目指すはヴァンパイア!!・・・ってゴブぅう!!?

アガズ巾着

第1話 誕生と覚醒

 ンッ・・・眩しい。


 ハイビームで照らされたかのような悪意のある光に眉間にシワが寄る。


「ゴブッ・・ゴォオブ・・・ゴ、ゴブッ?」


 俺の喉から出る声はこんな音じゃなかった・・・。少しずつ光に目が慣れてきた。洞窟の先から何かを反射しているのだろう、自分の顔に真っ直ぐに光が伸びてきていた。なかなかに迷惑な角度で当たっている。


 「ゴブゥウウ」


 そして、俺の喉と声が相変わらずおかしい。ってか、そもそもなんで洞窟みたいなところに俺がいるんだ?


 背中に硬質な感覚がある。腰を上げて立つと、どう考えても視点が低い。妙に猫背になった感覚と違和感ありまくる身体が軽い・・・。


 自分の左手を見た。


 見たことのない長め指が4本。皮膚も白く、人の親指と思われる指は少し長く、位置も人間とは異なる。明らかに俺の身体じゃない!!!!っていうか、人間じゃねぇ!!!これって・・・ここってどこだ!!?


 とりあえず、グーパーチョキと動かせることを確認しながら光の方へと向かう。



 フッーフッーフゥー


 ため息をついてみたが聞こえるのは息の荒い人型生物の呼吸音。自分の身体を確認すると性別は雄、どこかで見たことのある腰蓑をつけているだけだ。爪は尖り長く、手足は細い。異世界ファンタジーの好きな俺からしたら物語によく出るにしか思えない。唯一イメージと違うのは肌が白いことくらいか。


 洞窟を出ると少し遠くに湖が見えた。どうやら湖の光を反射していたらしく、たまたま俺が休んでいた?場所に光が当たったのか・・・ってかそんなのある?


 あまり考えても仕方がない。少なくとも水場が分かっただけでもラッキーだ。裸足で地面を歩いていることにいまだに違和感はあるものの、痛みを感じることもない。とりあえず湖へと短い歩幅で歩いた。




「『ステータス』を使いなさい」


 湖にうつる自分の姿に絶望していると突然声が響いた。周囲を見回すと湖に小さな光が集まり人型に姿が変わった。


「言葉は理解できてますね。『ステータス』魔法を使いなさい。念じても行使できます」


 その声には確かに温度があった。自分が思っていた以上に落胆していた俺は涙が出ている感覚があり、そっと指先を目に当てる。



 カッサカサだった。



 だってゴブリンに保湿なんてないもの!!!涙腺すらねぇのかよ!!なんでゴブリンなんだよ!!!詰むよね?これベストオブモブ、キングオブモブだよね?


「いいから『ステータス』を使いなさい」


 目の前の女性が少しムキになっている。なんだか思考を読まれている気がしないでもない。大人しく魔法?を念じてみる。


 『ステータス』

 名前:

 種族:ホワイト・ゴブリン

 適性:光魔法、火魔法、水魔法、体術、鍛冶、種族進化


 おぉぉう、やっぱりゴブリン確定だ・・・。


 「あなたの使える魔法などが示されていることでしょう」


 膝から崩れ落ちる俺に構わず、目の前の女性は話を続ける。名前が空欄なのは自分で名前を決めろってことか。さすがに北沢拓也きたざわたくやの名前は使えない。親もゴブリンにつけるつもりで与えた名前じゃないだろう。


 『俺はゲイン・ヴァイスだ』


 自分の名前を決めた瞬間。一気に身体から力が湧き出してきた。争いも目立つことも嫌っていたはずの自分とは真逆の妙な高揚感・・・もっと言うと戦闘欲。魔物になって自分の理性がどこまで保てるか・・・って思えば衛兵とかに真っ先に狩られるんじゃないだろうか?


 「『名付け』ができたのですね。好きに行動しなさい。魔物は許されています」


 「おいっ!!ちょっと待てよ!!」


 目の前の女性は微笑みながら元の小さな光に分裂し霧散した。


 『名付け』の影響なのか、声も出せるようになっている。ちょい前までゴブゴブしか言えず、狩られるのを待つ身だとガチで思っていたが、少なくとも会話はできそうだ。相手が聞いてくれれば・・・ってこれ日本語か?魔物語とかならダメなんじゃね?これは人に会う前に先に相手を観察しないとダメだな。


 しかしあの女性は何だったんだ。『ステータス』魔法を教えてくれたのは助かったが、他にもいろいろと聞きたいことはあった。


 「とりあえず周囲探索か」


 誰に聞かれるわけでもない。ホワイトゴブリンとして生まれ変わった俺は、慣れていないはずの森の中をスタスタ素足で歩く自分に違和感を覚えながら周囲の探索を始めた。

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