【11】2006年6月6日 13:41・教室・大雨。学園のこと(レン視点)。

私は弁当を食べながらユアルも気になった言葉を思い返していた。


《この学園にふさわしい生徒・・・か》



ルドベキア女学園―。

ココは初等部から大学までエスカレーター式のいわゆるお嬢様たちが通う学園だ。べつに学園がお嬢様向けと公言しているわけではない。世間で言うところの一般世帯の子だって広く受け入れてはいる。表向きには・・・。



私は祖父母や親の意向のもとお受験戦争を経て入学した。私が学費を払っているわけでも直接確かめたわけでもないから真偽は不明だけど、噂だと学費だけでも一般的な私立高校の数倍はするらしい。



お祖父様に直接聞こうと思えばできるのかもしれないけど学費を聞いたら萎縮してしまってもう普通に学園生活が送れなくなるかもしれない。そんな恐怖もあり未だに自分が通っている学園の学費を知らないまま、ココまで進学してきてしまった。



先日ネットで一般的な私立高校の学費平均を出しているサイトを見たけどそこには3年間で300万程度だと書いてあった。


ルドベキア女学園は初等部から大学までエスカレーター式だ。仮に一般的な私立の学費である年間100万を軸に考えると、年100万×16年間×一般的な私立の数倍。3倍なら4800万、5倍なら8000万、7倍なら1億1200万と倍率次第では普通に家が買えてしまう金額になる。


あくまでも分かりやすく単純計算しただけだがそんな高額な学費を初等部から大学卒業までの16年という長い期間、親は子供のために

ひたすら払い続けなければならない。そして、これも噂だが初等部から中等部、中等部から高等部と進学するたびに学費も跳ね上がるらしい。さらにその都度、制服やらカバンやらも揃えないといけないのだから自然と金持ちの娘しか集まらなくなるというわけだ。


しかし、そこまで学費がバカ高いわりに学園の知名度は全国的にかなり低かった。


この知名度の低さは大学受験で良い大学に排出する必要がないエスカレーター式によることが最大の原因だと思う。


では何故、全国的にあまり知名度がないこの学園に金持ちは娘を通わせたがるのか?通わせているとどんなメリットがあるのか?という疑問が生まれてくる。



これも都市伝説の域を出ないまことしやかに囁かれている噂だが、その噂によるとこの学園のお偉いさんは政財界の要人と繋がりがあるらしく、学園の大学を卒業した者は自動的に卒業生用のお見合いリストに載り、要人たちから『是非息子の嫁に』とお見合い話がひっきりなしにあるらしいのだ。



要するに金持ち同士がコネクションを深めるためのコミュニティとなっているらしい。バカ高い学費を納め続け大学まで卒業させることこそ財力の証でありその証をもって初めて金持ちのコミュニティに入るための資格を得ることができるというシステムになっているとか・・・。



当然、親がどういう仕事をしているのかも大前提で重要になってくるのだが、そんなバケモノみたいな財力を持っている者たちが集うコミュイティだ。入っただけで金持ちたちからの信用を得られてステータスにもなるのは明白だろう。


一般人はその存在すら認識できない金持ちの金持ちによる金持ちのためのコミュニティ。


それがこの学園に通うメリットらしい・・・。


ただ、政財界との繋がりほしさに娘をこの学園に入れたがる大金持ちの親がいる一方で問題もつきまとう。毎年各学年ごとに数名から多い時には十数名この学園を去っていく者たちの存在、つまりは退学者だ。


その最も大きな理由は先述の通りやはり学費の高さが挙げられる。初等部から大学卒業までの約16年間高額な学費を払い続けるということは、16年間、親が金持ちであり続けなければならないという意味でもある。


私は1度も働いたことがないのでそれがどれほど困難なことか想像するしかないがきっと容易なことではない。16年の間に栄枯盛衰、事業に失敗したり会社が倒産したりと悲しい大人の事情が発生することもあるだろう。



『政財界との繋がり』という甘い汁だけを夢見て自分の身の丈以上の借金をしてまで娘を学園に通わせている家庭もあるとかないとか・・・。



そんな黒い噂の真偽に通じるのか分からないが、この学園では親の財力がそのまま生徒のステータスとして反映されているような気がする。バイトすらしたことがなく、自分が稼いでいるわけでもないのに、ただ親が金持ちというだけで自分より格下を囲ってボスを気取っているクズなんてザラにいる。


初等部の頃はそうでもなかったけど中等部・高等部と成長していくにつれ周りや自分の状況というモノが嫌でも見えてくる。そして何より社会の仕組みを理解してしまうと、もう幼かったあの頃のように他人と気軽に接することができなくなってしまう。



この学園は社会のドロドロした縮図を子供が演じているような場所でもあるのだ。私がさっきアイナに『他人に恩を売られるな』と言ったのはこういうことでもあった。



社会に出たこともない子供が『あそこの家は大企業の社長だから・・・』とか『あそこは弱小企業の役員止まりだ』とか四六時中そんなことを言ってるのを見るとどれほどこの学園が常軌を逸しているのか理解できると思う。


男女共学の高校では色恋沙汰の話がほどよくあったりするのかもしれない。すったもんだがあってギスギスして別れたりなんかして

甘酸っぱい経験になったりそうやって青春の1ページを刻んでいくのだろう。


しかし、この学園にいる男はほとんどオッサンの教師なので色恋沙汰なんてあるわけもない。だからこそ、色恋沙汰の代わりに親の財力ステータスによる社会の縮図ごっこが横行しているのだ。


『色恋沙汰があるわけない』と断言できる理由としては、そういう出会いの場に親が娘を行かせないように徹底的に管理している家庭が多いことが挙げられる。もちろん、親の目をかいくぐって教師とつきあっている生徒もいるかもしれないが、一般の高校ではないので教師たちもリスクを天秤にかけると簡単に手は出せないと思う。


大昔、この学園で教師と金持ちの娘がつきあっているのが発覚してとんでもない事件に発展したとかって話を聞いた記憶がある。


何より親がこの学園に通わせる目的はまだまだ大学卒業の先にあるのだから・・・。一時の気の迷いで娘をキズモノにされては高額な学費を支払っている親はたまったものではない。


少し話が脱線してしまったが、『財力を16年間保つこと』。

シンプルだが最もハードルが高い退学理由の最上位に君臨し続ける問題となっている。



次に多いのが、娘があまりにも優秀すぎて別の学校に転入もしくは受験を希望してしまうケースだ。


この学園は学費が高い分、勉学でもスポーツでもそれなりにしっかりカリキュラムが組まれており、その影響で自分の特化した能力に気づいて進むべき道をこの学園以外に見出してしまう悲しき覚醒者たちが結構いるらしい。



全国的なレベルで見ればそこまでではないが、それでも色んな部活の諸先輩が全国大会で優勝や好成績を収めている事実はあった。



そういう生徒は自分の好きな道へ行きたいと熱望する者が多く、エスカーレーターで上がれる大学進学を蹴ってまで好きな大学で好きなことをもっとつきつめたいとわざわざ推薦を受けたり、大学を受験する者がいる。



それゆえにあと数年間で大学卒業という金持ちコミュニティへの参加資格を目前にして娘を他の学校へやらないといけなくなった親もいるらしい。親としては泣くに泣けない状況だろう・・・。


理解のある寛大すぎる親に土下座して感謝した方が良いレベルだと思う。


ま、その人自身が選んだ人生だから外野が口を出すのは間違っているんだろうけど。





そして最後の理由だが、これは比較的どこの学校でもあると思うけど、学年に数名は必ず存在するどうにも手に負えないトラブルメーカーたち。アイナがそれに該当するかどうかは今は置いといて・・・。


度をすぎるトラブルが発覚し教師たちの改善要求に応えないでいると、ある日突然退学処分を言い渡されるらしい。もちろん改善要求の中には教師と生徒と親が三つ巴になって徹底的に話をするというステップも含まれている。


トラブルメーカーの中にはどうしたって譲ることのできない未成年の主張というモノを抱えている者が多く、親のエゴでこの学園に入れられたことへの反発、家庭環境、親の財力にもとづいた生徒や教師たちとの人間関係などなど問題も多岐にわたり解決に至らないケースも多い。


そして本人にしか分からない悩みや苦しみがこじれ過ぎた結果、気づけば手に負えないトラブルメーカーに成長し、挙句の果てに他人に迷惑をかけるようになるという感じだ。



親のエゴで言うと、私自身小さい頃はどうしてこの学園に通わないといけないのかという疑問で苦しんだこともあった。だから、そういった悩みもすべてではないが理解できる。かと言って、他人に迷惑をかけるというのは別の話だ。そんなメチャクチャな道理が通るわけがない。




ちょっと私の主観が入っているので別の生徒からしたら部活で汗水流して仲間と青春したり男性教諭とのコイバナとかもっと学園の良いところ(?)が出てくるかもしれないけど、この学園の説明はだいたいこんな感じだろうか。


保武原さんの言っていた『この学園にふさわしい生徒』については・・・私もよく分からない。


そして、そんな私もまた当然金持ちの子、というか『孫』だった。

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