第2話 出会い

まあばあちゃんは今日もシルバーカーでお出かけです。2月だというのに陽射しはとても暖かで、うつらうつらしたくなるような気持ち良さです。


少し行くと小さな児童公園があります。子供たちのはしゃぐ声につられて、まあばあちゃんは一休みすることにしました。


子供たちの声は心地よくお日様は暖かく、本当に気持ちの良い日です。まあばあちゃんはシルバーカーからひざ掛けを取り出して小さな体にすっぽり覆うようにかけると、こっくりこっくり居眠りしだしました。


すると、


まあばあちゃんの手を小さな冷たい手が握ってきました。まあばあちゃんがハッとしてみると小さな冷たい手はアカギレだらけでした。ぽっくり割れているところがいくつもあります。


5才か6才くらいでしょうか。子どもにすればやせ気味の女の子でした。顔も服もあまり清潔な感じではありません。今日は暖かいとはいえ、2月なのにTシャツ姿です。びっくりしたけれど、顔には出さず優しく聞きました。


「どうしたの? お名前なんて言うの?」


尋ねても、女の子は首を左右に振るだけでした。


「おうちどこなの?」


そう聞いても、やっぱりブンブン首を振るだけです。


風が少し冷たくなってきました。それはそうです。暖かいって言っても、2月ですものね。冬ですものね。


滅多に雪など降る土地ではないけれど、やっぱり夕暮れ近くになると寒さが身に沁みます。公園にいた子どもはもう誰一人いません。


「ここにお入り」


まあばあちゃんはそっと肩掛けを広げて女の子を抱っこすると、女の子は、やっと口をききました。


「暖かーい」


女の子は嬉しそうに小さく笑いました。まばあちゃんはいじらしくなって力いっぱい抱きしめました。


まあばあちゃんの娘時代。太平洋戦争(第2次世界大戦)という大きな戦争があって、この女の子ような子ども達がいっぱいいました。薄着でお腹を空かせていて、どこか悲しそうな眼をした子がいっぱい。


まあばあちゃんの頭の中は、その頃のことが走馬灯のように巡ります。でも、今の世の中に、あの戦争の頃のような子どもがいてはいけないのです。


でも、まあばあちゃんの胸の中にいる子は、あの恐ろしい時代からやって来たような女の子です。薄汚れてすっかり色を無くした運動靴。いつ洗濯してもらったのか分からないようなお洋服。まあばあちゃんは心配で胸がキュッとなります。


「おなかすいてない?」


「うん」


力のない声です。


「おばあちゃんのおしりの下にパンを入れてるのよ。ちょっとごめんね」


まあばあちゃんは女の子をよっこいしょ、と膝から降ろすと、シルバーカーの中からパンを取り出して女の子に渡しました。


「もっと早い時間だったら、おばあちゃんも一緒に食べたかったんだけど、今日は持って帰っておあがり。ね?」


「おばあちゃん、有り難う」


女の子は肩掛けにくるまって、深く頭を下げると走って帰っていきました。


「ありがとう!」


女の子は振り返ると、もう一度まあばあちゃんにお礼を言って、大きく手を振りました。まあばあちゃんも振り返しました。まあばあちゃん女の子の後ろ姿をいつまでもいつまでも見送っていました。

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