コミュ障克服完全マニュアル
導火線
第1話極度のコミュ障の苦痛
コミュ力。それは人生がうまくいくために限りなくあったほうがいいスキルだ。
これがあるかないかでその人の人生は大きく変わる。
コミュ力があればたくさんの友達が出来、陽キャになれるだろう。
コミュ力があれば面白いトークをして女の子を喜ばせモテるだろう。
会社でもコミュ力があればいろんな人に話しかけパイプを作り困ったときの手助けをしてもらえる。
他にも数えきれないほどの利点がある。
俺の名前はゆう。ごく普通の大学生だ。普通といっても極度のコミュ障だということを除けばだが…。
コミュ障である以上いろいろなことに苦痛が生じる。学校の休み時間は友達もいないので一人だ。
他の非コミュ障達は友達と楽しそうに話し合っている。「何がそんなに楽しいんだか」俺はいつも心の中で悪態をついていた。
でもほんとはうらやましい。なんであんなに言葉がポンポン出てくるんだろう。コミュ障からするとやつらは異能力者だ。
いったいどんな仙人に出会ってその能力を伝授されたんだ?
その仙人はどこにいるんだろう。叶うなら俺もその仙人に出会ってみたい。
俺は世界史の講義を受けている。そのクラスに気になる女の子がいた。
コミュ障である以上いろいろなことに苦痛が生じる…その中でも最も苦痛なのがこんな時だ。人を好きになった時。
好きになったらその人と話したい。その”話したい”が不可能なのだ。話せなければ”友達”になることもできない。
てことはその先の”恋人”に行きつくことも無くなってしまう。人を好きになったとき俺は絶望する。
人を好きになって恋愛をする、多くの人が生きててしたいことナンバー1なんじゃないだろうか。
もちろん結婚したり年をとったりすればしたいことも変わるだろう。やりたい夢があってその夢を叶えることが一番の人もいると思う。
俺の夢はこのクソ忌々しいコミュ障を抜け出すことだ。
しかし極度のコミュ障の俺にとってその夢は”ヒーローに変身して大怪獣から町を守れるようになりたい”と思うのと同じだった。
ドラマや映画の中の話ほど届かない非現実的なものだった。
世界史の授業がもうすぐ始まろうとしてる。そしてその事件は起こった。生徒は各自空いてる席に座る。
なんと俺の気になっている女の子が俺の席の隣に座ったのだ。緊張で体が硬直する。
好きな子が席が隣になったら喜ぶ人もいるだろう。内気な人なんかは緊張して困ったりもするだろう。
もちろん俺は後者のタイプだった。喜ぶ人の気持ちなんてまったく理解することが出来なかった。そして授業が始まり更なる事件が俺を襲った。
「このイラスト上手だね」
なんと気になっている女の子が俺のノートの隅に書いてあるイラストを見て話しかけてきたのだ。
非コミュ障だって好きな子と初めて話すときは緊張するだろう。
ましてや俺は極度のコミュ障なのだ。俺はその時テレビの中で大怪獣に遭遇した一般市民の気持ちを理解した。
俺は焦りの表情なるべく悟られないよう「俺はできる。俺ならやれる…」と心の中で復唱しながら渾身の言葉を投げ返した。
「あ、ありがと」
そしてその後は何度も味わってきた気まずい沈黙が訪れ会話は終了するかに思われた。その時予想だにしなかった更なる出来事が起こった。
「今度私のイラストも描いてよ」
彼女を会話を続けてきたのだ。汗が濁流のように俺の体を流れる。落ち着け。おまじないを復唱しなきゃ復唱しなきゃ…
「・・・俺ならやれる・・・」
はっ!思わず心の中で復唱するはずの言葉を口に出していた。
「ぷっ!あはははは!」
すると彼女は笑い出した。
「いきなり何言ってるの?(笑)」
やっちまった。いきなり「俺ならヤレる」って自惚れナルシストの勘違いセクハラじゃないか。
「い、いや、お、俺なんてヤレるわけないで、です」
「えっ?何?マジでウケるんだけど(笑)。君おもしろいね」
もしかして下ネタと捉えてなかったのか。助かった。しかしなんて俺の心は汚れてるんだ。
「ねえ、私のイラスト描いてよ」
「う、うん」
もっとなんか付け足せよ、俺。
「やた」
そして会話は途切れた。何かしゃべったほうがいいのか気になってチラチラと彼女の顔を除いてみる。
でも彼女は別にこの無言の状態を気にはしていないようだった。
彼女の名前はなんて言うんだろう。
教えてもらいたいが聞く勇気がわかない。勇気を出して聞こうかな。いや無理だ。やめよう。いや思い切って…やっぱ無理だな。いや…
そんなことを考えている間に授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。彼女が席を立った時、俺は意を決して
「な、なま…」
「?」
落ち着け。おまじないを復唱するんだ。復唱…
「・・で・・俺は・・・ヤレる」
しまった。言葉に出したかった「名前を教えて」の「なま」しか言葉に出てこず、
言葉に出さなくていい「俺はできる。俺ならやれる」のおまじないの「で俺はやれる」だけが言葉として発されてしまったのだ。
つなぎ合わせると…。
「あはははははははは!」
「またいきなり何?(笑)。マジおもしろいわ。君」
彼女はピュアなのか。なんにしてもつなぎ合わせた言葉の意味が伝わらなくてよかった。
彼女が俺の言葉に笑ってくれている。それは嬉しい。でもそれは偶発的な俺の天然で生まれた言葉によるものだ。
笑わせるような面白いことを思いつくことはできない。でも失敗しないで言葉を伝えたい。今までならこういう時やっぱり駄目だと挑戦することから逃げてきた。でもなぜか今ここで逃げたらいけないと強く思った。そして…
「な、名前なんて言うの?」
「あたし?あやだよ。君は?」
「ゆ、ゆう」
「ゆうくんか。イラスト楽しみにしてるね」
と言って彼女は去っていった。なんかどっと疲れが襲ってきた。だが決して悪い気持ちはしなかった。
彼女とのこの不思議なやり取りは非コミュ障からしたら会話と呼べるものじゃなかったかもしれない。
でも俺にとっては忘れることのできない思い出になるだろう。
コミュ障を克服したい。そして彼女ともっとちゃんと会話がしたい。今までにないくらい強くその思いがわいている事に俺自身でも驚いていた。
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