嘘だと思っていたこと

僕はあいつの死後、遺した日記を読んだ。


他人の日記なんて普通は覗かない。だが僕はどうしても腑に落ちないことがあった。あいつが歌を嫌いになったことが、今でも信じられなかった。何かが欲しかった。あいつが心の底ではまだ歌に対する愛を持っていることを。日記に綴ってあるだろうと思いたかった。


しかし、僕のその幻想は無残に打ち砕かれた。あいつは本当に歌が嫌いになったのだ。

いや、嫌いどころではなかった。歌に対する関心すらも失っていた。それどころか趣味や世の中の出来事に対してもだ。


最後にあいつの部屋に行ったとき、部屋の状態は見るも無残だった。あいつが着たら本物のお人形やお姫様かと思うぐらいに似合うであろう可愛い服や衣装、アクセサリーが無造作に床に散乱しており、スナック菓子やジュース、清涼飲料水の染みがどこもかしこにもついており、かつての衣装に宿っていたであろう輝きは汚されていた。


相棒の日記の一節が、頭の中に焼きついては離れない。


「オレは、親が憎い。でもその憎き親の援助がなければ何も出来ない。本当に無力だ」

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