第32話 拝み見るのはごめんじゃな
サザーランド南門前広場にあるミラード家のテントに入ると、既にジークが敵地に足を踏み入れたような険しい顔で腕を組んで椅子に座っていた。
「待たせましたか?」
「いや、儂も今来たばかりじゃ」
「では、さっそく具体的な作戦を説明させていただきます」
テントの中心にあるテーブルに、先ほど考えた本計画書を置き、私はプレゼンを開始する。
「お主は、これが可能だと本気で考えているのか?」
「私は正気ですよ」
まるで私の正気を疑うような
「悪いが、いくら
そうだろうな。火薬という存在を知らぬこの世界の人間ならば、当然の反応だ。
そもそも私が今回の
私のギフト《魔法の設計図》の魔導書創造も、魔法ランクにつき、創造限界個数がある。炭坑の抗夫に一々魔導書を与えていたら、たちまち
「ならば、信じさせるだけです」
私は指をならし、転移を発動すると、私とジークの足元に魔法陣類似の円が浮かび上がる。
「こ、これは――」
驚愕の声を上げ、椅子から立ち上がるジークを尻目に、私はサガミ商会の運営する廃坑前に転移した。
「こ、これは……」
突如、変化した景色に、キョロキョロと周囲を見渡しているジークと私の元に、予め申し合わせていたジュドが歩いてくる。
「大将、実験の準備はできている」
「ご苦労、では、始めよう」
未だに
実験が終了し、真っ青に血の気の引いた顔でジークは、
「お主……あの勇者と同じ迷い人じゃな?」
迷い人か、どこかで聞いた言葉だ。おそらくは、あの勇者と同様というと、異世界人という意味だろう。
さて、何と答えるべきか。肯定しても面倒になる予感しかしない。
「迷い人の意味はわかりませんが、私はグレイ・ミラードですよ」
「答えはせぬ……か。隠す必要でもある。そういうことか」
いや、十分な返答はしていると思うのだが。どうにも、ジークの中では、私イコール異世界人らしい。
「私の返答は変わりませんよ」
「理由があるのじゃろ? 別に構わんよ」
遂に、勝手に自己完結してしまわれた。もう勝手にしろよ。
「それで、協力は願えますか?」
「一つだけ聞かせよ」
「何です?」
「お主が望む先じゃ」
私が望む先ね。ジークの引き締まり、
「
知識の源泉を求めるのは、
「知識の源泉? そんなことは不可能じゃっ!!」
「かもしれんな」
元々、私のこの
「お主、壊れ切っておるな……」
「否定はしない。だが、翁よ、私の同類は既にこの世界で生まれているぞ?」
ルロイや、パーズを始めとする直弟子達はもはや知識の虜だ。知識の探究という甘い蜜の味を一度知ってしまえば、もう抗えない。仮に私が消えても彼らは求め続けるだろう。そう、仮に何を犠牲にしようとも。
「冗談にしては笑えんな」
「無論、偽りは述べていないからな。話が逸れた。ともかく、私達はこの度のアンデッドの襲来で、いくつかの実証実験を行おうと思っている」
「実験じゃと!? この帝国最大の危機にか!?」
「知性のない
まあ、他にもアンデッドの生態を知りたいということもあるわけだが、それを口にすると流石に以後人間扱いしてもらえなくなる恐れもある。自重すべきだろう。
「そういう問題ではないわっ!!」
「そう落ち込むな。結果的にこの帝国は救われるさ。それにな、サザーランドは今後の私の野望の拠点となりえる場所。あのような知性もない下品な下等生物に土足で踏みつけられるなど
「貴様は――! ……いや、もういい。貴様の悪質さは、十分すぎるほど理解した」
「それは良かったな。で、私に協力するのか、しないのか、はっきりしてもらいたいのだが?」
「乗る以外に方法があるのか!?」
「そう怒るなよ。短気は損気というであろう? そうカッカしてばかりしていると、
「ぐぬっ! もういいわ。あの地の改造にはいかほどかかりそうなのじゃ?」
「ふむ、一四日後には全て仕上げるつもりだ。具体的な計画書は後程提出しよう」
不眠不休となるが、サガミ商会成立以来の大型実証実験だ。しかも、帝国の危機を救うというお題目もあるから、基本、やりすぎて非難される恐れもない。中々、そそられる
「儂は
そう疲れたように、呟くと、“送ってくれ”と私にそう静かに告げた。
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