【イベント企画】バレンタイン
【なんやかんやで!】より
南城矢萩視点①
※本編↓
『なんやかんやで!〜両片想いの南城矢萩と神田夜宵をどうにかくっつけたいハッピーエンド請負人・遠藤初陽の奔走〜』
https://kakuyomu.jp/works/16817330651605896697
こちらでは高校2年生ですが、今回は1年生の時のお話。二人は(遠藤も)同じクラスです。
2月14日の朝、教室に足を踏み入れると、
「うっわ南城に神田、今年も?」
同じ中学の友人、
「いや、こいつらさ、中学の頃結構モテてたんだって。マジで」
俺と夜宵がそれぞれ持っている数個のチョコレートを指差しつつ、余計な説明をするものだから、「なんだと!」と殺気立った
「ハイハイ、お前達離れろ離れろ。俺が代表して聞く。おい、南城に神田、お前達、そのチョコはどうした?」
「どうした、って。もらったんだよな? なぁ、
「うん。もらったっていうか、強制的に押し付けられたというか。……あっ、僕らはちゃんと言ったんだよ? 受け取れませんって。お返しも出来ませんって。ねぇ、萩ちゃん?」
「おう、言った言った。でも全然あきらめてくんねぇの。『もらってくれないと死にます!』とかまで言われてさ。そんなこと言われたら、なぁ?」
「うん、何か気の毒になったっていうか、もしかしたら、罰ゲームとかだったのかもしれないし」
夜宵がぼそぼそと言うと、持内が「バッキャロー! そんな気合の入ったラッピングが罰ゲームのわけねぇだろ!」と叫ぶ。数人がそれに釣られて「そうだそうだ!」と拳を振り上げた。
「馬鹿お前達、落ち着け。それで? お前達はどうするんだ、それ」
「これ? いや、出来れば返したい。ホワイトデーとかそういう意味じゃなくて、いますぐ返品したい。正直怖い。気味悪い」
「僕も……。罰ゲームじゃないんだったら、返したいよ。だけど、どこの誰かもわからないし、返しようが……」
どうしよう、と俯く夜宵に遠藤が「貸してみ」と手を伸ばす。
「これが本当に本命だったのならば、手紙くらいは入ってるはずだ。ちょっと開けるぞ。……ほーら、あった」
そう言って、紙袋から、封筒に入ったメッセージカードを指の間に挟んで取り出し、にやりと笑う。
「南城の方にも入ってるはずだ。どれどれ……よっしゃビンゴ! なぁどうだ二人共、このチョコ、俺に託してくれないか。何、悪いようにはしない。きっちり持ち主のところに返して来てやるから」
「それは助かるけど……良いのか?」
「僕らとしては願ったり叶ったりではあるけど」
俺達がそう言うと、遠藤は「よっしゃ、このハッp……じゃなかった、この俺に任せろ! 後腐れなく処理してやるぜ!」と胸を叩いた。すげぇ頼もしいけど、『ハッp』って何なんだ。一瞬聞こえた『ハ』の後の破裂音は何なんだ。
が、今度は遠藤の方が野郎共に囲まれることとなった。つまりは、「そんなこと言って、お前がその子達とお近づきになる気だろ!」「遠藤、売ってくれ! 言い値で買う!」というやつである。もしかしたらそういう魂胆もあるのかもしれないが、何となく遠藤はそんなことしないと思うんだよなぁ。何だろう、まだ付き合いは浅いんだけど、そんな気がするのだ。
とにもかくにも、俺達は身軽になった。
チョコをくれた女の子達には悪いと思ったが、こっちは一応拒否はしているのである。それでも一応、一度は受け取ったのだ。だから、死ぬとかはマジでやめてほしい。頼むぞ遠藤。
「何ていうか、災難だったな、夜宵」
昼休みである。隣の席のやつの机を借り、それを向かい合わせてのランチタイムだ。
「そうだねぇ。待ち伏せされるとか、普通に怖かったしね」
「わかる。俺、例の『もらってくれないと死にます』の子はさ、拒否ったら刺される気がしたもん」
「すごい剣幕だったよね。でも大丈夫、その時は僕が身を挺してでも萩ちゃんを守るよ」
あはは、と笑いながらの軽いノリではあったけど、そんなことをサラリと言える夜宵ってすげぇ。そんでこいつの場合、本当にやりそうだから困る。お前に何かあったら、俺、マジで生きていけんからな。
「いやいやいや、その時は俺、黙って刺されとくから、夜宵は救急車を呼んでくれ。って違うな、刺されないようにするから!」
「まぁ、刺されないのが一番だよね」
そんな他愛もない話をしつつも、気になるのは鞄の中だ。
実は夜宵へのチョコレートが入っているのである。どうしよう、どんなタイミングで渡せば不自然じゃないだろうか。その、えっと、まぁ、何だ、友チョコの体で、っていうか。いや、気持ちの上ではがっつり本命なんだけどな!? なんだけど! なんだけど! でも、男から本命もらったってキモいじゃんか。なぁ。
「何かこの時期は、チョコレートが怖いよ。普段は好きなんだけどね」
「えっ、あ、そ、そうだよな!」
「チョコに関するいい思い出がないというか……」
「だ、だよな! そうだよな!」
だよなぁ……。
去年までは共学だったが、夜宵は実は案外モテる。俺みたいなギャーギャー騒がしいガキっぽさがないから、「大人っぽくて、カッコいい」らしく、他の男子のように下心の透けて見えないナチュラルな優しさも「女子にがっついてないのがいい」みたいな感じで。わかる。もうわかりみしかない。それでいて、夜宵は見た目も良いからな。眼鏡をかけてても、外しても、なんつーの、憂いのある美少年顔っつーの? そんで、へにょ、と眉を下げて笑うところなんて、もう抱きしめたくなる可愛さなんだよな。そういうギャップにやられた女子も多い。
とまぁそんなこんなで毎年のようにチョコをたくさん渡されていたのだ。
俺? 俺はアレだよ、「男子みんなに配ってるから、
だけど、夜宵は今日みたいに、いらない、お返しも出来ないと、きっぱりNOの意思を示すのである。クラスの男共から「お前なんでそんなもったいないことすんだよ!」と詰められているのを何度も見た。俺も正直不思議ではある。俺は……まぁ、本命がいるから、同じ立場だったらそうするけど、もしいなかったら「まぁ試しに付き合ってみても」なんて考えるかもしれない。夜宵に本命がいるなんて話は聞いたことはなかったけど、もしかして、いたりするんだろうか。
だけどもし、本命がいるんだったら、迷惑だったろう。何せ応えられない思いを乗せられたチョコレートだ。優しい夜宵は、捨てることも出来ないだろうし。なぁ夜宵、お前マジで好きなやつとかいんの? 俺、親友なんだし、いるんだったらきっと教えてくれるよな? 言えないようなやつが好きなのか? それとも、俺にはそんな相談なんか出来ないのかな。まぁ、されたって困るんだけどさ。
「……俺もバレンタインなんていい思い出はねぇな。好きでもないやつからもらったって、しょうがねぇもんな」
ぽつりとそう呟いて、弁当箱を鞄に乱暴に突っ込む。底にあるチョコレートがちらりと見えて、ずきりと胸が痛んだ。
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