第21話 一二歳になりました

 私は一二歳となった。

 数年間の錬磨れんまにより、私の魔力とMPは、S-まで上昇した。


――――――――――――――――

〇グレイ・ミラード

ステータス

・HP:C+(22/100%)

・MP:S-(77/100%)

・筋力:B-(56/100%)

・耐久力:B-(13/100%)

・魔力:S-(46/100%)

・魔力耐久力:B-(53/100%)

・俊敏力:B(17/100%)

・運:C+(36/100%)

・ドロップ:C+(88/100%)

・知力:ΛΦΨ

・成長率:ΛΦΨ

――――――――――――――――

 

 今は、サテラ、ジュド、カルラと『古の森いにしえのもり』、最後の未到達領域、最南西部に挑んでいる。

 最南西部は、巨大な湿原地帯しつげんちたいであり、闊歩かっぽしている魔物の強度はけたはずれていた。


「無茶はするな。前衛は僕に任せろ。お前達は、背後から魔法による援護!」

「はい!」

「うん!」

「了解!」


 今も地響きを上げながら、私達に突進してくる五メートルはあるわにの魔物に、サテラが右手の掌を上空に掲げ、


「《水都の城塞》」


 湿原の水が持ち上がると、幾重いくえもの青色の膜となり、小型な城塞じょうさいの形となって、私達をおおう。

 巨大鰐がその青色の膜に触れると水の城壁から無数の針が突出され串刺くしざしとなる。

 真っ赤な鮮血を噴き上げながら、もだえ苦しむ大型鰐。


「《七黒雷柱》」


 カルラの言霊ことだまとともに、天から降り注ぐ半径二メートルは超える黒色の雷の柱に、細胞一つ残さず蒸発する大型鰐。


「おい、カルラ! 湿地帯で、電撃系の魔法を使う奴があるか! サテラが結界張ってなかったら、即死ものだぞ!」

 

 額に太い青筋を立てて、責め立てるジュドに、舌をペロリと出すと、サテラの背後に隠れるカルラを視界に入れ、思わずため息が出た。

 カルラとサテラは最近、姉妹のごとく仲が良い。カルラは、現在一八歳、サテラが、一四歳だ。サテラのほうが四歳も若いわけだが、ほとんどサテラがお姉さん役をしている。


「カルラお姉ちゃん、ここは湿地地帯なんだから、水系の魔法の方がいいよ」

「わかってる」


 サテラにまでとがめられ、カルラは不貞腐ふてくされたように水面をバシャバシャと蹴る。

 カルラは治癒系の魔法以外では、上位属性の雷にとりわけ強い執着があった。特に、特位スペシャルの魔法――《七黒雷柱》を獲得してから、事あるごとに使っている。

 確かに、サテラの特位スペシャル魔法水都の城塞ならば、電撃の直撃でなければ、遮断しゃだんされることは実証済みだが、仮に不測の事態により、電撃を真面まともに受ければ、私以外黒焦げだ。ジュドの指摘通り、今後、控えてもらおう。


「今はフィールディング中だぞ。喧嘩なら後でやれ」

「も、申し訳ありません!」


 私に深く頭を下げるジュド。そのジュドにべーと舌を出すカルラの頭を右手に持つ剣の柄で軽く叩く。


「カルラお前は、僕がいいというまで、雷系の魔法は禁止だ」

「えー!!」


 不満たっぷりの声を上げるカルラ。


「いいな!?」


 語気を強めて念を押す。


「はーい」


 口を尖らせつつも、返答するカルラ。カルラは、私の言うことなら必ず聞く。逆にいえば、私の言うことしか聞かないともいえるわけだが。まったく、一八歳といえば、地球でさえも選挙権のある大人に分類される歳だ。少々、甘やかしすぎかもしれぬ。

 ともあれ、MPを一桁台にしてから、魔法による強制睡眠を毎日行うことにより、サテラ、カルラ、ジュドの三人の魔力は、C+まで上昇している。


――――――――――――――――

〇サテラ

ステータス

・HP:E-(22/100%)

・MP:C+(18/100%)

・筋力:E-(2/100%)

・耐久力:C-(13/100%)

・魔力:C+(3/100%)

・魔力耐久力:C-(18/100%)

・俊敏力:E+(42/100%)

・運:E-(6/100%)

・ドロップ:E-(65/100%)

・知力:D-(41/100%)

・成長率:A


〇称号:――――のメイド

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――――――――――――――――

〇ジュド

ステータス

・HP:E+(35/100%)

・MP:C+(54/100%)

・筋力:D-(4/100%)

・耐久力:C-(16/100%)

・魔力:C+(75/100%)

・魔力耐久力:E-(48/100%)

・俊敏力:E(88/100%)

・運:E(66/100%)

・ドロップ:E(27/100%)

・知力:C-(12/100%)

・成長率:A

〇称号:――――の弟子

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――――――――――――――――

〇カルラ

ステータス

・HP:E(35/100%)

・MP:C+(55/100%)

・筋力:C-(2/100%)

・耐久力:D-(13/100%)

・魔力:C+(27/100%)

・魔力耐久力:D-(18/100%)

・俊敏力:C-(42/100%)

・運:E(6/100%)

・ドロップ:E(65/100%)

・知力:E(90/100%)

・成長率:A

〇称号:――――の弟子

――――――――――――――――


 全体的に三人とも、ステータスは異常に高いが、その中でも、成長率は他の者達を圧倒していた。

 そもそも、ジュドの成長率はEだったはず。それが、気が付くとAへと変わっていた。あくまで推測のいきをでないが、この成長率の上昇は、三人が現在有する意味不明な称号――『――――のメイド』、『――――の弟子』にあるのではないかと思われる。

 そして、この称号の有無のためだろう。この三人以外、同じ操作を行っているにもかかわらず、MPと魔力は、ジュド達と比較し、E+が精々であり、著しく低い。さらに、魔法についても、最上位トップまでしかどうやっても獲得できなかった。そこで、サガミ商会の他の八人の従業員とトート村守衛隊のメンバーには、複数の最上位トップの魔法を覚えさせている。


 もちろん、ここの魔物は平均ステータスC-、ジュド達には明らかに危険領域である。小さく、俊敏な魔物などに襲いかかられては、ひとたまりもあるまい。そこで、私が円環領域で、やばそうな魔物は、ピンポイントで魔法により殺処分としており、さっきの大鰐のようなジュド達でも倒せそうな魔物だけをあえて戦わずに残している。


「先に進むぞ。出来れば、帝都行きの前に、この【古の森いにしえのもり】を攻略したい」

「「「はいっ!!」」」


 少し前までこの話題になると、ジュド、カルラは顔をくもらせたものだが、今はそんな悲壮感漂う表情を浮かべることはない。

 その理由は簡単。私はサテラ、ジュド、カルラを帝都に連れていくことにしたのだ。

 サテラ達三人は、奴隷でも、農奴でもない。帝国法で、農地を放棄することは許されていないが、逆に言えば、農地を維持しさえすれば、この地に留まることは強制されておらず、自由にしてよいということだ。実際に、扶持ぶちを減らすために、冒険者や商人となることを国も奨励している。



「どうやら、お前がこの地のぬしっぽいな」


 血のように赤い一六の瞳が鎌首かまくびをもたげながらも私達を睥睨へいげいしていた。

 

――――――――――――――――

〇ドラハチ

ステータス

・HP:B+(99/100%)

・MP:B-(99/100%)

・筋力:B+(99/100%)

・耐久力:B+(99/100%)

・魔力:B-(99/100%)

・魔力耐久力:B-(99/100%)

・俊敏力:B-(99/100%)

・運:E+(1/100%)

・知力:D+(1/100%)


〇種族:八頭竜王ヒュドラロード


〇称号:食いしん坊ドラゴン

――――――――――――――――


 平均ステータスB。筋力がB+など、もはや冗談としか思えん。それにしても、この竜、名前と言い、称号といい、なんちゅうあざとさだ。

 まあ、油断できるレベルの敵ではないのは確かだし、最近獲得した闇系の伝説レジェンドのいい実験台になるかもしれない。

 それに、こいつクラスの魔石があれば、きっと、神話ゴッズ以上の魔法が獲得できるに違いない。


「【影王の掌スカディ・パーム】」


 右手の掌を上空に向けて、言霊ことだまつむぐと黒色の魔法陣がドラハチの周囲をおおい、取り囲む。


『何じゃ、あれは?』


 頭に響く少女の怯えた震え声。

 同時に、上空に暗雲が立ち込め、その雲の中から、巨大な手がニュッと姿を現す。

 【影王の掌スカディ・パーム】――私が獲得した伝説レジェンド級魔法の中では、唯一、戦術の域に留まる魔法だ。『古の森』の四匹の巨大生物の一柱いっぴき――死鳥サムパーティの魔石から開発した私のとびっきりの一つ。


「ひぅ!?」


 突如、七、八歳くらいの黒髪の少女の姿になると、蹲り、頭を抱えてガタガタと身体を震わせ、泣き出し始めた。


「娘……?」


 なぜ、少女の姿になる? 名前と称号のあざとさといい、これは反則だろう。


「グレイ様……」


 戸惑いがちにサテラが泣き出す少女を眺めながらも、私に翻意ほんいを促してくる。


「ああ、そうだな」


 魔物とは言え、子供をいじめ、殺すなど、あの義母と同類となる。

術の発動を強制終了し、大きなため息を吐いた。


            ◇◆◇◆◇◆


 泣き止まぬ子供の扱いほど厄介なものはない。それも、私が泣かせたとあっては猶更なおさらだ。

 仕方なく、少女をサガミ商会料理店――《銀のナイフ》まで転移で連れ帰り、なだめる。


「どうだ? 美味いか?」

「美味いっ!」


 目を輝かせて、口の中に肉を入れるドラハチに、ようやく強烈な罪悪感が消えた。

 サガミ商会料理店――《銀のナイフ》の名物メニュー――風牛のハンバーグだ。

 風牛とは、ホルスタインと和牛の丁度中間の生物であり、古の森に生息する生物だ。これは唯の野生動物であり、魔物ではなく、大した力もない。故に、本来なら強力な魔物が跋扈ばっこする《古の森》では生存し得ない。だが、風牛の生息地帯は丁度、広大で深い窪地くぼちとなっており、その周囲は暴風が荒れ狂っている。しかも、この風、有毒ガスのおまけつきときた。この窪地に入るのは、私達でも結構な苦労を要したくらいだ。当然魔物も侵入できず、この中で独自の生態系を確立するに至る。

 よって、《風の地》と名付けた大地からとれたいくつかの農産物と畜産物は私達のうるおいとなる。

 農産物としては、サトウキビに、トマト、じゃが芋、玉ねぎ。畜産物としては、風牛、うずらのような鳥。

 これらの種は特許を獲得次第、ジレスや最近知り合った地方豪族の農場で試験的に育成栽培しており、かなりの成果が上がってきている。


「それはよかった。よくんで食えよ」


 ドラゴンに、消化もへったくれもないかもしれないが、一応、そう忠告しておく。


「うむっ!」



「機嫌も直ったようだし、元の湿原しつげんに送ってやる」

「いやじゃ」


 満面の笑みを浮かべながら、ドラハチは拒絶の言葉を口にする。


「嫌って言われてもな。あそこがお前の住処すみかだろう?」

「あんな泥臭い場所、ウンザリしていたのじゃ。わらわ、お主達についていく!」


 必死の形相でサテラの腰に飛びつくと上目遣うわめづかいに彼女の顔を覗き込む。

 

「グレイ様……」


 あーあ、駄目だ。サテラの奴、完璧に舞い上がっている。サテラは可愛いものに目がないからな。この幼女の姿は、彼女にとって反則に近いだろう。まったく迷惑で、あざといドラゴンだ。


「お前達はどう思う?」


 ジュドは、隣の頬を紅色に上気させているカルラを横目で見て、深く息を吐き出し、首を左右に振る。

 反対するだけ無駄だな。特殊な称号を有する、サテラ、ジュド、カルラの三人のみは、私のギフトである《万能アイテムボックス》と《万能転移》の機能の一部を不完全ながらも借用可能しゃくようかのうなようなのだ。たとえ、私が断っても、サテラとカルラだけで、先ほどの沼地に足を踏み入れかねない。


「わかった。めんどうはお前達二人でみろよ」

「ありがとう! グレイ様!」

「やったー!!」


 ドラハチに飛びつくサテラとカルラ。

 こうして、私の『古の森』の探索は意外な同行者の獲得を最後に完了する。


 

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