第27話 対局後の食事
次の日の朝、二〇人の守衛隊のメンバーと
現在、アンデッド共は、ルドア大森林を南下し、周辺の都市を地獄と変えながらも中央の帝都に向けて驀進中だ。
帝国軍のトップが真面なら、ここで、兵力を
数日間は、行商人の馬車程度しか確認できなかったが、次第に、
現在、広場で馬を休ませているとき、私達の数十倍にも及ぶ戦団が前を通り過ぎていく。
「すごいね~」
「うん、あれ、どこの戦団?」
カルラはキョロキョロと、今も途切れることない大戦団を眺めながらもそんな
「あれは、ハルトヴィヒ伯爵家の軍隊だな。帝国の中でも十指に入る武闘派豪族だ」
「なら、あの、後ろにいる二つの剣が交差した
「【
ハルトヴィヒ
あの
「よう、お前ら愚劣団じゃねぇか?」
その言葉に、戦団の視線が私達に集まる。
「すまねぇ、グレイ」
口々に吐き出される
「なぜ、謝る? お前は、後悔していなかったんじゃなかったのか?」
「それはもちろんだが……」
「ならば、恥じる必要はない。どうせ、
私の言に、ブッと副団長のゼムが
「タマ無しって何じゃ?」
キョトンとした顔で尋ねるドラハチと、
「グレイ様、その発言、下品ですよ」
「
「テメエら……」
険悪となった雰囲気の中、
「馬鹿が」
短髪は白目をむいて、倒れ込む。短髪の背後には、黒髪に
そして、同時に人込みを掻き分けて、全身に傷のある金髪の巨漢の男が姿を現す。
一斉に姿勢を正す兵士と傭兵達。
「おう、グレイ卿ではないか。
金髪の巨漢は、私の前に来ると野性味のある笑い声を上げながらも、私の背中をバンバンと
「いや、ハルトヴィヒ伯爵殿、何度も説明しましたが、私には
「しかし、マクバーンの奴はそうは考えておらんぞ。目下、卿と奴の
「流石に、それはありえませんね」
そうなのだ。マクバーン辺境伯からは、彼の一二歳の娘との婚約を最近強く
正直、私は
「ぐははっ! マクバーンの奴め! ざまーないな。どうじゃ、次の
将棋とチェスは、サガミ商会の販売する
ハルトヴィヒ伯爵にも、初めて会った時、将棋の盤と駒をプレゼントしたのだが、どうやら
「構いませんが、『待った』はなしですよ」
この御仁は極度の負けず嫌いだ。以前指したときも、一晩中付き合わされ、ようやく解放されたのが、周囲が明るくなったときといった経緯がある。
この日も、結局、五局も付き合わされ、ようやく将棋から解放され、今はハルトヴィヒ伯爵から料理を
「へー、これって、風牛の肉ですか?」
「そうじゃぞ。お主から
マクバーン辺境伯の紹介で、ハルトヴィヒ伯爵家にも風牛を一〇頭ほど
「
両伯は、腐れ縁のような関係で、ハルトヴィヒ伯爵家の経営難につき、マクバーン辺境伯を介して相談されたので、風牛を提供しその育成を提案したのだ。もちろん、育成についての詳細のデータは文書にして提出してもらっている。爵位もない一介の商人に過ぎない私が、この帝国で大規模農業を経営するのはかなりの困難が付きまとう。だから、土地を持て余している地方の有力豪族とコネを作るのは必須だったのだ。
「我らは借りた恩は忘れん。絶対にだ。きっと返させてもらおう」
「お気になさらずに、私も丁度いいデータが取れて助かっておりますよ」
「この度のアンデッドの軍勢、かなりのものなのですか?」
「そう聞いておる。なんでも、アンデッドの中にはドラゴンまでいるらしく、
「竜のアンデッドですか。確かに厄介ですね」
まあ、知性も消失した竜のアンデッド程度なら、最悪、私の魔法で殲滅すればいい。その程度ならば何とでもなる。
「ところで、貴公、
「まあ」
「そんな顔をするな。別に咎めているのではない。ただ、気をつけろ」
「どういうことです?」
「
「領民を盾に逃亡しようとした恥知らずな貴族を半殺した上、
「ああ、そう、恥知らずじゃ。何せ、自己の領民を見捨てたのじゃからな。じゃが、戦の将としては、選択肢として十分とりうる選択ではある。まあ、マクバーンの奴はかなり激怒しておったようじゃがな」
「あの御仁ならそうでしょうね」
「ああ、だがな、一方で
「憎まれている。そう言いたいのですか?」
「うむ、あの戦で仲間を失ったものが少なからずいたからのぉ」
「その分、領民の大部分は助かりましたがね」
この事件で、マクバーン辺境伯は命がけで市民を救った功績を理由に、
まあ、一応、そういう触れ込みだが、実のところ免責が認めらえた最も大きな理由は、現場を指揮していた貴族が臆病風を吹かせて、領民を盾に、戦場から逃げ出そうとしたなど、国民に知られるわけにはいかなかったのだろう。
「
確かに根深い問題だな。だが、そもそも、守るべき領民を見捨てるような策を立てること自体、戦争屋としては失格なのだがね。
「肝に銘じておきますよ」
私は、大きく頷き、肉を口に放り込んだ。
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