間違えない貴方と間違えた君

桐弦 京

間違えない貴方は囚われる

 私には不思議な力がある。それは時間を逆行させる力。とはいっても、丸ごと巻き戻せるわけじゃない。出来るのは一人の意識を過去に移すことだけ。それも私はダメで、他の人だけ。そして、使って過去に飛んだ人が過去に本来起こっていたことを変えた結果、今に影響があればその影響を私が感じ取れるのがこの力の副産物。そんななんとも微妙そうな力だけど、意外とすごい。なんせ、今のところ過去改変によって今が変わらなかったことはないから!テストで名前の書き忘れをして落ち込んでた友達がそれを回避したみたいな小さなことから、事故の回避ができたこともあったかな。


 そんな私には恋人がいる。その彼とは幼馴染で、子供の頃から仲良くしていた。私にとっての初恋の人。彼と付き合い始めたのは、同じ高校に入ってしばらくした頃だった。そんな彼だけど昔から成績優秀で容姿もいい。女の子から告白されるのは日常茶飯事、私と付き合い始めてからもそれは止まなかった。でも、彼はそれらの告白に答えたことは一度もなかった。中には私よりも可愛かったり、綺麗だったり、頭が良かったりする娘もいたけど一度も。


 そんな彼の一番の凄さを挙げるなら、間違えないことだと思う。間違えないといっても、テストの問題みたいな答えがあることで間違うことは多少あった。けど彼は、揉め事の仲介だとか人との付き合い方だとか明確な答えがないことに関して間違えたことはない。


 ただ一度を除いて。


 間違えない彼の唯一の間違いをなかったことにしてほしくて、私は彼を過去に戻した。けど何も変わらなかった。変わらなかったのは初めてだった。どうして?変えられるのよ、間違いによって手に入れられなかったものを手に入れた今に。私はこの結果を認めたくなくてもう一度彼を過去に戻した。


 変わらなかった。もう一度。変わらない。もう一度!変わらない。もう一度!!……


 何度繰り返したのかわからないけど彼が過ごした時間が現実で続いていたとしたら彼はもう老人になってるはず。途中から夢中で覚えてないけど、それくらい繰り返したと思う。けど何も変わらなかった。変わらず彼の恋人は私だった。なぜ彼の恋人があの人にならないのか。あの人が彼の初恋なのは間違いない。私が彼に向けていた視線と同じものを彼はあの人に向けていたから。その初恋を叶えるチャンスが何度も何度も巡ってきているのに。あの時貴方が告白を諦めたのはただの勘違い故だったと知ったはず。そして、私が貴方の傷心し弱ったその心に付け込んだことも、その勘違いのことを知っていながら貴方と別れたくなくて、勘違いを質す機会を与えないためにあの人と貴方を意図的に遠ざけてきたことも。全部知ったはず、あの人に会って話をしたんだから。


 だからこそ、私はこんなことを始めたんだから。私と付き合っている状態であの人に想いを告げることを貴方はしない。そうとなれば貴方は私に別れを告げるでしょう。理由なんていっぱいあるもの。でも私は嫌だった。貴方から別れようと言われるのは、絶対に。だから貴方を過去に戻し、そもそも付き合わなかったことにしてしまえばその言葉を私が告げられることもない。貴方は初恋を叶え、私は貴方との日々を私だけの思い出として残すという最後の我儘を叶えられる。どちらにとってもいいことなの。だから、お願い。正しいことをして。



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