プロローグ


どうしよう。いや、どうしようもないんだけど……。

麻依はぷるぷると震える右手を押さえるように、後ろで手を組んでいた。

「小松さん、みんなの投票だからね。頑張るのよ」

吉岡先生の言葉に麻依は小さくうなずいた。

三月にある音楽祭で、一番前でリコーダーを吹く役――かっこよく言うとソロってやつ――が麻依に決まったのだ。クラス投票で。

それが何を意味しているかは、麻依にだってわかる。クラスメートのにやにやとした笑みが、その証拠だ。


どうしよう。わたし、リコーダー吹けないよ……。

俯いた麻依の頭に、ぱっとシンデレラの物語が浮かんだ。

 やさしい魔法使いがドレスをくれて。かっこいい王子様が、手を引いてくれて幸せになるお話だ。

たとえばこれが、絵本や小説だったら、素敵な魔法使いか何かが表れて、都合よく麻依に魔法をかけてくれるだろう。王子様がこの弱々しく震える手を、引いてくれるだろう。

 でも現実はそんなことは起きるわけがない。自分で、何とかするしかないのだ。

 麻依は泣き出しそうになるのを、口をへの字にしながら、必死にこらえていた。



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