【41】2006年6月7日 17:22・玄関・晴れ。うんざり(レン視点)。
バタン。
ユアルもと一緒に家に入り、玄関の扉をしめる。
「はぁー、今日も疲れましたねー?レンングゥウウウ!!!!??」
白々しく対応するユアルにさすがにキレた私はユアルの胸ぐらを掴んで引き寄せた。
「ユアル、もう良い加減そのクソみたいな演技はやめてくれるッ?今日のアレは何なの!?」
「イタタタタッ!どうしたんです?レン!ちょっと痛いですってば!アレって何のことですかぁ!!??」
「だから、良いからそういうの!」
ユアルの胸ぐらをさらに強く締め上げる。
「分かりました!分かりました!!謝りますから許してください!!苦しいですッ」
「・・・まったくもうッ」
私は突き飛ばすようにユアルを放した。
「ごめんなさい。まさかこんなにもレンの心がアレに奪われているなんて思っていなかったのでつい」
《ウソつけッ》
ユアルは乱れた制服を整えながら尚も笑顔を崩すことなく私を試すような言動を続ける。
いい加減、ユアルに口喧嘩や感情論で迫っても全く響いてないどころか、こちらが損するだけだと気づいた私は話題を変えることにした。盗聴されている可能性も考慮してユアルの耳元に口を近づける。
「で?ユアルが言ってた今夜の件だけど。護衛とかどうするわけ?」
「んッ♡」
「は?」
何故かユアルが両目を閉じている。心なしかユアルの頬が少し赤くなっているような気がした。
「私、耳がすごく敏感なのでちょっと離れてくれませんか?恥ずかしながらその・・・感じてしまうので」
「チッ」
《こっちは真剣に話しているのに・・・。何だろう、今ならアイナが舌打ちする気持ちが少し分かるような気がする》
玄関にあったメモ用紙を一枚ちぎって伝えたい内容を書き殴りユアルに突き出した。
「レン、近すぎて読めませんって。距離とってくださいよ」
「はぁぁ、もうッ!これでどう!?」
私はユアルのリクエストに応じて距離をとりしっかりメモを読ませた。
「フフフフ、大丈夫です」
メモを読んだユアルは、まるでこちらの足元を見ているかのような笑顔の隣にOKサインを作って見せる。
「ココまできて今更キャンセルはなしだからねッ。約束、守ってよね」
こういう念の押し方は弱みを見せてるような気がして個人的に嫌なのだが、私はどうしても確約が欲しかった。すると急にユアルが私の手をとり力強く握りしめてきた。
「レン、このユアルを信じてくださいねッ?」
《やっぱりぶっ飛ばしたい。どこまでも際限なくバカにされてる気がする》
私は呆れた表情でユアルの手を振りほどくと靴を脱いでさっさと階段を上り始めた。
「あ、今日のお夕飯はカレーかカルボナーラなんですがどちらが良いですか?」
「今日は要らない。時間になったら起こして」
「あら」
ユアルの白々しい演技につきあう気力が失せてしまい振り向きもせず適当に答えた。
4階に上がって部屋に入り鍵を閉めると私はベッドに倒れ込んだ。身体が異様に熱いのが分かる。
「クーラーつけよ」
何だかんだ言ってももう6月なので日に日に暑さが増している。少し外気にふれていると制服はすぐに湿気だか汗だかで判別がつかなくなりベタついてしまう。しかし、この身体の火照りは気温が原因でないことを私は理解していた。
《宿題は・・・ダメだ。まるで気分が乗らない。シャワーもいちいち1階までいくの面倒くさい》
今ココで変に集中力を使ったり、身体を動かすと逆にイライラしてしまいそうなのでこうやって横になっているのがベストだった。何かこなせるタスクはないかと思考を何巡かさせた後、やはりこのまま時間が過ぎるのを待とうという結論に至った。
梅雨の唯一の長所は、クーラーの効いた部屋で雨音を聞いて寝ることだと思うのだが、本邸といいこの建物といい防音性能が高すぎるので外の状況が聴覚では分からないのがちょっとした欠点だった。そもそも今日は晴れているので端から雨音は期待できないんだけど。
寝返りをうち机の上のノートパソコンを見る。
《いつもなら帰宅後真っ先にPCの電源を入れるのに》
オカルトサイトを覗く気力すらないというのは我ながらさすがに重症だと思った。今度しっかりユアルに話をした方が良さそうだ。面白半分でこんなことされていたらはっきり言って身が持たない。さっき車で1時間ほど爆睡したはずなのにまぶたが重くなってきた。
《どうせあとでユアルが起こしてくれるし、それまで寝とこ・・・》
私はポケットの携帯をとりだして枕の横に置くと間接照明の強さをお気に入りに設定して目をつむった。
防音性能が高い家なので睡眠で苦しむことがあまりないのは素直に有り難かった。互いに騒音で揉めないように4階に私、3階にユアルに2階にアイナという部屋割りにしたのも正解だと思った。
全てはこの秘境のような山奥とお祖父様のフルリフォーム工事が合わさって初めて享受できる恩恵であることも当然忘れていない。
《ふぅ、シンドイ・・・。もうイイや》
重力に押しつけられるようなそんな気だるさに身をまかせて、私は思考をとめた。
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