第8話 ☆幼馴染のデート前日準備
駅前広場は電車を利用する人で夕方は少し賑わいを増す。
その場所で、あき君が陽ちゃんに引かれ、遠ざかっていくのをわたしは軽く手をあげて見送った。
陽ちゃん、仮デートまでして応援してくれるんだなぁ。
わたしも、もっと頑張らないとだ、だよね。
負けていられないと思い、わたしは行きつけの美容室に行って少し髪を切ってもらった。
自分で見てもそこまで変わっていない。
あき君も気づいてくれないかもしれない。
でも、やれることはやって明日を迎えたい。
続けてランジェリーショップにも行ってみる。
見えないところでも気持ちを入れるためだ。
どれにしようか目移りしてしまったけど、可愛いのを真剣に選んで購入した。
さらにコスメ用品とメイク特集の載った雑誌も買ってみる。
こういう物を買うのは初めてで、会計まで持っていくのにドキドキした。
これで、出来ることは全部やれたかな……
家に帰宅し、明日着ていく洋服を合わせてみる……
だけど本当にこれでいいのかな、まだ何かが足りない気がする、やり残しがある気が……
そんなどうしようもない不安感に襲われてしまう。
こんなとき、陽ちゃんなら――
☆☆☆
あき君と陽ちゃんと出会ったのは保育園の時だった。
いつも仲良く遊ぶ2人はなんだかすごく眩しくて、羨ましく思って、あの時も勇気を出して話しかけた。
それから、今まで2人に仲良くしてもらって、あき君とは恋人に、陽ちゃんとは親友になれた。
わたしがあき君を意識しだしたのはいつ頃だっただろう?
幼稚園の頃にはもう好きになっていた気もする。
あの頃もあき君は優しくて、少しわたしに弱さも見せてくれて、す、好きだったなあ、やっぱり。
わたしにとって陽ちゃんは憧れの存在だ。
いつもグループの真ん中に居て、周囲を明るく出来て、話も上手だし、見た目もすごく可愛いくて私にないものをたくさん持っている。
そのくせ、お兄ちゃん想い。
友達から悩み事を相談されたら、まるで自分のことのように奔走して解決してしまう力を持っている。
だから、陽ちゃんは友達からも慕われ、信頼されている。本当に優しくていい子だ。
陽ちゃんなら、いいアドバイスをしてくれる……
わたしもあき君のように陽ちゃんを頼ってみよう。
☆☆☆
夕食後、わたしは陽ちゃんの元を訪ねた。
ちょうどあき君は入浴中らしく、陽ちゃんが玄関先で対応してくれる。
陽ちゃんはすでにお風呂から上がったらしく、少し顔が熱っていてなんだか色っぽいなと思う。
でも、なんだか少し沈んだ表情をしている。
「陽ちゃん、ごめんね。わたしたちの為に」
「……いや、いや、いや。心地のいい疲労感だわ」
なんだか可笑しそうに口元が緩む陽ちゃん。
きっと、仮デートを頑張りすぎて疲れてしまっているんだ。
「あのね、わたしも陽ちゃんに相談が……」
陽ちゃんは私の言葉を手で制して、
「ちょ、ちょっと待って夏希。1つ聞いておきたいことがあるんだけど……」
「んっ?」
「そ、その、あたしのこと、どう思ってる?」
わたしはその質問に少しだけ首を傾げ、少し緊張しながらも伝えることにする。
「し、しん、親友だと勝手に思ってるよ」
「っ!? そ、そう。そこはあ、あたしも同じだわ」
「ありがとう、陽ちゃん」
わたしの言葉と顔を見て、珍しく陽ちゃんはたじろぐ。
「そ、それで相談ってなによ?」
「わたしにもデート大成功の秘策を教えてくれないかな?」
「っ!」
にへらと段々と陽ちゃんは少し気味の悪い笑みを浮かべた。
「陽ちゃん?」
「いえ、なんでもないから。しょうがないわね、夏希にも秘策を教えてあげるわよ」
「よ、よろしくお願いします、陽先生」
そして、わたしは初デートの日を迎える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます