第10話

【無無明 亦無無明尽】

ほら なんとなくでもわかってきただろう さとれる気分がしてきただろう でもちがうんだな この世界のすべてが『空』ってことは 本統はなにも差別する必要がないことがわかるだろう シェイクスピアのいうように『綺麗は汚い 汚いは綺麗』さ おれたちが『よい』とおもっているものは『色』がよいとおもっているにすぎねえ おれたちが『わるい』とおもっているものは『色』がわるいっておもっているにすぎねえ その『色』っちゅうもんは本統のところ膜だってわかっただろう だからだよ 『色』によいとかわるいとかいう基準は必要ないのとおなじで 『さとることがよいわけでも さとらないことがわるいわけでもねえ』んだ べつに舎利子がさとろうがさとるまいが そんなことを気にする必要はねえんだ それは『さとること』と『さとらないこと』を差別することになるからな おなじように この世界のすべてを差別することはないのさ 成功と失敗も 勝利と敗北も 美人と不美人も 健康と障害も 全部 おれたちが『空』にすぎない『色』をすききらいしているにすぎねえ


――つづく

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