「私のために死ねるなら幸せよね!」と勇者姫の捨て駒にされたボクはお前の奴隷じゃねえんだよ!と変身スキルで反逆します!〜あれ?いつの間にか助けた5億人の美少女に溺愛されて神と崇められてしまっているのだが

こはるんるん

1章。偽勇者、本物に成り代わる

第1話。勇者姫の捨て駒にされる

「こ、この私……イルティアはルカ様の卑しい奴隷でございます。しょ、生涯の忠誠を捧げ、いかなるご命令にも喜んで従います。ど、どうかお側に置いてください」


 勇者であるイルティア王女は、ボクに土下座して許しをこうた。


 腰まで届く、流れ星を束ねたかのような金髪。青い瞳。16歳の美少女だ。


「……我が奴隷となることを許す」


 ボクはイルティアの頭に軽く足を乗せて、つぶやく。


「ルカ様いけません! これは主従を決める魔法儀式です。もっと力強く、イルティア様、あ、いや……この罪人イルティアめの頭を踏み付け、顔面を地面にめり込ませてください。奴隷として扱うのです」


「そ、そうかっ……」


 腹心の美少女エリザからうながされ、ボクはためらいがちに頷いた。


 まさか、ボクを奴隷のように扱っていた姫様が、ボクの奴隷になりたいと言ってくる日が来るとは、夢にも思わなかったな。

 

 ボクはつい5時間ほど前のやり取りを思い出した――




「それじゃ、今からキスするわよ。いいから目を閉じなさい……!」


 イルティア王女はボクを強引に引き寄せると、唇を重ねてきた。


 本音を言えば、こんな女とキスしたくなかったのだが……

 これも妹を守るためだ。仕方がない。


「姫様! こちらにおられますか!? 魔王軍の総攻撃が開始されました。このままでは、城門が破られる危険があります! すぐにお支度を!」

 

 切羽詰まった様子で扉を叩く音が、室内に響き渡る。

 

 次の瞬間、ボクの身体は電流が走ったように痛みだし、手足が縮んでいった。服がみるみるブカブカになり、同時に胸が膨らんでいく。


「ふん! うわさには聞いていたけど、あんたのスキルは、やっぱり使えそうね」


 イルティアが、貶んだ目でボクを見下ろした。

 

「……それでは姫様、すぐに出撃しますか?」


 不快感を隠したボクの声は、美しいソプラノボイスになっていた。

 自分でも、びっくりする。これは断じて男のモノではない。


 鏡台に視線を移せば、そこに映るのは、双子のように瓜二つのふたりの少女。ひとりは、イルティア。もうひとりは、ボクことルカだ。


 ボクは15歳の男子だが、今の姿を見たら100人中100人がボクを美少女だと断言するだろう。

 

 これはボクが女神様からもったスキル【変身】による効果だ。

 この世界では15歳になると、女神様から特別な能力であるスキルをもらう。


 ボクのスキルはキスをした相手の姿と能力をコピーして、相手とまったく同じ人間になる【変身】だった。


 貧しい平民の家に生まれたボクは、家族に楽をさせたくて、一攫千金が狙える冒険者を目指して努力してきた。


 どんなスキルを授かっても冒険者としてやっていけるように、剣の素振りを8歳の頃から、毎日1000回はしてきた。


 たまたま出会った剣士のおじさんから剣の型を教えてもらい、稽古を続けてきたのだ。


 ボクは魔法の才能がまったくなかったので、剣の腕を磨くしかなかった。


『ルカさん。あなたの噂を聞いてやってまいりました。あなたのスキルは魔王を倒し、世界に平和をもたらす切り札となりうる物。どうか私に力を貸してください』


 そんなボクの前に現れたのがイルティアだった。

 今まで剣に没頭してきて、女の子と関わったことなんてなかった。


 それが神話から抜け出してきたかのような美貌の姫君に手を差し伸べられて、ボクは二つ返事で、うなずいた。


 イルティアは、ここアルビオン王国の第二王女にして、魔王を倒すべく女神様から選ばれた勇者。『星屑の聖女』と謳われる姫騎士だった。


 彼女は各国に檄文を飛ばし、魔王討伐の大軍勢を興していた。

 その勝利にボクの力が必要だと言われて、大いに心が沸き立た。


 そうだボクが姫様とキスをして彼女に変身すれば、勇者がふたりいるのと同じことじゃないか?

 ボクらが協力し合えば、きっと魔王にだって勝てるだろう。


 そう無邪気に考えていた。

 この女の本質を知るまでは……


「出撃? はあっ~、バカじゃないの? この都市は20万もの魔王軍に包囲されているのよ。いまさら、勇者がふたりになったところで、勝てるわけないでしょうが!?」


 イルティアは乱暴に壁を叩く。

 すると、壁にそれまで影も形もなかった扉が浮かび上がった。


「私はこの秘密の抜け道から脱出するから。あんたは、ここが陥落するまでの間。私の身代わりとなって最後まで戦い抜きなさい。いいわね?」


 そう。この女は結局、自分のことしか考えていないのだ。


 魔族から得た戦利品はすべて自分の物にし、部下への報奨は雀の涙。失敗はすべて部下の責任にして、当たり散らす。


 勇者がそんな態度であったため、魔王討伐軍の士気は日に日に低下していった。

 そして、30万はいた大軍は、魔王の喉元にまで迫りながら大敗北したのだ。

 

 ボクたちは魔王領との国境に近い城塞都市、ここオーダンに逃げ込んだ。魔王軍に逆襲され、必死の抵抗を続けた。

 だか、それももはや風前の灯火だった。


 都市の駐屯兵団と合わせて、ボクたちの兵力は6000にまで数を落としていたのだ。


「……わかりました。もう姫様には頼りません! ボクだけで戦います」


 ボクは思わずイルティアを睨みつけた。


 こうなったらボクが勇者役を演じて、あと二日で到着する手筈の国王陛下の援軍と力を合わせ、この都市を守りきるしかない。


 この都市には、ボクの家族も暮らしている。ここであきらめる訳にはいかなかった。


「援軍を期待しているなら、残念だけど無駄よ。お父様から通信魔法で私にだけ連絡があったの。

援軍は出さない。アルビオン王国は、魔王領に面した北側の領地をすべて放棄。兵力を王都にすべて集中させて、そこで魔王軍を迎え撃つ。お前はすぐに脱出して戻ってこい、てね」


 はあ!? そんな……それじゃ国王陛下は、ボクたちを時間稼ぎの捨て駒にしたのか。

 勇者は代々、女神の眷属であるアルビオン王家の者から選ばれる。

 国王陛下は、仮にも前勇者だぞ。


「……この都市の人々は、逃げてきた姫様を受け入れてくれたんですよ? お、おまら、それでも人々を守る勇者なのか!?」


 ボクは激しい怒りに駆られて叫んだ。

 もはやイルティアを主君と仰ぐ気持ちは完全に消え失せていた。


「ふん! 愚民どもが私を守るのは当然よ! この都市の連中がどうなろうと知ったこちゃないわ! 私の命はあんたたち2兆人分より重いのよ! そんなこともわからないの? このクズ!」


 イルティアは鞘に収まった聖剣を振り上げ、ボクの肩に打ち下ろした。

 ボクは思わずその場に膝をつく。


イルティアは、痛みにうめくボクの右手をとると、何のつもりか黄金の腕輪をはめた。


「この腕輪は、魔王領で発見された呪いのアイテムよ。

 この都市を守り抜くこと。

 この条件に反し、都市が陥落した瞬間。死の呪いが発動して、あんたは死ぬわ」


「はぁ!? 冗談じゃないぞ!」


ボクは驚愕して腕輪を外そうとするも、右腕にガッチリ食い込んだようにびくともしない。


「これで勝手に脱出できないわね? 

魔法も使えない無能のあんたを飼っておいたのは、こういう時の保険としてよ。あんたが魔王軍と戦って死ねば、私はこれ以上なく安全に逃げられるわ」


 まさかボクの命を握って脅迫してくるとは……

 そんなことをしなくても、ボクは逃げずに戦うつもりだった。


「それに人々を守る勇者? はぁ、バカね。誰が愚民どものためになんて戦うもんですか。私がバカどもを扇動して、魔王領に侵攻したのは、魔王の財宝を手に入れるためよ。

 魔族どもから略奪した金品のほとんどは、王都に送ってあるわ。我が王家はこれでさらなる力と富を手に入れて、安泰ってわけ」


 イルテイアは美しい顔を悪意に歪めて笑った。


「特に今回手に入れた魔王の魔導書。これを解読すれば、魔王の使う禁断の魔法の数々が……最終的には不老不死の力が手に入るのよ!

 ああっ! すばらしい! これで私は神々の領域に立ち、永遠にこの世界に君臨する女王となるの! 私をコケにしたバカどもを、どいつもこいつも支配して、顎でこき使ってやるわ!」


 こいつ、完全に腐っている……!


「……ルカ。あんたはもういらないわ。その顔を見てると、腹立たしくなってくるの。今日限りで護衛はクビよ。最後に私みたいな究極美少女とキスできて、最高に幸せだったでしょ? せいぜい私の役に立って死んでちょうだい」


 こ、こんな女が勇者で、しかもこの国の次期、女王だって?

 ボクは歯軋りした。

 そんなことは絶対に間違っている。


「……わかりました。偽りの聖女様。それなら、今日からボクが勇者です!」


 勇者とは邪悪を滅ぼす者だ。

 そして、真の邪悪とは魔王ではなく、勇者の一族であるアルビオン王家だとボクは確信した。


 イルティア、見ていろ。ボクこそが真の勇者となって王家に反逆してやるぞ!

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