第11話 ティルディスへの帰路
ハンターギルド登録や新たな仲間との出会い、ブルータクティクス”への加入など、充実した王都滞在も終わり、オレたち5人はティルディスへの馬車に揺られている。
行きは乗合馬車でも他の乗客がいなかったため快適に移動が出来たが、帰りはさすがに混雑していたため、少々お高くなるが馬車を貸し切りにすることにした。
そして、今まさにティルディスへ向かう馬車の中にいるのだが、すぐにでも馬車を降りて歩いて帰りたい気分だった。
オレの右にセラーナ、左にグウェンさんが座っている。
セラーナは機嫌がいいが、グウェンさんの機嫌がすこぶる悪い。
ムスッとした表情に加え、口でも『ムッスー』と言っている。
言葉にする人は初めて見たが、間に挟まれるオレは針の筵に座らされているような感じだ。
何でこうなってしまったんだ……。
◆
クラン員募集会の翌日にオレたちはティルディスに帰る予定だったが、“ブルータクティクス”の一員となり、クラン員募集会の開催も3日間あったことから、帰りを遅らせて募集側で参加していくことにした。
大人数を募集するわけではないので、“人見知りセラーナ作戦”を継続し、人避け&不可視化の結界を張って、それでも来てくれる人を待った。
結局誰も来なかったが、その間、お互いのことや“ブルータクティクス”の方針などについて沢山話し合えた。
また、セラーナから回復魔法や結界魔法を“
クラン員募集会最終日の夜、オレたちはディリムスさんのクラン“天下泰平の道”と一緒に、親睦会を行うことになった。
王都に来てからの短い時間で、みんなとかなり仲良くなった。
しかし、今後オレたちはティルディスで、“天下泰平の道”はディリムスさんの道場があるリビングエッジで活動していくことになる。
リビングエッジは王都から南に150㎞程離れた街であり、せっかく仲良くなれたのに会う機会もないのは寂しいという事で、オレたち“ブルータクティクス”と“天下泰平の道”は同盟を組み、年に1~2回は王都で会うことにした。
といっても、ハンターギルドでそういう制度があるわけではないし、自分たちで勝手に言っているだけなので、『今後仲良くしようね』、『困ったときは助け合おうね』くらいのものだ。
そんな同盟結成記念とお疲れ様会などを兼ねて親睦会を行うことになった。
“ブルータクティクス”のメンバーは現時点で5人となったが、“天下泰平の道”は立ち上げメンバー12人に加え、46名の新規加入者を獲得し、一番人気のクランとなっていた。
規模的には明らかに“天下泰平の道”の方が大きいのだが、初めは『傘下に入れて頂きたい!』と言われてかなり困った。
しかし、『友人なんだから対等の立場であるべきだ!』と伝え、傘下云々は突っぱねた。
それでも、ディリムスさん含むメンバー全員がオレたちを慕ってくれているようで、親睦会なのに物凄い御持て成しをされてしまった。
“天下泰平の道”のクラン員は早くも洗脳(?)されているのかわからないが、新規加入者も『ござる』口調となり、すぐに誓いたがるようになっていた。
タックはあの謎のキャラが発動し、何か言うたびに『おぉ~』、『さすがでござる』とどよめきや感嘆の声を漏らされていた。
グウェンさんも大人気であれも食べなさい、これも食べなさいと餌付けされている。
本人も大満足の様だ。
セラーナはオレとススリーと一緒に『ついていけない組』の席に座り、比較的正気を保っている人たちと話をしていた。
持ち前の人見知りも発揮して、ござる言葉やソウルメイト達の振る舞いに『みんなすごいですね……』と圧倒されている。
その様子を見て、オレとススリーはセラーナもこっち側の人だと安心していた。
しかし、時間が経って場の雰囲気に慣れてくると、『ありがとうございます』が『かたじけない』に、『そうなんですか』が『さようでございますか』に変わってきていた。
頼む、セラーナはこっち側にいてくれ!
じゃないとパワーバランスが向こうに傾いてしまうんだ!
向こうの方で『わーっしょい! わーっしょい!』と、掛け声と共になぜか胴上げされ、『優勝なのだー!』と叫んでいるグウェンさんみたいになってほしくはないんだ。
でもそれを見て何かウズウズしているようなので、もう手遅れなのかもしれない……。
やがて熱狂に包まれた親睦会も徐々に落ち着き始めたころ、タックとディリムスさん、グウェンさんもオレたちの席の方に戻ってきて、今後の活動や帰路の話などをしていた。
「それでディリムスさんの所は、新規加入者はどうするの?」
「ヴィト殿、どうするのとは?」
「いや、みんなはリビングエッジに帰るんでしょ? 新規加入者でも他の街から来た人はどうするのかなと思って」
「あぁ、そういう事でござるか。もちろん皆すぐにという訳にはいかないでござるが、来れる者は一緒にリビングエッジに向かうでござる。他の者たちも段取りが付いたらリビングエッジに来る予定でござる」
「へーすごいね。でも移動先で仕事とか住む所とかどうするんだろう?」
「某、細々とではあるが道場をやっているので、寝食の場は問題ないのでござる。仕事についてもハンターギルドの仕事が始まるまでは、街の者たちに掛け合い、何か手伝いをさせてもらう予定でござる」
「なるほど。でも家族で移動する人とかもいるでしょ?」
「いかにも。その者たちには敷地に家を作り、そこを使ってもらうでござるよ。もちろん、自身で街に家を借りたいという者はそれでよいですしな。折角同じクランとなったのに、所在がバラバラでは勿体ない。連携や親睦を深め、互いに切磋琢磨していくには、近くにいた方が良いでござる」
「確かにそうだよね」
うちの場合、セラーナ以外はティルディス在住なので、ティルディスに戻る予定だった。
セラーナはクラン員が見つかった場合、王都の親戚の所にしばらく滞在する予定だったみたいで、オレたちが帰った後は王都を拠点とするつもりのようだった。
王都とティルディスなら馬車で4~5時間だし、まあいいかと思っていたんだけど、やっぱり近くにいた方が話し合いとかも便利だよな。
「やっぱりセラーナも一緒にティルディスに来た方がいいのかな?」
「確かにみんながティルディスなのに私だけ王都というのも不便ですし、寂しいですね。でも王都なら親戚の家に泊めてもらえるけど、ティルディスだと家を借りないといけないのでお金の心配も……」
それが一番のネックなんだよね。
ディリムスさんみたいに道場でもあればいいんだけど、さすがにそんな人はオレたちの中にはいない。
お金に関してはオレもあまり役には立たない。
するとタックが言い出した。
「ヴィトの家に住めばいいんじゃないか?」
ピクッとセラーナとグウェンさんが反応する。
「うーん。まぁ確かにうちはオレ一人だから部屋はあるけどさ……。オレは構わないけど、やっぱりほら……ねぇ?」
どうやって答えたらいいか分からず困ってセラーナを見る。
「そ、そうですよね。私なんてご迷惑になっちゃいますもんね。あはは……」
「いや、オレは迷惑では全然ないし、部屋もあるからいいんだけどさ。ほら、クラン員だからと言って、一緒に寝泊まりするのはセラーナも嫌でしょ?」
「いえ、私は別に……。ヴィトとは初めて会った感じもしないですし……」
「そうは言ってたけどさ、そういう事じゃないような……」
「ご迷惑じゃなければ泊めて頂ければ嬉しいですが……。でも無理にとは言いませんので。はい」
年頃の娘が出会ったばかりの奴の家に住み込むなんて、ご両親も親戚もブチ切れるんじゃないだろうか?
「でもご両親とか親戚の人とか怒らない?」
「大丈夫です。成人したんだし、力も授かったんだからあなたの思う道を進みなさいってお父さんお母さんも言ってくれましたし!」
「それはこういう時の事じゃないんだと思うけど……。うーん。セラーナがいいならいいんだけど……、本当に大丈夫なの?」
「はい! ぜひお願いしますっ! あ、ちゃんと家賃とか生活費とか、あまり多くは払えないですけどお支払いしますので!」
「いや、お金を節約するためなんだから家賃なんていらないよ。オレも払ってるわけじゃないし。最近は魔法のおかげで薪代も必要ないし、水も水汲みせずに使い放題出せるし。かかるとしても食費とか日用品とかくらいかな。それでも1人から2人になったところで大したことないからね」
「食費ももちろん出します! お料理やお掃除とかもします!」
「あ、うん。オレも出来るから無理しなくていいけどね。そんなに気を使わなくてもいいからね」
「いえ、むしろやらせて下さい! 何か好きな食べ物とかあれ食べたいとかあったら言って下さいね! 私、頑張って作りますから!」
「あ、はい。ありがとうございます」
クランの円滑な活動の為にもメンバーは近くにいた方がいいもんな。
流れでセラーナと同居することになったら、横でプルプルしていたグウェンさんが爆発した。
「ダメなのだ! わたしは認めないのだ!!」
「えっ、何が?」
「セラーナがヴィトの家に住むことなのだ!」
「認めないって言っても親じゃあるまいし……」
「ダメったらダメなのだ!!!」
「いやだって、しょうがないじゃないですか。一人だけ王都というのも不便だし」
「じゃ、じゃあウチに泊まればいいのだ! ヴィトの家である必要はないのだ!」
「「「いや、それは無理」」」
ススリーとタックもハモッて来た。
「足の踏み場もないのにどこにどうやって泊めるつもりなのよ」
「あんなとこに人を泊めるなんて正気の沙汰じゃないぜ」
「何度掃除しても謎のキノコが生えてくる部屋は、既に人の部屋じゃなくてキノコの部屋ですよ」
瞬時にボコボコにされるグウェンさん。
「でも、でもでもダメなのだ!!」
「じゃあどうするんですか?」
「ぬぐぐ……! じゃあ私もヴィトの家に泊まるのだ!」
「えっ、なんで??」
「なんでもなのだ!!」
グウェンさんが好意を寄せてくれていることはわかるので、言わんとしていることはわかるんだけど、他にいい案もないしなぁ。
別にセラーナに手を出そうなんて思ってるわけじゃないんだけど、そりゃ気になるか。
でも面倒なことになりそうだなぁ……。
困っているとススリーが間に入ってきた。
「もうしょうがないわね。まぁセラーナもいきなり男の人と2人きりで生活するよりも同性がいると気が楽でしょうし、いいんじゃない? グウェンさんも人間らしい生活を覚えるのにちょうどいい訓練にもなるかもしれないわ」
「いや、私は別に2人でも」
「わたしはちゃんと人間」
「うーん……。そう言われてみれば確かにそうだね。ごめん、気が付かなかったよ。セラーナも安心できるし、グウェンさんも人間に戻れるし、一石二鳥だね」
「「う、うん……」」
◆
ということが昨夜にあった後、現在の場車内に至るわけだ。
セラーナはティルディス自体初めてらしく、街の事を色々聞いてきたりしてとても楽しそうだ。
そしてセラーナがこれからの生活を楽しみにすればするほど、グウェンさんはムスッとしていくのだった。
タックとススリーは我関せずのスタンスのままだった。
しかし、タックは時折こちらをチラッと見てはニヤッとしてくる。
ムカッとしたオレはこっそりタックの座面に集中し、ヒョコっと棘が生えるイメージをする。
「いてっ!?」
「どうしたの?」
「いや、何かチクッとした。なんだ?」
「何もないわよ?」
「おかしいな。何だったんだろ?」
ククク……いい気味だ!
その後もセラーナが話しかけてきたら、負けじとグウェンさんも話しかけてきたり、グウェンさんが眠気に負けてこちらに寄りかかってくると、セラーナも寝たふりをしてもたれかかってきたりと、嬉しさよりも精神的な負担が大きい帰り道だった。
しかし、こんなことは序の口で、その後起こる悲劇をオレはまだ知る由もなかった……。
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