第23話 勇者の力


 あのパーティーの翌日に、オレは、サーヤに手紙を書いた。


『  幼馴染のサーヤへ


 君のことが好きだった。オレは、昔の君のことが好きだった。そして、オレには大切に想う人ができた。だから、婚約を解消しよう。これで、君はオレとの婚約に縛られることなく、自由だ。それから、魔王討伐までは、オレには会わないでほしい。オレは、心が弱い情けない勇者なので、今、君を見ると、心が痛むから。そんなオレだけど、絶対、魔王を倒すから。倒したら、魔王討伐の土産話しをしに、君の所に行きたいな。そのくらいなら、幼馴染のよしみとして、許してくれるだろ。もう、オレの贈った指輪は捨ててくれ。オレも君からもらった指輪を捨てるから。今まで、ありがとう。お幸せに。 

                                トーヤ 』



 それから3、4日経ったころ、サーヤは帰って行った。

 オレの両親もヨハンも帰って行った。

 

 サーヤには会わなくて良かったけど、親父や母さんには会いたかった。

 サーヤからは、結局、手紙すら来なかった。

 もう、そういうことなんだろう。

 これで、完全にさよならだ。


 あの手紙に、また会うとか書いちゃったじゃないか、オレ!

 イタ過ぎるわ!

 こんなに女々しいとは・・あっ!あの手紙、サーヤはアイツに見せてねーだろうな?

 ああ、2人でオレを笑ってる絵が浮かぶ。

 オレ、また勇者の名を落としちまったわ。



 ただ、両親からは手紙が来た。

 アジャ村方面で魔獣が出たので討伐に行くとのことだった。サーヤも一緒らしい。 


 最近、魔獣の出没具合が増えてきているみたいだ。

 これは、魔王の出現時には魔獣の動きが活発化するかららしい。



 そうだとしても、オレは、修練を愚直にやるだけだ。


 そして、オレは、どうやら、成長しているようだ。


 たぶん、最初の身体の耐久力、持続力、筋力等が3倍?は上がっている、と思う。

 これって、勇者の力による成長加速ってヤツなのかな?


 でも、なんか、心にダメージを与えられるほどに強くなっていく感じ?


 そう言えば、心身を追い込んだら能力が上がるって、言ってたっけ?


 まあ、この心のダメージってやつのほとんどは、元婚約者によるものだから、そういう点では、サーヤも婚約者として、オレを支えてくれてた?


 いやいやいや、そんな支え方、いらねーし・・・・まさかな?

 でも、サーヤって、天才だから・・昔から、思考力の次元が違ってたし。


 うう、やっぱり、会って話すべきだったか?

 でも、あの時、何を言われてもウソに聞こえるし、あんなの見せられたら・・・。


 オレって、やっぱ、ウジウジと女々しいや。


 もうサーヤの事を考えるのはやめた!

 バカの考え休むに似たりって、特殊能力が言うので。


 しかし、心身を壊れるほどに追い込まなければならない勇者って?

 マゾ?特殊能力がささやいた。

 マゾ、それは勇者になるためには必要条件なのかもしれないな。


 辛くても、身体が常に悲鳴を上げても、それにくじけず、前を向き、楽しみに変え、勇者の力を手に入れる・・・ヤバい人?(by特殊能力)、特殊能力があるのもヤバいとは思うけどな!


 つまり、何度か限界を突破していかないと、その力は手に入らないという事だろう、たぶん。


 そう考えながら、オレは、とにかく耐える。

 何時間も走り、何時間も素振りをし、何時間も魔法を放ち、スクワットなどをする。

 その間に、何度も倒れようが、何度も救護されようが、続けた。



 そうして、次の段階に移り、オレはようやく、毎日、ルーシーと剣戟けんげきを戦わせるようになった。


 流石に、サーヤとの時と同じで、剣技は向こうの方が上だ。

 だが、オレの今までの基礎体力の底上げで、技術を使いこなす身体が出来上がって来た。

 剣技には力とスピードの向上が必須。

 力は、勇者補正で強化され、元々もともとの力と相まって良い感じになってきたが、スピードは強化されても、もともとが遅ければ上がり方も少ない。

 というか、スピードは確かに上がっているのだが、多少の強化程度では天才たちのスキルによるものと思われるスピードには劣る。


 剣技は当たってナンボだから、スピードは最優先強化項目だ。



 ル「こい!」

 ト「はっ!!」


 オレの剣先がルーシーの大きな胸を突いたと思ったが、それは残像だった。

 あっさり回り込まれて剣のつかの部分を叩かれる。


 ト「うぐっ!」

 ル「まだ、スピードが甘いようね。素振りとダッシュをもう少し多めにメニューに追加しなくちゃね」


 基礎訓練が終わると、聖剣の扱いに慣れるため、木刀ではなく、聖剣を抜き身で振ったりもするようになった。


 今日も、俺は聖剣を鞘から抜いた。


 前から試してみたかったこと、小さい頃からやってきたことをやってみる。

 オレは、魔力を練り、聖剣に魔力を込めた。

 すると俺の魔力がどんどん吸い取られていった。


 そして俺の魔力は枯渇した。

 救護所で回復させていると、寝ている横に置いていた聖剣の声?が心に届いた。


 『この刀はグラディウスと言う、鞘から抜き放つ時、この名をとなえよ。』


 心の中に、この刀の思念?が流れ込む。

 その時、これまでの勇者たちの戦いの映像の断片がフラッシュカードの様に、一瞬だけ見えた。


 その中で、なぜか心に刻まれた映像が何点かあった。

 アレが、オレにもできるというのか?


 オレは、この時、確かに新たな目標が生まれたことを感じた。



 オレは、聖剣の言うように、グラディウスと念じて魔力を込めた。

 すると、白刃が青いオーラを纏い、ブーーンといかずちが帯電しているように感じた(特殊能力は電気って言ったけど・・わからんし・・近いモノって、雷?らしい・・帯電って言ってるけどねw)。


 今まであんなに重かった聖剣が軽い。

 聖剣から、オレに力が入ってくる。


 うん?

 それとともに、技のイメージが次々と流れ込んでくる。

 これは?


 オレは、剣を振った。

 うん?


 オレは、走りながら剣を振るってみた。

 うん?


 速くないか、オレの剣速?

 目を強化しないと、見切れないというか、見えない?


 その時、木の葉がひとひら、舞い降りてきた。

 オレは、それを無意識に叩き切った。


 木の葉は、何事もなかったかのようにユラユラと落ちて、オレの手のひらの上に乗った。

 すると、すぅーと、二つに分かれた。

 切れた!

 しかも、木の葉の動きを捉えただけでなく、その動きを邪魔せずに、切った・・切れた・・・。


 この時、オレは、確かに、剣の極意をつかんだと思った。


 それから、いろいろな身体の動きからの斬撃を試みたり、斬撃波というか、剣戟の速度と強度から生じる衝撃波を放てるようになった。

 さらに、それに魔力を上乗せして・・・など、いろいろと試すのだった。


 これが聖剣のホントのチカラか?


 オレは、まだ、その時はその程度の認識しか持てなかった。


 とにかく、これを使いこなそう、そう、その時、誓ったのだった。

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