このザピエル、一生の不覚!!
ピ「ああ、ザピエル。君はいつにも増して、頭のてっぺんが光ってるね!」
ザ「有難き幸せ!」
ピ「だけど、これ、僕がやっちゃっていいの?君がちょちょいとやっても、ぜんぜん、僕はいいんだけど、ってか、やってよ、ザピエル」
ザ「ええ、ええ、もちろん、ちょちょいとやれないわけではないのですが・・・」
シモン「ダメです、陛下!これは貴方様がおやりになることです!」
ピ「あはははは、ザピエル、ごめんよ、せっかく君の素晴らしい魔道が見れると思ったんだけど、僕の言ったことで、とまどうわないでね(戸惑わないでね)」
ザ「・・とんでもございません、陛下!わたくしめの言った、ちょちょいなんてことは、ま(まあ)、どうでも良いですので、やっちゃってくだちゃい!」
うわっ、噛んでしまった!
なんてことを・・・このザピエル、一生の不覚!!
ピ「君、頭も面白いけど、おしゃべりも面白いね!よし、ぼくは、ま、どうにか頑張るよ!」
ザ「参りました!!流石は、陛下!!一生、お仕えいたします!」
こうして、私は、陛下にダジャレ対決に負けた。
ふふふふ、こういう忖度をしながら、私のこの王国魔道師首席の座は、誰にも譲らないのだよ、ふふふふふ。
陛下は、私の頭に一瞥をくれると、先代国王が眠る棺の上に手を置いた。
その時だった!
ただでさえ、薄暗い一室に(照明魔法などの弱い魔法は、この部屋には通用しない)、そこだけは眩しく光り輝き、やがて、麗らかな春の日差しを浴びるような心地よく、暖かい温もりが心を満たす。
そう、ふわふわした感じ?
まるで、地面に足を着けず、綿雲の上で
と思っていると、陛下はその光り輝く
やがて、光は収まり、私は周りを見た。すると、皆は
まずい!!
ザピエル、一生の不覚!!
ここは、跪くのが正解だったのか!!
誰か、教えろよ!
と、頭頂を真っ赤にした。
陛下は、おもむろに、我々に告げる。
「ソナタ達、我は、これから覇道を極めんとする者なり!!ソナタ等の全てを我に捧げよ!!」
「おおおおおおーーーーーーー!!!!!!」
ここに居た全員が呼応した。
いや、ただひとり、皆のマネをした忖度だけに生きている者だけは、違った。
そう、私、ザピエルは、皆の者の狂気かつ狂喜の顔を愕然と見つめ、陛下を・・・陛下であったモノを盗み見るのだった。
これが、噂の覚醒というモノか?
いったい、陛下は何に覚醒した?
あのダジャレを愛する陛下はもういないのか?
あの陛下に似たモノは何だ?
皆は、どうなったのだ?
私は、どうしたらいい?
あの剣、アレは人間が手にしてはいけないモノではないのだろうか?
私は、周りの者たちと同じように狂気かつ狂喜した顔を装いながら、必死に思考を巡らした。
この変わってしまった陛下について行くのが得策か、はたまた、他国に出国するのが得策かを!
まだ、即断するのは早いか?
まずは状況分析だ。
情報を集めなければ!
私は、そう決断すると、周りの者と同じような態度、顔色、言葉使いをしつつ、観察するのだった。
~~~~~~~~
ちょうど、ピエールが覚醒した時の事。
ここは、魔王の部屋。
魔王は、アラクネの報告を受けた後、ミーシャと話をしていた。
ミ「お義兄様、わたし、姉の仇を討ちたいんです!行かせてください!」
魔王「ダメだ。オレはターシャに誓ったんだ。もう、決して、誰も死なせないと・・・」
ミ「でもでも、お義兄様!ガートルードは、死にました。あの最強の戦士がですよ。もう、黙って見てるなんて、私にはできません!」
魔王「たしかに、ガートルードは死んだ。しかし、アイツはオレに何の相談もなく、一人で行ってしまった。まだ、あの戦いは前哨戦だったにも関わらずな。おかげで、援軍に精鋭部隊の3分の1を使って、何とか全滅を免れたが、アイツの取った行動は、許されぬことだ」
ミ「ウソですよね、お義兄様。ガートルードが行くのを容認されてましたよね」
魔王「・・・・ああ、確かにオレは、アイツを止めようとはしなかった。アイツの言い分も、アイツの気持ちも痛いほどわかるからだ!アイツは、ずっと、オレに冷静になれと言いながら、自分の心は熱い溶岩のように燃え滾っていた。アイツは、オレの代わりに行ってくれたんだ。そして、アイツは絶対に勝てると自信を持って行ったのだし、オレもアイツを信じていた。アイツがターシャの検死から帰って以来、アイツは魔力を極限まで高めて、アイツの武器の
ミ「お義兄様、たしかにガートルードは勇者に敗れました。でも、それは、正々堂々と戦っての事でしょ。姉さんは、勇者に殺されたんじゃないわ。他の人間よ!私は、それが誰かを突き止めたいだけなの。そして、できれば、勇者とは戦わないで。あの方は悪い人間ではないわ。ねえ、お義兄様!!」
魔王「くどいぞ、ミーシャ!お前のいう事は分かる。でも、もうそんな事を言ってる状況じゃないんだ!」
ミ「わかってるわ。大勢の魔族が死んだわ。私も悲しい。でもね、なんでこんなことをしなくちゃいけないの?お互い、殺し合い、憎み合い、ずっとよ。戦えば戦う程、恨みは増えて、無くならないわ。ねえ、お義兄様なら、戦いを止めることができるんでしょ?」
魔王「・・・オレは・・・・オレは・・うん??」
その時、魔王の持つヴェルギリウスが反応した。
赤い刀身が・・・・発光し、ギチギチと震えている。
魔王は、まだ、この魔剣と話すことができない。
だから、この現象について、知る術はなかった。
~~~~~~
さて、勇者たちは、どうしているかというと・・・。
勇者一行は、有名な帝国ホテルに泊まっていた。
勇者には、ベッドだけがある、使用人が使う様な小さな個室。
聖女たちには、それぞれ、大きなゆったりしたベッドのある部屋と、毎日変わる色とりどりの花々が活けてある大きな花瓶があり多くの靴が収納されている部屋のエントランスと、リクライニングチェアや長くて寝心地の良さそうなソファーのある、高級ティー、ケーキ各種、様々な高級酒が食べ放題、飲み放題で、果物がいつも用意されてあるガラスのテーブルのある部屋とがあり、また、様々な衣装がすでに入っている衣装ダンス、お化粧用の鏡とお化粧用の様々な道具や最新の化粧品が所狭しと並ぶ化粧部屋、大きなキッチン、大きなバス、個人用の露天風呂、ゆったりとしたトイレが完備されているVIP待遇の超スウィートルーム。
そして、朝食、昼食、夕食は彼と彼女らで別。
聖女たちは、朝食後、朝の湯浴みからのエステ・メイクなどのお化粧タイムからの各種の面会、懇談が分単位で決められており、昼食後の湯浴みとエステ・メイクなどからのティータイムに、お茶会、各種施設訪問に、各施術院への治療兼慰問、各種取材に、商人ギルドとの菓子販売や酒類販売、雑貨、化粧品から服飾関係の専属契約、販売上の協賛・後援などの商取引上の話し合い、各種イベントへの招待、夜は夜で、夕刻前の湯浴みに化粧直しから始まり、夜の貴族たちの夜会・舞踏会・パーティーや観劇などの娯楽等、フランツ王国よりも忙しい仕事をこなさないといけなかった。
聖女たちは、なぜか、トーヤに会う事が出来ず、帝国の要請に従って、自分たちの務めを果たしていった。
トーヤは、ヒマなので、いつも外出して、帝国の街を見て回ったりしたが、それも直ぐに止めて、森や空き地で、右手一本で聖剣を扱えるように訓練した。
また、左眼が見えなくても、遠近感を慣らしたり、死角からの攻撃に対処できるように訓練した。
やがて、それに目途がついたことで、聖女たちより先に、フランツ王国へ帰って行った。
しかし、用意されたのは、商人の馬車であり、商人たちと一緒にゆっくりと旅をしながらの帰国となった。
商人たちは、途中の街で商売をしたりするので、トーヤはその間、稽古に勤しんだ。
金は、商人ギルドからなぜか、少しもらえたので、節約しながらも食料は確保できた。
トーヤは、知らなかったが、一部のマニアから勇者の暗黒パンとか勇者の堅パンとか勇者の駄目パンとかがウケていたらしい。
そして、そんな道中でのこと。
ピエール覚醒の時と同じ時間に、トーヤの聖剣も、カタカタと反応し、光を発したのだった。
『アノン、なんだこれは?』
『フランツ王国の方から、禍々しい魔力が伝わってくる。何か、良からぬことが起こったようだぞ』
『何が起こったって?』
『それは具体的には分からんが、どうやら、ワシと同じ何らかの封印された剣が蘇ったようだ』
『なんだと思う?』
『わからん、だが、厄介なモノには違いない』
オレは、フランツ王国へ着いたら、また厄介ごとに巻き込まれるのではないかと警戒をしたのだった。
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