第三章
第14話 王城からの呼び出し
「ギルドじゃなくて王城から? なにかしらね?」
「何かしたっけ? 何もしてないよね?」
「まさかこの家のことか……?」
「今更? と思ったけど、気付かれなかっただけの可能性もあるのか。ヤバいどうしよう?」
家を建ててから既に1か月ちょっと経つ。
内装や必要な家具の設置も概ね終わった。
不便さを感じた所はみんなで意見を出し合い、改良できるところはすぐにしていった。
特にセラーナから指摘された“ヒーター”板の改良は、我ながらとても上手く行ったと思う。元々“ヒーター”板を1枚置いて加熱できるようにしていたけど、火力調整が出来きたらもっと便利とのことだった。
その為、1枚板ではなく、大中小の輪を作り、それぞれに火力調整をした付与をすることにした。
輪を3重に並べ、内側の小さい順から“ローヒーター” 、“ミディアムヒーター”、“ハイヒーター”として火力の調整が出来るようにしたところ、料理しやすく美味しくなって皆大喜びだった。
こんな感じで魔法を駆使して快適生活を送っていたが、人様に迷惑を掛けることは特にしていないと思う。
「大きな家に住んでいるからって王城に直接呼び出されることなんてないわ。もし呼び出されるとしても先に貴族や行政に呼ばれるはずよ。もっと他の理由ね」
「あ、これヴィト宛てじゃなくてブルータクティクスの私宛になっているから、お家の事じゃないと思いますよ。クランに何か用があるんでしょうね」
「え? あ、本当だ。ごめん、ここに届いたからオレが呼び出されたのかと思っていたよ」
「クランの拠点としてここをハンターギルドに登録しておいたからですね。とりあえず、1週間後に王城に来なさい、詳細はその場で伝えるとのことですが、どうしましょうか?」
「どうするもこうするも、行かないわけにはいかないよね……」
「そうですね。今後の事についてかもしれませんし、一応みんなで行きませんか?」
「そうだね。全員が王城に入れるわけじゃないかもしれないけど、その方がいいね。でもとりあえず、皆しばらく大人しくしていようね……」
◆
なぜかわからないが王城に呼び出されたため、オレたちは約1か月半ぶりに王都ソルティアに来ていた。
オレたちは以前泊った<プラウディア>に泊まる事にしたが、セラーナは最近の報告をしておきたいとのことで親戚の家に泊まることになった。
一応娘さんを預かっていることになるので、今度ご挨拶に伺っておいた方がいいのかもしれない。
手紙には明日の朝10時に王城に来いと書いてあったので、串焼き屋のおっちゃんに会いに行ったり観光したりして、久しぶりの王都を満喫していた。
そして当日の朝、セラーナと合流し、王城へとやってきた。
「王城なんて初めてなんだけど、礼とか作法とかどうしたらいいんだろ?」
「私も初めてなのでわからないです……。叔父さんは『庶民なんだから周りの真似をしたり、失礼の無いようにだけ振舞っておけばいい』と言っていましたが……」
「グウェンさん最年長者だし何か……って、やっぱ何でもない」
「なぜなのだ!? わたしに聞くのだ!」
「えー? どうせグウェンさんは知らないでしょ」
「マナーくらい知ってるのだ!」
「うそだぁー」
「グウェンさん、見栄張らなくなっていいんだぜ」
「嘘じゃないのだ! 礼をするときはこうするのだ」
そういうと右足を少し引いて膝を折り、左ひざを立て、左手を胸にあてて頭を下げた。
実にスムーズで優雅な所作だった。
「なんでそんな事しってるの!?」
「信じられん……」
「すごいわね。美しかったわ」
「本当です。優雅でした」
男性陣と女性陣の反応がくっきりと分かれていた。
「このくらい当然なのだ!」
ふんす! と鼻息を荒くしてふんぞり返ったグウェンさんをちょっとだけ見直した。
他の場面でどうすればいいかは分からないけど、礼の仕方は覚えておいて損はないはずだ。
グウェンさんに謝罪と感謝を述べつつ歩いていると、王城の門についた。
当然、門には騎士が立っている。
「すみません。私たちは"ブルータクティクス"というクランで、このお手紙で王城に呼ばれたのですが」
セラーナが説明しながら手紙を見せる。
「"ブルータクティクス”の皆様! ようこそ御出で下さいました! ご案内いたします!」
騎士は敬礼し、中へと案内してくれた。
騎士に後ろについて初めて門の中に入る。
「この対応なら家の事を怒られる感じじゃなさそうだね」
「そうね。一先ず安心といったところかしら」
少し肩の力が抜けたので、初めての王城を目に焼き付けることにした。
こんな機会は滅多にないので、キョロキョロしながら騎士についていき、中庭を抜けて王城の大きな扉の中に入っていく。
広いホールの両側には2階へ続く階段があり、1階部分には扉や通路が見える。
ホールの中央で立っていた男性がこちらに近づいてくると、騎士がその男性に敬礼した。
「レイダー団長! "ブルータクティクス"の皆様をご案内致しました!」
「ご苦労。お前は持ち場に戻ってくれ」
「はっ!」
案内してくれた騎士はオレたちにも敬礼して来た道を戻っていった。
「初めまして。私はファイライン王国騎士団団長のレイダーと申します。皆様、ようこそ御出で下さいました。」
「は、初めまして!私は”ブルータクティクス”のマスター、セラーナと申します。よろしくお願い致します。こちらはヴィト、タック、ススリー、グウェンです」
セラーナの紹介に合わせて俺たちも頭を下げて挨拶をした。
「皆様よろしくお願い致します。本日ご足労頂いた件について、これから説明致しますので、どうぞこちらへ」
レイダーさんの案内について2階の部屋へと進んでいく。
広くて明るい廊下の壁には豪華な装飾が施されており、天井には絵が描かれている。
床には高級そうな絨毯も敷かれている。
その絨毯の上を歩いていくが、『やべー、靴綺麗だったかな?』と自分の足跡が不安になってくる。
レイダーさんが部屋の前で止まり、扉を開けて中に案内してくれる。
「こちらでお掛けになってお待ちください」
促されるまま部屋に入ると、長いテーブルと椅子があり、そこには10名ほどの人が座っていた。
その中には見知った顔もあった。
「あ、ディリムスさん」
「おぉ! "ブルータクティクス"の皆様方ではござらぬか!」
オレたちの同盟クラン”天下泰平の道“のマスターディリムスさんと、隠密術Lv6だった猫人族のアイリさんがいた。
「お二人も呼ばれていたんですか」
「左様でござる。理由は分からぬが、王城から手紙を頂いたので、アイリと2人ではせ参じたでござる。皆様方も?」
「そうなんです。オレたちも手紙を頂きました。うちは近いので一応みんなできました」
他の人たちもどこかのクランの人たちのようだ。
それぞれ2~3人で来ているようで、オレたちが一番大人数だったが、とりあえずオレたちだけじゃないし、顔見知りもいるので少し安心した。
これなら家の件で怒られることは多分ないだろう。
ディリムスさん達の隣の椅子に座り、何で呼ばれたのだろうかと話していると、レイダーさんと3人の男性が部屋に入ってきた。
「皆さん、本日は遠方よりご足労頂き、ありがとうございます。私はファイライン王国第一王子のリッツィ・ファイラインです。こちらは宰相のオルザファレン、その隣がハンターギルド・ファイライン王国本部のマスター、インフェリテスです。騎士団長のレイダーは既にお会いしましたね。よろしくお願い致します」
めちゃくちゃ偉い人じゃないだろうか?
周りのみんなは慌てて立ち上がり、膝をついて礼をした。
さっきグウェンさんに見せてもらったやつだ。
オレたちもぎこちなく真似をして膝をついて礼をした。
「皆さん、ここではそのような礼は結構ですのでお戻りください。これから皆さんをお招きした理由を説明させて頂きますので、お席にお掛け下さい」
皆立ち上がるが、さすがにすぐに座ることはなく、王子や宰相が席に着くのを待ってから椅子に座った。
皆が席に着いたのを確認し、リッツィ王子が話し始めた。
「本日皆さんに来て頂いたのは、今後の魔物の襲来に関してお話しておきたいからです。お告げを受けてからもうすぐ3か月が経とうとしています。天使の話によれば、数か月以内に<ワームホール>が発生し始め、魔物が侵攻してくるという話でした」
そういえばお告げからもう既3か月経つのか。
魔法や剣術等の訓練は毎日やっていたけど、そんなに時間が経っていたとは。
「実は10日ほど前、西方のグレイフォール王国にて<ワームホール>が発生し、そこから魔物が出現したという報告がありました」
驚きの報告にざわつく室内。
グレイフォール王国はファイライン王国の正反対の位置、逆三角形をした大陸の西側中央部に位置する国だ。
距離的には遠い国の出来事だが、<ワームホール>は別次元とつながる穴なので、遠いからと言って安心はできない。
まだ先の事と思っていたが、もう既に起こっていたとは。
「突然の出来事だったため対応が遅れ、近隣の村の住民に壊滅的な被害が出ました。連絡が入り次第、すぐにハンターギルドがAランクのハンターを3名擁するクランを派遣して討伐をしたとのことですが、村人の被害は死者が42名、重傷者が31名だったようです。魔物の数は7体。赤黒い毛並みで狼のような魔物だったとのことです」
被害の多さに皆言葉が出ない。
地域によって異なるだろうが、小さな村だと人口は100人程度だ。
たった7体の魔物によって約半数が死に、生存者も殆どが重傷を負っていることになる。
「派遣されたクラン”ダイヤモンドアッシュ“は、Aランク3名とBランク7名、Cランク11名という編成で討伐に向かったそうです。個々の魔物の強さはさほどでもなく、Cランクのハンターでも倒せるくらいのようです。しかし、魔物も連携をしてくるようで、AランクやBランクのハンターならまだしもCランクで同数以下の場合は非常に危険だろうとのことでした」
初めて魔物と戦った人たちの非常に貴重な意見だ。
オレたちはSランクと言われたけど、当然魔物と戦ったことはまだない。
オレたちは上手く戦えるのだろうか……。
「現在、グレイフォール王国では、討伐した魔物の生態や能力の調査を行っており、分かり次第、ハンターギルドを通して共有される予定です。しかし、今後いつどこで<ワームホール>が発生するかはわかりません。よって、今後の対応を改めることにしました。インフェリテス、説明を頼む。」
「はい、畏まりました。皆様、初めまして。ハンターギルド・ファイライン王国本部のマスター、インフェリテスです。私の方から魔物討伐と対策について説明させて頂きます」
インフェリテスは椅子から立ち上がり、みんなに一礼して説明を続けた。
「今回のグレイフォール王国の件で、発見の遅れは壊滅的な被害につながる事が判明いたしました。よって、魔物のランクが定まるまでは、ハンターランクE、Dの方々には、調査や巡回をメインに活動して頂き、魔物や<ワームホール>の早期発見と迅速な情報伝達に力を入れて頂くこととなりました。そして、討伐は基本的にCランク以上のハンターにお願いしていく方針です」
タックよりも大柄で逞しいヒト族の男性が手を挙げた。
「どうぞ、お願いします」
「“ウォークライ”のベイズと申します。我がクランにもEランク、Dランクの者が多数いるのですが、その者たちを連れて討伐には行けないという事でしょうか?」
「いえ、絶対に行けないという訳ではありません。ただし、初めは高ランクのハンターと共に行動して頂くことになると思います。また、今後魔物のランクがEやDランクと確定した場合は、同ランクの者に討伐に討伐して頂くことになると思います」
「なるほど。あくまでも慣れない初めのうちはということですな。」
「はい、仰る通りです。巡回についても、戦闘になった場合や追跡係、伝達係と2手に分かれることなどを考えて基本的に4~5名程度で組んで行って頂く予定です。人数が足りないクランなどはギルドでパーティを組めるように調整する予定です。討伐に関しても同様です。」
初めのうちは積極的に魔物を探し回って、見つけたら強いクランが速攻で行って倒してしまうということか。
魔物の研究が進んできたら同ランクのハンターを派遣するらしい。
「本日ここにお集まり頂いた8つのクランは、Aランク以上のハンターを擁するクランの方々です。遠方の為、本日到着できなかったクランもありますが、基本的に未知の魔物が出現した場合は、まず皆様方に依頼が行く予定です。幸い、皆さん活動する拠点が異なっておりますので、拠点地域の周辺の討伐を担うとお考え下さい。もちろん、応援が必要な場合は各クランに通達致しますし、同じ町を拠点とするクランも活動しますので、全ての依頼を受け持つ必要はありません」
そりゃそうだよね。
うちはティルディスが拠点だけど、ティルディス周辺に発生した魔物を全て4人で倒せと言われても難しい。
「流れとしましては、各地域のギルドからE~Dランクのハンターに巡回に出て頂きます。目安としては近隣の村や街道、畑などを3~4時間程度で巡回して頂きます。夜間は視界が悪いですが、人の動きも減りますので、主に村周辺を巡回して頂くことになると思います。これを交代制でなるべく隙間なく行っていきたいと思います。そして魔物や<ワームホール>が発見された場合には、伝達に1名が走り、残りの者は追跡を継続します。そしてギルドから討伐可能なクランへ連絡し、討伐に向かって頂くという流れになります」
インフェリテスさんに続いてリッツィ王子も補足した。
「巡回や討伐には王国騎士団も可能な限り協力する予定です。ハンターギルドは国からは独立した機関となっておりますが、実際に魔物が出現し、早急な準備や調整には国とギルドの連携が重要ですので、本日王城へお招きした次第です。必要な物資などは最大限ハンターギルドに提供いたしますので、皆さんよろしくお願いします」
そういってリッツィ王子が頭を下げ、宰相、ギルドマスター、騎士団長も頭を下げた。
慌ててオレたちも頭を下げた。
その後は報酬についての説明を聞いたり、今後も何かあればここにいるクランで集まって会議をしたいとのことで王都滞在用の家を各クラン1つ頂いたり、初めての方が殆どなので自己紹介などをしたりしていた。
その間、オレはこっそりセリシャさんからコピーした“スキャン”を使っていた。
しかも改良してドーム状に魔力を展開することで、直接触れず、範囲内なら同時に何人も”スキャン“出来るという便利さだ。
やはりAランクの面々は高Lvスキルを持っているようで、剣術や体術などLv7の人が殆どだった。
ただ、オレたちのように変わったスキルを持った人は見当たらなかった。
レイダー騎士団長も剣術Lv7を中心に様々な武器にも精通しているようだし、リッツィ王子も剣術Lv6と高Lvスキルだった。
オレたち以外で一番スキルのLvが高かったのは、ダークエルフ族の細目の男性だった。
しかも暗殺術Lv8、隠密術Lv7という恐ろしいスキルを持っていた。
穏やかな表情で話を聞いているが、スキルを見るとあまり関わりたくはないので、あとで皆にも伝えておこう。
などと考えていると、突然、強烈な違和感を感じた。
驚いて思わず立ち上がりその方向に目を向ける。
恐らくここからは2~3㎞離れた位置だと思われるが、セラーナの結界の時に感じた違和感を何倍も強くして、更に気持ち悪くしたような感覚だ。
突然立ち上がったオレをみんなが見ており、レイダー騎士団長はリッツィ王子を守るため警戒している。
「お、おいヴィト、どうした? トイレか?」
「ち、違うよ! なんか凄い嫌な予感がする。セラーナは感じない?」
「感じます。すごく不快な感じがします。たぶんあちら、3㎞位離れた所……もしかしたら<ワームホール>なのかもしれません」
「やっぱり。オレもそう思うよ」
再度ざわつく室内を落ち着かせ、リッツィ王子が確認してくる。
「<ワームホール>が発生したということですか?」
「<ワームホール>なのかどうなのかはわかりませんが、その可能性はあると思います。この方角の2~3km先には何がありますか?」
「その方向と距離ですと街からは外れていますね。おそらく畑が広がる一帯だと思われます」
オルザファレン宰相が教えてくれた。
「何はともあれ向かってみよう。<ワームホール>だったら一大事だ。失礼、お名前は?」
「“ブルータクティクス”のヴィトです」
「君たちがあの……。いや、後にしよう。ともかく急ごう」
オレたちは念のため全員で違和感を感じた場所へと向かうことにした。
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