第3話。真の勇者だと言われる

「申し訳ありません! 姫様の窮地にお側におれないとは……一生の不覚にございます!」


 ボクの前にひざまずいたのは、尖った耳が特徴のハーフエルフの美少女だ。


「いやエリザ様。そんなことはないんで、気にしないでください」


彼女は王女の近衛騎士団であるイルティア聖騎士団長エリザだ。

まだ未成熟さを残した外見ながらも、不老のエルフの血を引く彼女の年齢は100歳以上。数々の武勲に彩られた英雄だった。


「はっ? エリザ様?」


 エリザが不思議そうな顔をした。


「姫様。エリザ様などと……ご幼少のみぎりよりお仕えしてきたエリザを、なぜそのようにお呼びに?」


 あっ、しまった。イルティアなら、エリザを呼び捨てにするのが当たり前だった。

 エリザ、エリザと、犬でも呼びつけるように、彼女を顎で使っていた最低王女のことを思い出す。


 イルティアのフリをせねばならないところを、もろに素を出してしまい、ボクは動転した。


「あっ、いえ。エリザ様はずっとボクの憧れでしたから……!」


 なんとかごまかそうと、さらに墓穴を掘るようなことを口走ってしまう。

 必死に頭を回転させるが、今さら王女らしく居丈高になるのも変だ。


「つ、つまりですね! ボクには、イルティア軍を……最強の聖騎士団を御するなんて荷が重すぎるんで。魔王軍に勝つためにも、エリザ様に助けて欲しいんです!」


 もう破れかぶれで、素直に伝えたいことを言ってしまった。


 イルティアは人望を失い、近衛の聖騎士たちらからも冷たい目で見られている。

 そんな軍を統率するなんて、指揮官の経験がないボクには絶対に無理!

 エリザに指揮を取ってもらうしかない。


 気がつけば、深々と頭を下げていた。 


 ……あっ、しまった。これはいくらなんでも不自然すぎる。

イルティアなら、絶対に家臣にこんな態度は取らないぞ。

 

 恐る恐る顔をあげると、エリザは感激した様子で涙を流していた。


「ひ、姫様!……成長。成長されましたね! これほど嬉しいことはございません!」


 エリザにガバっと抱きつかれた。女の子特有の花のような甘い香りが鼻孔をくすぐる。

ちょっと、顔が近いんですけど!


 妹以外の女子に、これほど密着されたことは生まれて初めてだった。

 それが輝くばかりの端麗さを誇る美少女とあっては、内心の動揺を隠しきれない。


「姫様が配下にあまりに傲慢な態度を取られるので。エリザはずっと心を痛めておりました。それでは、人は離れていってしまいます。

どうかお心を変えていただきたかったのですが、耳を貸してはくださらず……」


 ドギマギして緊張に身を固くするボクを、エリザが真摯な瞳で見つめる。


「し、しかし……! 姫様は、この苦境を通して成長しておられたのですね!

 自らの欠点を受け入れ、勝利のために最善を尽くす。私に頭を下げるその度量!

 なにより、たったおひとりで身体を張って民を守る、尊きお姿に胸を打たれました!

やはり、あなた様こそ真の勇者! エリザは、どこまでも、どこまでも姫様についていきます!」


 気がつけば周りにいた人々も、ボクらのやりとりに感動した面持ちで身を震わせていた。


「姫様! こんな状況になっても勝利をあきらめないなんて……す、すごく感動しました!」


「俺たちも、ずっと姫様についていきます!」


「我らが勇者、星屑の聖女さまバンザイ!」


 妹のコレットも、ボクを熱のこもった尊敬の眼差しで見つめていた。

 なんか結果オーライな感じになったが……

 次からは、みんなの手前。エリザのことは呼び捨てにするように気をつけよう。

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