転生王女殿下の冒険譚

北の丸

序章 硝子の王国

第1話 プロローグ 召喚

 ――王女なんて身分はそんなにいいものでもないです。


 え?贅沢な悩みですか?たしかにそうかも知れません。多くの兵士に守られ、美しいドレスを着て、食べ物にも困らず、毎日華麗な日々の生活が出来るのに。と誰もが羨むのかも知れません。

でもそれは国が平和を保ち続けなければなりません。その為には他国へ、その身を捧げる事もありましょう。ただ、滅びる時は己の責務をもって露と消える覚悟も必要なのです。


                ◆ ◆ ◆



 メルディア大陸――多種多様な種族がひしめき合う広大な大陸。


 一時期、この世界は未曾有の危機に瀕していた。約五百年前に異世界の勇者によって討ち果たされ、封印された魔神が再び開いた次元の狭間より現れて復活したのだ。


 その影響は大陸中に数多くいる魔物の力を跳ね上げ、各地に今までにない甚大な被害をもたらしていた。また、一部の魔物を従える魔族や獣人でさえ襲われる始末であった。

 このような状況下では、国や種族などでいがみ合っている場合ではなく、大陸北西にある大国タリア帝国で主要九か国による円卓会議が開かれ、この危機に際し各国が連合を組んで討伐軍を打ち立てるも、徐々に狂暴になっていく魔物の数に圧倒され防衛で手一杯になり、魔神討伐どころの話しではなかった。



 そんな中、大陸中央に位置するアシタール共和国に女神イシュラによって召喚された異世界の勇者アキラ・エンジョウジが現れた。当初の内はあまり力がなく、他国の王達は懐疑的に見ていたが、半年も経たないうちに頭角を現し始め、数々の魔物退治などで名を上げ、その最たる件が大陸最大のウルスラ火山に住まう火竜を打倒し秘宝[火の心臓]を手に入れた事だった。



 この一件が各国を動かし、勇者アキラには多大な援助が入るようになり、大陸最北に突如現れた禍々しい城の中に鎮座する魔神を討つ為、道中に立ちふさがる膨大な魔物の群れを種族を超えた連合軍が多大な犠牲を払いつつも道を切り開き、勇者パーティーを送り込んだ結果、

 次元の狭間より現れし魔神は彼と、彼の仲間によって打倒された。そして、大陸の新たな勇者として大陸中の人々から大いに称えられる事となったのである。



                ◇ ◇ ◇



 魔神討伐から一年後、アシタールの姫君エリーシャ王女を伴侶に迎えた勇者アキラは同年、アシタール国王アウルス三世から王位を禅譲され第十代アシタール国王となった頃から世界は再び大きく揺らぎ始める。


 討伐戦終了後、場所をアシタール共和国に変え再び開かれた九か国円卓会議にて、戦勝記念日制定などの話し合いの場でその場に来ていた勇者アキラが放った言葉に、各国の外交官達が驚愕し、困惑した。


 「魔神討伐の際、軍勢を出してくれたのは有難かったけど、各国の連携がバラバラで正直、足手まとい以外なにものでもなかった。消極的な国もあったしね。」

いくつかの国の外交官が額の汗をぬぐう。


「なので指揮系統を一本化する為、アシタールを盟主に統一国家の樹立を確立しようと思う。各国には協力してもらいたいんだ。」



なんて事はない、圧倒的な力を背景にした体のいい世界征服宣言のようなものだ。



 当然のことながら、他の八か国は反発。アシタールの真南の隣国、ロベルタ王国は一早く戦時体制に移行後アシタールに宣戦布告。ドワーフ族を多く抱える技術大国であるロベルタは勇者一人に頼るアシタールなど、すぐに落とせると高をくくっていたが逆に僅か一週間で首都レバンドを落とされ、降伏。アシタールの西側のノイストール国は勇者の大魔法を連発する姿を見て恐怖し、すぐに臣従を申し出た。



 勇者アキラの宣言からひと月で大陸東南のミルサリア国、ノイストールの南に位置するレスホーン共和国の二か国がアシタールに臣従を宣言した。

この時点ですでに四か国がアシタールの傘下に収まり、残りの四か国の動向が注目された。


 そして、旧ロベルタとミルサリアに挟まれた形になっているエスペローゼ王国にもアシタールの影が迫って来ていた。



                ◆ ◆ ◆



―――さて、このような事態に愚痴を言っても詮無き事。さあ、行きましょうか、己が責務を全うする為に。





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