推しが活動休止した!

asai

第1枠目 推しが活動休止した!

『おつかれさまー』

もう何度繰り返したか分からない終わりの挨拶を終えて、配信画面がオフラインと表示変更されるまで待ちアプリを落とす。

軽いため息をついて浮かれた心を落ち着かせていく。

大人気配信アプリ『フォルキャス』世界的なSNSとの連携もあり膨大なユーザー数を抱えている。そんなフォルキャスで活動しているのが僕の推し。顔だしはしておらず、声を武器にして配信している女性配信者だ。サポーターは1000人弱と少なめだけど、固定的なファンがついていて毎回50人程度が集まって雑談やらを楽しんでいた。妙な安心感とクセになる感覚を感じて、僕は初めて聞いた時からファンになった。その時間がたまらなく好き好きで僕は時間を忘れて楽しんでいた。


スマホの画面で時間を確認するともう深夜の2時を回ろうとしていた。

「大分生活リズムが崩れちゃったな」

若干の後ろめたさを感じながらも、これ以上の夜更かしはせずに眠りに就くことにした。

明日も変わらず学校がある。彼女が活動できる時間の都合上深夜に配信がある事が多い。

さらに配信時刻の告知などはされないため、完全不定期で、今日はあるのか?ないのか?

眠い目を擦りながら待っていても配信がなかった、なんて日も結構あったりする。そんな日はスマホをぶん投げたくなる。せめて予告くらいはして欲しいかな。「まぁ不定期でマイペースなのも魅力だけども」そう呟いて眠りに落ちた。





「ふぅ...」消灯した部屋にPCの明かりをつけ

てマイクをセットした配信環境。明らかに目が悪くなりそうな環境の中、私は配信を終えた。配信を始めてそれなりに経つ、最初は人が来なかったけれど続けていくうちにいろいろな人が来てくれるようになった。やっぱり継続は力なりだ。私の仕事の関係で深夜にしか配信できないのだけど、それでも聴いてくれているリスナーには本当に感謝している。「ありがとうみんな」私はPCの前で一礼した。ふと時間が目に入った。「2時か...」

「朝までゲームしちゃお!」PCでゲームを立ち上げて、夜どうし大人気のFPSゲームを楽しんだ。





朝を迎えた。過ごしやすい気温と心地よい電車の揺れが寝不足気味の体には応えて眠ってしまっていた。学校に着いても推しのことは誰にも話さない。自分だけが知っている秘密のスポット!的な感じがしてワクワクするからだ。それにネット上での推しとの絡みをクラスメイトに見られるとやっぱり恥ずかしい。

会話の流れで「推し?いるよー!」って感じで言うけれども特定されるような事は一切口にしない。今日の昼食は配信で言っていた、コンビニのおにぎりをアレンジしたものにしてみようか。4限目の日本史の時間にペンを回しながら考えていた。美味しそうだしそこまで手間もかからない。「よし、そうしよう。」自分だけに聞こえるような声量で呟いたりして午前中の授業を終えた。


それなりに仲の良い友達と昼食を取って、午後の授業も終わり、スマホにイヤホンをさして教室を出た。推しが出した歌ってみたを聞く。配信の時とは違う低めな声だけどスっと耳に入ってくる聞き取りやすい水のような声。聞いただけで足取りが軽くなり、歩くペースが少し速くなる。外れかけたイヤホンを強く耳に押し当て直すと、今日1番の笑顔になった気がした。




夜の10時過ぎ、やるべきことをやってあとは寝るだけという状態になった。今日は配信が無さそうな感じがしたから今夜は好きな声優さんのラジオ番組を聴くことにした。手に取ったスマホをラジオが聞ける画面にまで操作する。

「皆さんこんばんはー東坂桜夜です。」陽気な音楽と共にナビゲーターを務める声優が話し始める。彼女も僕の推しだ。配信者の方の推しと似た声をしてる感じがする。透き通って張りのある耳心地のいい声。

「ふつおた読んでいきまーす」インターネットラジオは配信中にコメントしていく訳じゃなく、事前にメーセージを番組ホームページから送って置く必要がある。配信と比べると距離感は遠く感じるかも知れないが、これはこれで便りが読まれた時の喜びは凄まじい。常連になれば認知されて、毎回紹介されるような番組もあるらしい。ついつい配信と比べてしまうけど、それぞれ違った良さがあるんだから比べる必要はないだろうな。

「私、最近いろいろ上手くいかない事が多くてさぁ...」ふつおたを読むコーナーからトークに入った。「仕事の内容上あんまり詳しい事は話せないけど、その...人間関係的なあれで..ね?いろいろあるじゃない?」

...何が合ったのだろうか?仕事の内容上話せないって事は、同業か関係者だろうな。

これが配信だと『どしたの?』『大丈夫?』

『無理はしないでね( ´ ` )』なんて感じの客観的に見たら結構痛いコメントが飛び交っていただろう。

『あーぁもう終わり!ちょっと余計な事話しすぎたかな笑 そんなこんなで今回もお別れの時間が近づいて来ております。今日も1時間お付き合い頂きありがとうございました。番組の#をつけてどんどん呟いてね!ナビゲーターは私、東坂桜夜がお送りしましたーまた来週!バイバーイ!!』

「もう1時間経ったのか、以外と早く感じたな」今日はそのまま眠りに落ちた。




朝起きてスマホの通知一覧を確認すると『配信を始めました1:23』の通知...

「........やらかした」




「やっほやっほ、お前ら生きてたかー?」

『死んだように生きてるかも』

そんなコメントが返ってくる。自分で言うのもなんだけど結構面白い返しをする人が集まってると思う。ちょっと笑えるようなやつから、ツボって爆笑してしまうようなコメントもある。

「昨日から2日連続で配信してる私偉い!」

テンション高めの媚びっ媚びのカワボをつくって言ってみた。

「........」こういうのには返ってこない。

え?普通逆なんじゃない?背景BGMが寂しげに流れている。私の配信は観覧人数に対してコメント数がかなり少ない。「.......」静寂な時間が続く。「ふんふんららららららー♪」さすがに無言はまずいから、BGMを鼻歌で歌って繋いだ。コメントがされなくなって1分以上、コールアンドレスポンスが出来ないと配信は成り立たない。でも催促するような事は言いにくいから「え、みんな生きてる?何聞いてんの?」『BGM』「ぶっ殺すぞwww」やっと返ってきた。アットホームで独特な雰囲気だ。それに加えて、深夜の配信の方が来てくれる人数が多いからよく分からない。「私にさんたさん🎅🏻は来ますか?」世間ではクリスマス1色だったのでクリスマストークをする事にした。

『サンタさんコロナ連れてくるよ』

あぁwこういうところだ。さっきのBGMの時もそうだったけど、私言った事を否定したりネタにのってきたりして、配信を盛り上げてくれる。それがクセになって毎回来てくれる人も多いみたいだから、この形の配信は続けたい。その後も投下されるコメントを1つ1つ拾って配信を進めていった。

私は1回30分で配信を終わる。延長してやる事もあるけど、たまにだ。30分って長く感じるけどやってみると楽しくて、体感時間は短い。実際私も、仕事のこととか、悩みを忘れられる時間でもある。

「ということでーみなさん、今日もありがとうございましたーおつかれさまーぁぁ!」

『おつー』『おつかれ』『おつかれさまー』

そんなコメントを確認しながら配信を切った。

「ん、んんー!」伸びをしながら椅子の背もたれにもたれる。「あ、そう言えば今日はいつも来てくれる人が何人か居なかったな」

私の配信の常連でコメントはもちろん、投げ銭までしてくれるいつもの顔ぶれが今日は揃わなかった。それぞれ生活があるんだから仕方の無いことなんだけどさ。




雑踏する駅、ごった返す道路...

私はこの時間が嫌いだ。嫌でも1日が始まるんだと知らせてくる。みんな懸命に働きに向かっている。そんな景色を見ていると自分が不甲斐なくなった。だから私はこの時間を避けて生きるようになった。





配信を見逃した日から1ヶ月経過した。普段から配信ペースは遅めの推しだけどこの1ヶ月は

通常の2分の1のペースでしか配信を取らなくなった。1ヶ月間での総配信回数は3回。まぁそんな事もあるだろう。この時はあまり気にしては居なかった。

配信が少なくなったから、他の配信者さんの配信に遊びに行ったり、聞いた事のない声優さんのラジオを聞いたりした。そこで感じた事なんだけど、プロの声優さんがナビゲーターを務める番組と比べると、一般人の素人は、当然だけど表現力で劣っていた。聞き取りやすい抑揚だったり、豊かな語彙を使える事だったりにプロを感じた。さよっち(東坂桜夜)のラジオは毎週あるし、推しの配信が無くても、それなりに充実した生活が送れていた。




普段と変わらない何の変哲もない1日。電車に揺られながら帰宅していると1件の通知が飛んできた。「は?」その内容を見て僕は自然と声が漏れてしまった。その後は状況が理解出来ず、半分放心した状態で家に到着した。

結構この日はまともに脳が機能しなかった。


そして翌日、少しは機能するようになった脳と一緒に通学した。「どしたん、なんか落ち込んでる?」普段から雑談するような友人が気にかけてくれた。「ちょっとね、いろいろあって...でも大丈夫。」「ふーん?まぁあんまり追及はしないけどさ、なんかあったら言いなよ、聞くから」「うん。ありがとう。」こういう時に友人のありがたみを感じる。このやり取りだけで、少し気が軽くなった気もした。授業内容はあまり入ってこなかったけど、なんとかやり過ごすことができた。しかし、僕はまた、スマホに飛んできた通知を見て衝撃を受けた。「えぇ!?」授業中なのにも関わらず立ち上がって声を上げてしまった。「もう...」一難去ってまた一難だ。2日続けて僕を襲った悪夢。それは2件のSNSでの報告が原因だった。その内容は......










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東坂桜夜official


東坂桜夜活動休止のお知らせ


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推し


しばらくの間活動休止的な感じで過ごします


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僕の最推し2人が活動休止した。






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あとがき

完全に自己満です。物語って言うより随筆に近い感じかも知れません。が楽しんでくれたら幸いです。とても長くなってしましたスンマセン。最後にここまで読んでくれたあなたへ!

ありがとう!!!







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推しが活動休止した! asai @aruru_rara12

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