第50話 ランチ

 その日の昼時。

 英一とかおりと安藤先輩は、再び同じカフェにいた。


 英一の向かいに座ったかおりと安藤先輩は、茫然とした顔である。

 

 ”当てがあるから大丈夫”


 英一が言ったその言葉がまだ理解できずにいたのだ。

 なので、その”当て”という相手に来てもらうことにしたのだ。


「あ・・・あの・・・澤木君? その”当て”にしている人ってどういう人なのか?」

「あぁ。それは・・・」


 その時・・・


「ごめ~ん!えいいち~~。おまたせ~~!」


 そこにいたのは、白いレースのワンピースを着た若い女の子。


「おお~~久しぶりだな。すまんな、急に呼び出して」

「何言ってるの~?わたしと英一の仲じゃない~」


 にこにこと笑顔で英一の隣に腰かける。

 そして・・・ごく自然に・・・


 英一の腕に、その華奢な腕を絡ませた。


 唖然とするかおりと安藤先輩。


「それで、こちらの方々は?」

「あぁ、こちらは会社の先輩の安藤さん。それで、こっちはこの間話したかおりだ」

「あぁ・・・あの・・・」


 そう言って、笑顔を二人に向ける。


「澤木ひかるです。大学生をやってます。よろしくね」

「あ・・・・?さ・・・澤木?」


「あぁ、こいつは俺の親戚で幼馴染なんだ。ええっと・・・いとこ?」

「あ、親戚だったんですね」


 ほっとしたのもつかの間。

 澤木ひかるは、爆弾発言をする。


「まぁ、血はつながってないんですけどね」

「え・・・」


 その間も、英一に腕を絡ませて体を密着させている。


 かおりは、ぼ~っとしながら思った。


 そっか・・・

 思えば、英一はいままでかおりが体を密着させても、同じ布団で寝てもキョドッたり慌てたりしたことは無かった。

 英一が女性に対して免疫が無かったらそうはならなかったであろう。


 つまり、英一は女性にいるという事だった。


「それで~、今回は何をすればいいの?」

「それが、かおりの同級生がなんか誤解しちゃったみたいで・・・」

「あはは!また~~?英一、いいかげん女の子との距離感をかんがえたほうがいいわよ~」


 どうやら、よくあることらしかった。


「で・・・また一緒にラブホに行けばいいのかしら?」


  ガタン!


「ま・・・また!?」


 蒼い顔で中腰になって目をむく安藤先輩。

 かおりは茫然としているまま固まっている。


「いやあ、相手は高校生だから。それは刺激が強すぎる。恋人の振りをするだけでいいよ」

「あらぁ・・残念」


 口をあんぐりとさせて震えている安藤先輩と、完全に固まったままのかおり。


「あ・・・二人とも誤解しないで欲しいけど、ひかるとはそんな関係じゃないから。ただ恋人の振りをしてもらうだけですから」

「そ・・・そうよね・・・あはは・・・」


 そういって、グラスの水をごくごくと飲み干す安藤先輩。

 かおりは、ようやく呼吸を思い出したように顔を真っ赤にしてゴホゴホと咳をした。



 その二人を見ながら、ひかるはいたずらっ子のように、にんまりと口角を上げて微笑んだのだった。

 

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