第55話 JKと押し合い

 秋の大会に向けて、今日も道場で英一と組み手をするかおり。


 だが、最近はマンネリになって来たような気がしていた。


 英一に投げ技をかけることはできるようになっている。

 だが、おそらく本気で英一が抵抗した場合は投げることができないだろう。


 あくまで、投げさせてもらっている・・・


 それは体格差があるから仕方ないのかもしれない。

 だが、それじゃあいけないような気もしてきている。


 柔よく剛を制するという言葉はあるが、現実には体重差や体格差があると不利なのである。


「ねえ・・・英ちゃん」

「ん?どした?」

「私みたいに体が小さいと、英ちゃんみたいな大きな選手が本気だしたらかなわないのかなぁ・・・?」


 なんとなく、聞いてみただけであったが英一から意外な答えが返って来た。


「いや、多分そんなことは無いぞ。俺もラグビー選手としては小さい方だったし」

「え?英ちゃんでも小さい方なの?」

「そりゃそうだろ」

「それじゃ・・・どうすればいいの?」

「そうだなぁ・・・う~~ん」


 英一はちょっと考えた。


「じゃあ、こんな風に前傾姿勢になって・・・組んでみてくれ」


 前傾になってお互いの肩を合わせる。

 ふたりだけでスクラムを組んだような態勢。


「じゃあ、押してみて」

「え~~~? う~~ん」


 かおりはうなって、力を込める。

 だが英一はびくともしない。

 ちょっと英一が押し返すと、コロンと転げてしまう。


「やっぱり、体重差があるから無理だよ~~」

「じゃあ、もう一回やってみて」


 もう一回、同じ体制になる。


「じゃあ、ちょっとだけ左に寄ってみて・・2センチくらいでいいから」

「え?・・・こう?」


 ほんの少し、肩を当てている位置を変える。


「もうちょっとだ・・そう。これでやってみて」

「う~~~ん」


 すると・・・さっきよりもかおりの体重がうまく乗った感覚があった。しかも英一の軸にたいして少しずれているので押した分だけ英一の体勢が崩れる。


「え・・・?英ちゃん手加減してない?」

「そんなことはないぞ」


 かおりと英一は、肩を離して畳の上に座った。


「ほんの数センチでも、当てる位置を変えることで相手の軸を崩すことができるんだ。おれは柔道はよくわからんけど、同じようなことがあるんじゃないか?」

「へえ・・・そうなのかな・・」

「例えば、組み手の位置とか、ちょっとの差で違うんじゃないか?」


 いままで、かおりはそこまで深く考えたことは無かった。


「う~~。じゃあどうしたらいいんだろう・・・」

「まぁ。いろいろ試してみたらどうだ?」


 その後、英一に対して技をかけるときにいろいろ組み手の位置を変えてみた。だが、まだピンとくる手ごたえは無かった。

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