悪いけど、この魔術はぼく専用なんだ ~主人公じゃない脇役貴族は世界最大の財力で魔術世界を成り上がる~

来生 直紀

第1話 オネス・リバーボーン

 

 あなたは「金持ちキャラ」に、どんなイメージがあるだろうか?



 物語フィクションにおいて、金持ちキャラは非常に数多く登場する。

 それこそ神話の時代から現在に至るまで、古今東西幅広い。

 恋愛ものでも、ミステリーでも、あるいは架空世界のファンタジーでも、ジャンルを問わず数多の物語のなかで、数多の金持ちキャラが生み出されてきた。


 金持ちキャラは豪邸に住む。

 広大な敷地に建てられた城のようなお屋敷で暮らし、やたら長い机の両端に座って豪勢な料理を毎日のように口にする。


 金持ちキャラには付き人がいる。

 メイド、もしくは執事が身の回りのありとあらゆることの世話をする。


 金持ちキャラは英才教育を施される。

 幼い頃から楽器やら乗馬やらを習い、有能な家庭教師たちから、様々な学問や果ては帝王学すらも教わる。


 金持ちキャラは非常識である。

 優雅な生活を送る一方、庶民なら誰でも知っていることを知らず、庶民の食べ物を一度も口にしたことがない。


 金持ちキャラは金銭感覚が狂っている。

 とんでもなく高価な買い物をその場で現金買いし、ときには金で平然と相手を買収し、あるいは万札で汗を拭く。

 

 金持ちキャラには許嫁がいる。

 幼い頃から親の決めた婚約者がいて、その婚約相手もまた金持ちであり、生まれる前から家の都合で決められている。だがそれは当人たち(あるいは片方のみ)は望んでいない。


 ……と、まあこんなところが金持ちキャラのイメージだろうか。

 ちょっと、いやだいぶ変わったところはありつつも、悪いことばかりではない。

 むしろ彼らがその世界で、その圧倒的なアドバンテージを活かして優雅な人生を送ることは、想像に難くないだろう。


 

 だが、本題はここからだ。



 こと「」においては、金持ちキャラは決して恵まれてはいない。

 むしろ金持ちキャラは、不遇の存在といってもいいだろう。


 そもそも金持ちキャラは、主人公になることはあまり多くない。

 なぜか?


 これまで述べてきたように、金持ちというのは大衆とはかけ離れた存在だ。

 特権階級や権力の象徴といってもいい。

 しかしそれゆえに、彼ら彼女らは、大衆から共感を抱かれにくい。


 もっとはっきり言えば……あまり応援したくない。


 物語を享受する大衆が求めるのは、自分が感情移入しやすい主人公。

 その対極にあるのが、金持ちキャラといってもいい。


 そういうわけで、物語における金持ちキャラのポジションは極めて微妙だ。


 まず、主人公の友人ポジションキャラ。

 これはだいぶマシなほうだろう。

 特に女の子たちのゆるりとした日常をきらきらと描く系の物語では、グループの中にひとり金持ちキャラがいると、別荘に行く話がしやすかったり、劇場版で海外にも行きやすい。

 

 次に、主人公の宿敵的なライバルポジション。

 これもだいぶいいパターンだろう。

 上手くいけば、主人公と並ぶ人気キャラの座もワンチャン狙える。

 だが、それらはごくごく限られた金持ちキャラだけだ。


 金持ちキャラの最も多いパターン――それは憎まれヘイト役だ。

 

 性格は捻じ曲がり、性根は腐り、平気で他者を見下す傲慢な独裁者。

 金にものを言わせ悪事を働き、親の権力を笠に着てやりたい放題。

 

 そういったヘイト役の金持ちキャラが最終的にどんな目に遭うか?

 主人公の手痛い反撃を受けてその地位を失墜したり、あるいは恋愛ものであれば、主人公に意中のヒロインを奪われ、去っていく負け犬となる。


 ほかのパターンとして、かませキャラも多い。

 バトルものでは、大概は主人公こそが能力的には最強だ。

 主人公は最初こそ落ちこぼれとされているが、実は才能や血筋に恵まれていて、話が進むにつれてやがてそれらが開花していき、最終的にはトップクラスに上り詰める運命にある。

 それに比べて金持ちキャラは、環境こそ恵まれているものの、秘めた才能や潜在能力では主人公には遠く及ばないことがしばしばだ。

 

 そのくせ、エリートという立場から主人公を見下し、調子に乗って物語のメインヒロインにちょっかいを出すが、結局は主人公にやられる……というのが王道パターンだ。せいぜい序盤で主人公をちょっと苦しめる程度が関の山だ。


 おわかりいただけただろうか?

 物語は金持ちキャラに厳しいのである。


 いったいこれまで何人の金持ちキャラが、主人公を引き立てるために犠牲になったことだ。彼らはただ、金持ちという星の下に生まれただけだというのに。


 現実においてはメリットばかりだが、ことフィクションという枠組みの中においてのカーストは、むしろ下の方のあるといってもいい。


 物語的に優遇されるのは、金よりも才能。

 金よりも愛情。

 金よりも運命。

 それが物語の不文律である。

 ――まあ、金持ちキャラの扱いは、べつにそれだって一向に構わない。



 



 見知らぬ駅のプラットフォームで、ぼくは汽車の窓ガラスに映っている自分の姿を見つめながら愕然と立ち尽くしていた。


 極端に長い前髪。低い身長。

 いかにもお坊ちゃんという仕立てのいい洋服。

 物語の主人公らしからぬ風貌のその少年、それは――



「どうして……ぼくがオネスなんだぁ~~~~~~!!?」



 オネス・リバーボーン。

 超金持ち貴族のボンボンであり、魔術の才能はからっきしない脇役キャラ。

 ウィザアカの主人公ではなく、主人公に嫌がらせをするかませ役。



 これはやがて偉大な英雄に至る主人公の物語――――

 


 ではない。

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