第18話 学園防衛戦 その2
頭上には重苦しい曇天、足元には湖が広がっている。
学園から数キロ離れた空を、ぼくは箒にまたがって飛んでいた。
かなりの高度だが、以前に買った能力のおかげで、寒さも息苦しさも感じない。
しばらく飛ぶと、前方に無数の黒い影を発見した。
「あれか……」
ぼくと同じように箒にまたがった黒ローブの魔術師たち。
間違いない。汽車を襲ったのと同じ連中だ。
だがその数が尋常ではない。
目視では到底数えきれないほどだ。
あれだけの数の魔術師たちに空から襲われたら、学園はひとたまりもない。
ぼくは戦闘の覚悟を固めると、ステルスを解除した。
透明化していたぼくと魔導人形の飛行編隊の姿があらわになる。
直後、ぼくは空中でテロリストたちと交差した。
「な、どこから現れた!?」
「なんて数だ……! 探知魔術には映っていなかったぞ!」
敵が慌てたように急旋回し、ぼくたちを追いかけてくる。
ぼくが跨ったこのハイマット・ブルーム(第五世代ステルス戦闘箒)には、いくつもの先進的な魔術機構が装備されている。
敵の探知魔術の一切を無効化するミラージュステルスもそのひとつだ。
「撃墜しろ!」
テロリストたちが構えた杖から、一斉に魔術を放つ。
いくつもの殺傷魔術が宙を斬り裂き、問答無用にぼくを集中砲火した。
だが次の瞬間、そのすべてがあさっての方向に捻じ曲げられた。
「なっ、なにぃ!?」
全方位型魔術偏向力場・イージスフィールド。
ハイマット・ブルームに搭載された魔術機構のひとつ。あらゆる魔術を跳ね返し、無力化する。その機能は箒に乗った魔術師が気絶してもなお自動的に起動し続ける。
その間に、箒に乗った魔導人形が次々と敵魔術師と交戦していく。
最新鋭のスペックを誇る魔導人形は、テロリストたちにもまったく引けを取らなかった。空中で自在に箒を操り、敵を撃墜していく。
「くそっ……!? 指揮をしている人間がいる! 奴を狙え!」
攻撃の波を縫い、テロリストたちが一斉にぼくを狙い始めた。
一対多数では、当然分が悪い。
これだけの対象を同時に補足しながら魔術を詠唱するのは、至難の業だ。
だがハイマット・ブルームの魔術管制システムをもってすれば、視界に映るすべての敵を同時に照準することも容易い。
ハイマット・ブルームの後部先端が広がる。
そこから無数の藁が放射状に射出された。
吹けば飛びそうな頼りない藁は、その一本一本が魔力を帯びて発光し、鋭い軌跡を描きながらテロリストたちを追尾する。
「ひっ……!?」
速度を上げて逃げようとするが、藁は執拗に追跡し、テロリストを直撃した。
雷のような発光が広がり、テロリストが落下していく。
同様の光景が、一瞬にして数十は繰り広げられた。
マイクロストローランチャー――ハイマット・ブルームの箒後部に備えられた藁は、その一本一本が簡易的な魔術触媒として機能する。しかもあらかじめ十分な魔力を蓄積されており、自動での飛行、追跡、対象物の破壊が可能だ。
「や、奴をなんとしてでも殺せ……!」
一瞬にして半分ほどの仲間を無力化されたテロリストたちが血眼になって叫ぶ。
ぼくは向かってくる彼らを迎え撃つように、空中で静止した。
後ろの藁とは逆、箒の首が大きく変形し開放される。
そこに、ひとつの砲門が出現した。
「よし、使えるな。マギアスカノン!」
ハイマット・ブルームの先端の砲門から、巨大な青白い柱が宙を貫いた。
箒の首の方向をゆっくりと横に動かし、光で一帯を薙ぎ払う。
ハイマット・ブルームに搭載された最大火力の魔術機構であり主砲。
その威力は持ち主の魔力に呼応し、限界なく火力を向上させることができる。
ぼくが跨ったこのハイマット・ブルームは、アルテマ・ロッドや終焉のローブに並ぶ、この世界最強装備のひとつだ。
ちなみにぼくが放った一連の魔術攻撃は、その見た目に反して、すべて威力を非殺傷のレベルまで抑えている。
わずかに残った敵を、魔導人形たちが容赦なく追い込んでいく。
「っ……て、撤退だ! 撤退しろっ……!」
見渡すと、幸運にも射線から逃れたテロリストの残党が、慌てて学園とは反対の方向に逃げていくのが見えた。
「よかった……これで学園に被害は出ない」
▼クラスが第10ランク【神代の魔術師】
第13ランク【大賢者】に変化しました
敵の完全撤退を目視で確認。
ぼくは無傷の魔導人形たちとともに、箒の首を翻して学園に帰還した。
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