第4話 優しい人にはなれなかった
誰かを助ける優しい人になりたかった。
だって、それは物語の主人公の絶対条件だったから。
一度しかない人生なら、誰かを傷つける悪者じゃなくて、誰かを助ける正義のヒーローが良いに決まっている。
そう思って、生きてきたけど、気が付いたらヒーローに助けてほしい人になっていた。助けて!ヒーロー!って言ってる側になっていた。
「ふーん…人生って上手くいかないんだね」
ロリちゃんは、ポリポリと音を立てながら、ポッキーを食べている。
今日は、ふわふわの金髪の髪をふたつに結ってある。これはツインテールってやつだ。ん~かわいい。
「おじさん…お茶」
はいはい。
優しいとねーその優しさに甘えようとする人がいるんだよ。
甘える人がさ、大事な人だったら別に良いと思うけど。
現実は、嫌いな人も甘えてくるから。
そして、そういう人ほど厚かましいからね。
そういう人に優しくできるほど、大きい器だったらよかったけどね。
私はそうじゃなかった。
自分の人生が上手くいかないと、世の中の不条理なことに怒りを感じてしまう。
そんな自分に、さらに自己嫌悪し、気が付けば動けなくなってった。
【生きてるだけで、誰かを傷つけてる】
「なぁに、それ」
うん。人生を生きていくための処世術。いま編み出した。
「うっすいなー」
薄くて、いいんだよ。
私の知ってる主人公たちはさ、誰からも、世界からも愛されてるんだ。
主人公のことが、嫌いな人達はどうしようもない悪者ばかりさ。
主人公たちにコテンパンに成敗される悪役。
でも、それって歪んでるなって最近、思ったんだ。
物語はフィクションだから、そういう表現するのは自由だけど。
……現実はそんなことはない。
自分が正義で、嫌いな人が悪なんて、そんな都合が良いことなんてほとんどない。
嫌いな人は悪者で犯罪者かっていうと。
現実は残念なことに、違うよね。
自分のこと嫌いな人達だって、ほとんどが犯罪を犯してない一般人だ。
でも、物語に浸っていた若い頃の私は、誰かを嫌うことも、嫌われることもどうしようもなく悲しかった。
全ての人から愛されない私は、主人公になれないんだと思っていた。
若い私はどうしても誰からも愛される正義の主人公になりたかった。
だから嫌いな人にも一生懸命好かれる努力をしたし、好きになろうとした。
嫌いな人から、馬鹿にされるたびに、無下にされるたびに、自尊心がズタズタになった。自分になにか落ち度があったんだろうと思った。
「えー…それは…」
違うよね。
今なら、若い頃の自分に言ってあげられるのになーって思う。嫌いな奴に優しくするなってね…!
「うん。そうだよ」
結局、私はどう頑張っても、嫌いな人のこと好きになれなかったし、一秒だって顔も見たくないと思った。
誰かを嫌いになるってことを認めないと息が詰まるって、最近気づいた。
だから、私は誰かを嫌うし、私も誰かから嫌われてる。おあいこってやつだ。
でも、それが正常なんだと、今はそう思う。
「うーん…なんてゆーかぁ。好きに生きなよ。もうおじさんなんだからさぁ。人生、思ってるより短いよ」
それな!
あと、私が若い頃に見た、厚かましい中年の人の気持ちがわかる。
「そうなの?」
うん。年を取るのも悪くないって、思うよ。だって、いまが一番、息がしやすいから。
「へー…ま、よかったじゃん」
優しさは有限!限りある優しさは、大事な人にとっときな!
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