第9話 倉敷監督
「おや、君は……」
「え?」
倉敷監督は俺を見て目を止めた。
なんかやっちまったか!?
ヤベェ、全然分からん!!
「どこかで見た気がするなぁ……」
「…………」
よかった、何かやらかしてたわけじゃなさそうだ。
「まあ、いいか。それじゃあ、練習始めようか」
「「「「はい!」」」」
・
・
・
「つ、疲れたぁ……」
俺は座り込んで水分を取る。ものすごい勢いでスポーツドリンクがなくなる。
やはり、強豪校ということもあって、かなり練習はハードだ。
時間はあまり長くないが、その分質が高く、ハードになる。
今、2時間半の練習が終わったところだ。
「自主練したい奴は勝手にやっていけよ」
倉敷監督が声をかけている。
「六時半か……。やるか」
川島高校は最大で八時まで練習が可能だ。八時まで残ってやろう。
「母さんにメールして、と」
母に遅くなる旨をチャットアプリで伝え、ボールを持って立ち上がった。
「俺も残るぜ伊織!」
「うっせえ」
武田が絡んできて、俺が突っ込む(?)というもうチームでは定着しつつある光景を繰り広げながら、自主練習を始める。
ビッ
シュパンッ
「よしゃ」
ビュッ
スパンッ
…………。
黙々とシューティングを続けていると、
「伊織君だね?」
突然監督に声をかけられた。
「は、はい」
し、心臓に悪い。びっくりした。死角から急にやってくるんだもん。
「どこかで見たなと思ったよ。やっと思い出した。君、弱小チームで準決勝まで行ったろう?」
「え、ま、まあ」
何が言いたいんだ……?
「そうかそうか、あの時の……」
監督は一人で納得しているが、会ったわけじゃない。
……ていうか……もしかして試合見てたのだろうか……。
「ここに入ってきてくれて嬉しいよ。まあ、頑張って現レギュラーメンバーを蹴落としてくれよ。期待している」
「は、はい!」
よし、頑張るぞ!!
俺は時間ギリギリまでシュートを打ち続けた。
***
それからも毎日ハードな練習が続いた。
だが、毎日充実した日々を送ることができていた。もうすぐ四月も終わり、ゴールデンウィークへと差し掛かろうとしている。
クラスにも部活にも馴染めてきた。今日もキツいが楽しい練習が終わり、自主練に移ろうとしている時だった。
「集合」
「「「はい!」」」
監督から集合がかかったら、早く行動できる。これもこのチームのいいところだ。
「ゴールデンウィークの予定を大まかに伝えておく。初日に、通常の練習があり、次の日に
海原高校も泉浦高校も強豪だ。
名前が出た時、先輩たちが少しざわついた。
「「「ありがとうございました!」」」
話が終わると、この挨拶。慣れてきた。
いやー、練習試合に合宿か!
楽しみだ!
水分補給をしていると、
「合宿っておやつあり?300円まで?」
と、武田。
俺はとりあえず突っ込んでおく。
「いいわけないだろアホか。遠足のつもりかよ」
「えー」
「えーじゃない。大体OKだったら何持ってきたわけ?」
佐々木君も乗っかってくる。
なんだかんだ1年ゲームの時以来よく話すようになり、今では武田に次いでよく喋る仲だ。
「えー、う●い棒でしょ、べビー●ターラー●ンでしょ、ポテチでしょ、」
「わかったわかった、もういいよ。武田がかなりスナック好きなのは分かった。聞いた俺が悪かった」
「いや、佐々木は悪くないぞ?」
「えー、持っていけないのか……」
「うっせえ。まだ言ってんのか。合宿だからな?部活動だからな?」
「分かったよー」
そんなことを喋りつつ、自主練をする。
そうして、四月が終わっていく。
***
帰る前のホームルーム。
「それではみなさん、良い連休を」
担任の先生が挨拶し、
「「「さようなら」」」
放課後へ。
「うっしゃ、やるぞぉ!」
武田が我先にと教室を出て行く。
「まてぇこら!」
俺も荷物を引っ掴んで追いかける。
初日に突っ走って部活へ行った俺へ、謎の対抗心を燃やしている武田が、俺より先にと教室を出、俺がそれを追いかけるという光景もまた、定番になってきた。
走って走って体育館へ。
「はぁ、はぁ、こ、こんに、ちは」
「こんにちは」
武田は息切れしている。なんであそこまで本気で走ったんだよこの野郎。
「おう、こんにちは。早いね」
顧問の先生だ。
「今日も頑張れよ」
「「はい!」」
部室に荷物を置き、バッシュを履いて、ウォームアップする。
ウォームアップのメニューは特に決められておらず、各自でやるように、とのことだ。だが、疎かにしてはいけない。しっかりやるからこそ、各自で自由なアップができる。
「おす」
「おす佐々木」
「よう!」
「キャプテン、こんにちは!」
「こんにちは!」
「こんにちは」
続々とチームメイトがやってくる。
「さあ、今日も頑張ろう!!」
「「「「「おう!!」」」」
そして今日も厳しい練習が始まる。
・
・
・
練習が終わり、監督の元へ。
お話だ。
「明日からゴールデンウィークだな。わかってると思うが遊ぶ暇はあまりないぞ?明日は午後いっぱい練習だ。明後日は言っていた通り海原高校と泉浦高校との練習試合だ。その次の日は合宿の準備も含めて時間を取るためにオフだ。この日は休んでこい。そのオフが明けたらいよいよ合宿だ。学校で行うからあまり期待しないようにな。その後は3日ほど午後から通常練習だ。詳しくは今から渡すプリントを見るように。以上だ。お疲れ様でした」
「「「ありがとうございました!」」」
プリントが回ってくる。
試合の組み合わせや時間、合宿の時間割などの詳細だ。
合宿に必要な持ち物も書かれている。
ふうん、寝袋いるのか。家にあったかな……。
食材も持ってこれるだけ、か。
もちろんおやつは書いてなかった。
練習試合や合宿、いよいよ本格的に高校バスケといった感じだ。なんかワクワクするなぁ!
それから、日課になったシューティングをこなし、帰路についた。
____________________________________
読んでくださりありがとうございます!
アドバイスや感想、ご意見、ご質問等ありましたらよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます