10話。進化する究極の聖剣を手に入れる

 ボクは全身の力が抜けて、大地に仰向けに倒れた。

 身体が言うことを聞かない。

 生命力(HP)を限界近くまで削った上に、体力もすべて使い果たしてしまった。


「ルカ様! ルカ様!」


 聖騎士の女の子たちが、泣きながらボクの周りに駆け寄ってくる。


 まさか【滅龍聖矢(ゲオルギウス)】が、ここまで体力を消耗するとは思わなかった。


 連発ができない以上、ボクひとりでこれを使っていたら敗北していたに違いない。

 まさに、みんなで掴み取った勝利だった。


 見れば総大将を失った魔王軍は、潰走をはじめていた。


 今の一撃は魔竜王だけでなく、数万の魔物も消し飛ばし、奴らに大打撃を与えていた。

 そのバカげた威力を目の当たりにして、奴らは完全に戦意を失ったようだ。


 都市の城壁の上からは歓声が上がり、ボクを讃える人々の声が鳴り響いていた。


「か、回復魔法! ありったけの回復魔法をルカ姫様にかけるのだ! 急げ!」


 エリザがボクを抱き起こしながら、全魔力を絞り尽くすような勢いで、回復魔法をかけてくれる。


 身体の芯が温かくなって、とても心地良い。なんだか眠くなってくるな。

 もう気を張る必要もない。安心して休もう……

 おやすみなさい。


「だ、駄目です! 目を、目を開けて下さい! ルカ姫様!」


 だが、エリザに身体を揺さぶられて、むりやり起こされる。

 ちょ、ちょっと、なんだ……?


「あなたのような素晴らしいお方を、エリザは絶対に死なせません! どうか戻ってきてください!」


「女神様! 私の命を代りに捧げます。だから、どうかルカ様を連れて行かないで!」


「ルカ様のおかげで、誰ひとり死ぬことなく、私たちは大勝利を収めたんですよ! この奇跡の代償が、ルカ様の命だなんて……あんまりです!」

 

 女の子たちが、地面を叩きながら泣きじゃくっている。

 みんなボクが死ぬんじゃないかと勘違いしたようだ。


「……だ、だいじょうぶ……少し休むだけだって」


 まぶたが重くてたまらない。

 なんとか力を振り絞って、無事であることを伝えた。


「「「ルカ様……」」」


 なにか痛ましい感じになってしまったようで、逆に女の子たちは表情を強張らせた。


 みんなには悪いが、今は、とにかく5分でも良いから眠りたい。

 だが、まぶたを閉じようとすると「姫様ぁああ!」と、エリザが全力で阻止してくる。

 

 いや、もう本当にかんべんして欲しい。


『見事です。ルカよ。あなたの気高い心。あなたを守り抜こうとする仲間たちの真摯な想い。見届けさせていただきました』


 その時、凛とした荘厳な気配をまとった声が響いた。

 目もくらむような強い光が天に満ちる。輝きの中から、6つの翼を背にはやした金髪の美女が現れた。


「女神ネーノイス様!?」


 それは神殿の宗教画で見慣れた女神の姿、そのものだった。

 まるで白昼夢を見ているような非現実感。

 女神が起こした奇跡だろうか。空になっていた体力が戻ってきて、ボクは自力で身を起こすことができた。


「ル、ルカ様……!」

「姫様が生き返った!」


 エリザと聖騎士たちが、感涙に息を呑む。

 いや、死んでないって。


「ごめん、みんな心配をかけた。でも、誤解というか。騒ぎすぎだぞ。ホントに大丈夫だから……」


 台詞の途中で、エリザがボクを愛おしそうに抱きしめてくる。彼女は、嗚咽を漏らしていた。


 どうして良いかわからず、ボクは頬をかく。


『ルカよ。あなたこそ、真の勇者と呼ぶにふさわしき者。さあ、これを受け取りなさい。究極の聖剣【スター・オブ・シェラネオーネ】を』


 究極の聖剣?

 女神様がボクに手渡したのは、みすぼらしい剣の柄の部分だった。

 刀身はなく、これが剣などと言われても困惑してしまう。


「女神様……これは、一体?」


 そもそもイルティアに変身しているだけのボクが真の勇者というのがおかしい。

 勇者は代々、女神の血を引くアルビオン王家の者が選ばれる。


「究極の聖剣の刃は、人々の願いの結晶です。あなたを応援する人の数と、その想いの強さが攻撃力に反映され、その輝きを増します」


 ボクが聖剣の柄を強く握りしめると、白光が柄より伸びて、光の刃の形に収束した。

 物理的な武器ではなく、強烈な神聖属性エネルギーが凝縮した光の剣だった。


 同時にボクの心の中に、無機質な声が響く。


=========

 クラスチェンジが行われました。


 『勇者』より勇者の上位クラス『聖騎士王(ロード・オブ・パラディン)』へ。

 称号「真の勇者」を獲得。


 全能力値が20%アップ。


 スキル【光翼(シャイニング・フェザー)】の効果がランクアップ。

 全能力値2倍上昇が、全能力値4倍上昇になりました。


 数万の魔物と魔竜王を倒した経験値を手に入れました!

 レベルが34アップ。


レベル76/∞(UP!)


筋力:1682(UP!)

体力: 961(UP!)

耐性:1253(UP!)

魔耐:1874(UP!)

敏捷:1439(UP!)

魔力:2102(UP!)

==========


 クラスチェンジに、レベルが34アップって……


 ボクのレベルは合計76になっていた。

 聖騎士団のメンバーのレベルがだいたい25前後。40レベルオーバーは、英雄、賢者、大魔道士などと言われる人たちの領域だ。

 これは人類の頂点を軽く超越してしまっている。


 それに勇者の上位クラスがあるというのも驚きだった。


 呆然とするボクに女神様が、おごそかに告げた。


「ルカよ。あなたはこれから先、誰にも決して唇を許してはなりません。あなたが聖女としての純潔を喪失した瞬間。勇者の力は失われ、この世から希望は永遠に消えてなくなってしまうでしょう」


 ボクの【変身】スキルは、キスをした相手に強制的に変身してしまうものだ。

 ボクの力は、イルティアの身体と能力がベースになっている。


 誰かにキスをすれば、その瞬間、ボクは手に入れた力をすべて失うことになるだろう。


「……わかりました。女神様」


 王家を倒すという目的を達成するために、ボクはこの変身状態を維持しなくてはならない。


「ルカ、勇者の身体に清らかな心を宿したあなたは、まさに奇跡の存在です。どうか、その身を大切になさってください」


「女神様。ボクのやりたいことは、魔王の討伐ではなくて……勇者を、王家を倒すことなんですが……? あなたの眷属と戦うことになりますが、よろしいのですか?」


 ボクはエリザたちに聞こえないように、小声でつぶやいた。


「もちろんです。それこそ、私の望むところ。この世の奇跡たる聖なる少女よ。アルビオン王家は堕落しました。もはや聖なる血筋を伝える王家こそが、人々の敵なのです。王家はその罪をそそがねばなりません」


 女神様の託宣に、聖騎士の少女たちは、あ然とする。


「ルカよ。できれば、あなたが新たなる王となって、人々を導いていってくれることを、私は願っています」


 そう告げると、女神様は光の粒子となって、空間に溶けて消えていった。



究極の聖剣。現在の攻撃力1568

(ルカを支持する人の数と、その想いの強さが攻撃力に反映される)


イルティアの聖剣の攻撃力500



【変身】スキル

 キスをした相手の姿と能力をコピーして、相手とまったく同じ人間になるスキル。

 もともと保持していたスキル、技能、魔法は変身後も維持される。

 変身をした相手とキスをした場合、変身状態は解除される。それ以外の方法で、解除する手段はない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る