第47話 狩りのまとめと反省会


 私達が行った場所は冒険者が肩慣らしに通う程度の地下遺跡だった。


 地下への入り口の前で合流したクラウスは焦ったように護衛の騎士を振り切って先に進んでいく。

 遺跡に沸いたゴブリン達をクラウスが持つ白い弓から放たれる光の矢で一掃していく中、途中で微妙に可愛くない灰色の雛と出会いつつ当初予定していた目的の場所へとたどり着いた。


 そこの隠し通路でクラウスが冒険者の遺体を浄化した際、魔力を大きく消費したクラウスが戦闘不能に陥るのと同時に、床が崩れてゴブリンや死霊達に囲まれてしまった。


 セリアに庇ってもらう中でクラウスにハグと――キスをしてもらって魔力を注いでもらって神器を使って魔物を殲滅したり、見様見真似の回復魔法を使ったりしたけど、そこに援軍の不死者達が追い打ちをかけてきて、魔力も尽きてしまって大ピンチ……! という所でダグラスさんが現れて、そこから先はダグラスさんの独擅場。


 脅されたり名前をからかわれたりしながら難なく遺跡の奥に辿り着き、大量の不死者達と不死者を操る死霊王リッチ相手に散々煽ったあげく楽々と倒して、死霊王が持っていた本を強奪してしまった。


 ダグラスさんが持ってきた情報については、この世界から地球に帰った人間はいないけど、30年以上前にツヴェルフ達がル・ターシュという星に転送されたという文献を見つけた事。そのツヴェルフ達の中には、地球出身のツヴェルフもいるらしい。


 その転送がきっかけで隠れてしまったル・ターシュには星間移動装置があり、そこから地球に帰った可能性はある――という事を優里とソフィアに話す。


 後は全裸になられたり、服も体も丸ごと洗われたり、ダグラスさんの使い魔の黒猫の撫で心地が最高だったりした事を感情をこめて話すと、2人は驚愕と同情が入り混じった表情で、私をすごく労ってくれた。


 ダグラスさんのお父さんがクラウスにかけたという<午前中しか動けない呪い>については今この場で2人に話す事ではないような気がして、言わなかった。


 こうして狩りの最中に起きたモヤモヤや疑問を吐き出し、大分スッキリした所で2人の狩りはどうだったのか聞きたくなり、両手を組んでその上に顔を乗せて2人の顔を交互にみやる。


「二人は大丈夫? 怪我とかしなかった?」


 私の質問に、ソフィアは思い出したくない物を思い出したような嫌悪の表情を浮かべる。


「グロい光景こそ見せつけられたけれど、幸い傷1つ負わなかったわ」

「私は、その、気持ち悪いシーンとかも見なかったです。レオナルドさんの剣から放たれる雷で、魔物が皆黒焦げになる位で……」

「魔物が焦げたら変な臭いの一つや二つするでしょ?」


 黒焦げのゴブリンなんか見るからに気持ち悪いし、ゾンビ焦がしたらそれはそれで嫌な臭いが立ち込めてきそうだ。


「私の狩り場所は湖で……魚や貝っぽい魔物ばかりだったので、どちらかと言うと焦げ臭さよりちょっと美味しそうな臭いが……」

「こっちは陰鬱な森だったけど、貴方に比べれば全然平和に終わったわ」


 2人の魔物狩りはメアリーが言っていたような、本当に親交を深める為の狩りだったようだ。

 正直とても羨ましい。でもあんな危険な状況を2人に味わってほしくない。私がハズレくじ引いて良かったのだと思う事にした。


「そう言えば途中でリチャードが花畑見つけて、ここにソフィア様が好きな花に似た花があればとか言ってたけど……貴方、リチャードに余計な事言ったわね?」

「ごめん。迷惑だったなら謝るわ」


 ソフィアの鋭い眼差しに反射的に謝ると深い溜め息がかえってくる。


「聞かれたら教えてあげたくなる気持ちは分からないでもないから、貸しにしておくわ。今後は気を付けてね? 皆、リチャードみたいなお人好しだとは限らないんだから」


 ソフィアの呆れ声に大袈裟に頷く。(好きな花教えた位で……?)とは思ったけれど確かに悪用される可能性は考えていなかった。

 何だか今日は反省ばかりしている気がする。しかも借りばかり作ってる気もする。


「で、貴方が持ってきた話に戻るけど……地球に直接帰った人はいないけど、別の星に行ってそこから星間移動装置を使って帰った人はいるかもしれない……ってのはどう思う?ユーリ」

「……ここを見てください」


 優里がノートに書き記した物語のページを開き、ある文章を指でなぞる。


 女の子はお友達と一緒に光の船に乗って帰る事にしました。


 月より大きい青白い星の下、大きな塔の上で女の子は神様にお願いしました。


「この部分……光の船に乗る前にお友達と一緒に神様にお願いしてます。そのお願いが複数のツヴェルフとル・ターシュに行きたい……だとしたら辻褄を合わせる事が出来ます」


 また、物語と一致する。本人の情報こそまだつかめていないけれど、ここまできたらもうこの物語はこの世界の出来事なのだ、と思ってもいいだろう。


「私、思うのだけど……この物語に出てくる神様って何者なの? ここに来てから神様になんて会った事ないのだけど」


 ソフィアが神様、の単語を人指し指で叩きながら呟く。


 この世界に神様がいるかどうか分からない。だけど、ユミさんの物語では誰かを神様に例えてるような感じがする。

 この世界に招いて、他の星に飛ばしてくれた神様とくれば――


「……当時の神官長の事じゃない? ほら、大きな塔を使ってツヴェルフを召喚、転送できる人間なんて神官長位しかいなさそうだし」

「40年前の神官長がツヴェルフの異世界転送に力を貸してくれたって事?」


 私の推測にソフィアが重ねるように質問する。


「どういう理由で転送したのかは分からないけど、少なくともツヴェルフ達があの塔から別の星に行ったのなら飛ばした人間がいるのは間違いない……そう考えれば当時の神官長位しか思いつかなくない?」

「なるほどね……だとしたら、神官長かネーヴェに聞けば何か掴めそうね。ただ、聞き方は工夫しないと……何故そんな事を聞くのかと怪しまれてしまいそうだわ」

「でもどの道、私達がその星に飛ぶ為にはあの大きな塔と術者の協力が必要って事になるんですよね? 神官長のように術に長けてて星に飛ばせる位凄い魔力持ってる人の協力が……」


 その条件に一致しそうな人は3人思い当たる。


「私達を召喚した神官長、その神官長の補佐ができるダグラスさん、ネーヴェも召喚の儀式を見ていたらしいから、召喚が使える可能性はあるわ」

「その3人の誰かの協力を仰ぐ必要がある訳ね」

「そう。でもダグラスさんは私が条件飲まないと協力しないだろうし、むしろ邪魔してくる可能性が高いわ」


 そう言う意味では彼は除外するべきだろう。


「でも、貴方があの男の機嫌とりながら子ども2人産めば2年位で帰れるのよね? さっきの貸しとして、その辺の覚悟だけしておいてくれない?」

「そこで貸し持ってくるとか酷くない?好きな花バラした代償にしてはデカすぎない?」


 冗談めかして笑うソフィアに勘弁してよと肩を竦めて笑い返してみせるものの、話を聞いていた優里は真剣に考えこみ、呟く。


「でもあの人……怖い魔法使って人閉じ込めてましたし……実際、邪魔してきたら困りますよね……」


 真面目な顔でそう言われると、真剣に考えざるを得ない。


「もし、邪魔されたら……私が帰る事を諦めれば2人は見逃してくれるんじゃないかな? その辺の覚悟で勘弁してくれない?」


 自分で言ってはみたものの、果たして本当に見逃してくれるだろうか? と疑問がよぎる。

 もし仮に私がダグラスさんの条件を飲む代わりに2人が地球に帰るのを助けてほしいと言ったら、あの人はどう出るだろう?


 喜んで協力してくれるか、あるいは複数の有力貴族が待ち望む希少なツヴェルフを2人も失う訳にはいかない、と邪魔されるか、それともどちらの顔も立てる為にあくまで『邪魔はしない』という中立の立場を取るのか――


 ダグラスさんが手を出してこないだけでも大分助かる気がするけど、他の有力貴族――特にセレンディバイト家と肩を並べる6大公爵家はどれ位強いんだろう?

 ダグラスさんやクラウスと同じように<神器>を持っている彼らに阻まれたら――


「そんなの、駄目です……! 皆で帰りましょう!」


 呟いた後に私が考え込んでしまったからか、優里の力強い否定の声で現実に引き戻される。


「私は正直そっちの覚悟もしておいてほしいわ。だけど悲劇のヒロイン気取られても寝覚めが悪いの。諦めないで、行けるところまでは一緒に行きましょうよ。優里の言う通り、皆で帰れるならそれが一番いいのだし」


 ソフィアの率直ながらも温かい言葉にも励まされ、目に涙がこみ上げてきそうになる。

 そして改めて、あんな人に目を付けられてしまった自分の不運を呪った。


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