第18話 気づけば2人きり

チェックインをして部屋へと荷物を置きに行く。

 ベッドが二つとソファーベッドが1つ用意され、窓からは海岸が一望できた。


「うわー、ここからもいい眺めだね」

「ほんとだな」


 俺たち旅行に来たんだと再認識する。

 夏希と夜もずっと一緒なんだよなと考えると、それだけで――

 その夏希はというと、そっと指だけ絡めてきた。


「ちょ……」

「あき君と同じこと考えてると思う」

「えっ、あっ、そっか……色々話す時間にしよう」

「はいっ」


 夏希はいつもの口元をだらしなく緩めた笑顔になる。

 俺はというと、その顔を目に焼き付けておきたいと思いつつも、少し見てからやはり視線をそらしてしまった。

 でも、どんな気持ちなのかは伝わっている。


 そんな俺たち二人の後ろでは――


「こういう2人を見て、勘違いして自分もと思う人がいるの。それが甘いってわけ」

「なっ、なるほど」

「蓄積してきてるものが全然違うのよ。会えばその人の体調までわかるだろうし、1日の半分以上は互いのこと考えてる」

「そんなにですか?」

「ええ、好きってことはそういうことよ」


 なんだかこそばゆい感じがして、夏希と一緒に振り向くと陽と松尾さんはじっーと俺たちを恨めしそうに見ていた。


「いちおう、説明しておくと俺たちがこうやって付き合ってるのは陽のおかげだから。もちろん夏希を大好きなのは当たり前の前提だけど」

「そうそう、陽ちゃんのおかげ……もちろん、あき君を大好きなのは大前提で毎日考えてるけど」

「そうなんですか!」

「ま、まあね! 全部あたしの計画通りだし」


 またもやばつの悪そうな顔をした妹は誤魔化すように荷物をいじり始めた。



 その後部屋で松尾さんの話を聞き、消沈した心を癒すには体を動かそうとなり、ホテルのプールへとやってくる。

 陽が作った旅行のしおりにも持っていく荷物に水着は記されていた。



「おまたせ、お兄ちゃん」

「あ、あ、あき君、あ、あんまりみないで……恥ずかしい」

「私までいいんでしょうか?」


 陽はピンク色のビキニを着用し、松尾さんは貸し出し用のスク水。

 そして夏希は青いビキニで――


 顔から湯気が出そうとはこのことだった。


「あき君、泳ごう」

「おっ、おお……」


「あっ、待ちなさい、夏希! 準備運動しろ!」


 陽の制止も聞かず、夏希は俺を引っ張りプールの中へ引きずり込む。

 夏希は気持ちが高まると本能に逆らわないのかもしれない、それなら嬉しいと俺は思いながら水面を潜った。



 俺たちは松尾さんのことを気にかけながらも、旅行を、夏休みを存分に楽しんだ。

 プールを上がるころには松尾さんは案外元気になり、陽にすっかりなついてしまった。



 そして――



「陽さん、私、今日は一緒にいたいんですけど……」


 更衣室から出てくると、いきなりそんな会話が聞こえだした。


「ええっ、あ、あたしは、べ、別にいいけど……」

「ほんとですか? やったぁ。ご心配なく宿泊費は払いますから。お年玉使っていないので」

「けど残念なんだけど、あの部屋に4人はきつく無いかしら?」

「大丈夫ですよ、邪魔したりしないように陽さんと私は別部屋に」

「ええっ!」


 俺と夏希と陽はほとんど同時に叫んでしまう。


「俺と夏希の2人きり」

「あき君と2人だけ」


 お互い気恥しくて、さっと顔を逸らす。


「あのねえ、奈菜。この2人こう見えても」

「陽さんなら、どうやって二人きりにしようか当然考えてましたよね?」

「そ、そりゃあ、まあね」


 陽は持っていたプール袋を力いっぱい握りしめた。


「じゃあ、フロントに部屋が開いているか確認してきます」


 無邪気に駆け出す松尾さんを陽は神妙な面持ちで見送る。

 俺も、たぶん夏希もだけど、2人きりになれたらそれは嬉しいけど、まだ早くないかという思いがあり――

 陽が一緒にいてくれるだけで安心感があり、この旅行は3人で楽しみたかったというのも本音だった。


 それがこんなことになるなんて……


 結果的に夏休みにも拘らず、部屋はかろうじて1部屋開いていた。

 陽が念のため、松尾さんのご両親に宿泊することを確認したが反対はされていないようで……


「……ここ、奈菜のいとこが働いているんだって」


 それもあって許可されたらしい。

 ということは――夏希と2人きりの夜を過ごすことになるってことらしい。


 さすがの陽もここまでは読んでいなかったらしく、その場に呆然と立ち尽くしていた。

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