RPGのちょっとした『?』を解き明かせ!

虹音 ゆいが

2つだけとは限らない

「おいオヤジ! そっちのリングはどんな効果があるんだ?」

「こいつは素早さ……俊敏性が上がるヤツだな。敵の攻撃は避け易くなるし、面倒な時に逃げを打つのにも役立つだろう」

「おーマジかすげぇな! よし、それもくれ!」


 とある武具屋が閉店しようとしたその矢先、滑り込むように店に飛び込んできた若造の買い物は依然として止まる気配がなかった。

 冷やかしじゃないだけマシだが、閉店する気満々だった店主のオヤジのテンションは下がっていく一方だ。


「なぁお前さん、冒険者だろ? さっきから聞いてりゃ、こういうアクセサリー装備にあんま馴染みがないみてぇだが」

「そーだな、まだ冒険者になって二ヵ月だし。今日まで武器も防具も何も買わずにモンスター倒して、ようやく金が溜まったんだ!」

「その金で少しずつ武具を良いモンに買い替えていけば、もっと早く金が溜まったと思うがな」

「そーかもな! でも冒険者、ヨクバ様は無敵だから大丈夫だぜ!」

「そーかい」


 話してるだけで疲れる。オヤジはそれ以上世間話をする事を止めた。


「で、売るのはいいんだが、いいのか?」

「言ったろ、金はあるって!」

「いや、そっちじゃなくて。さっきからリングだのネックレスだの、手当たり次第にアクセサリーを物色しまくってるからな」

「? それがどーしたんだ?」

「いや、仲間の分のアクセサリーを選ぶんなら、装備する奴が自分で見た方がいいと思ってな。得手不得手もあるだろうし」

「ん? 俺、一人ソロだけど」

「……へ?」


 目を丸くする店主だが、相手はそんな事は気にも留めない。


「ほら、早く売ってくれよオヤジ! 金ならあるってほらほら!」

「わ、分かった分かった! ま、こっちも売れるなら何でもいいしな。んじゃ、値段の交渉といくか」

「おう、どーんと来やがれ! このヨクバ様、どんな勝負にも負けやしないぜ!」


 自分を納得させるように頷いたオヤジは、じゃらじゃらと金の入った袋を振り回す新米冒険者との戦いに赴くのであった――――――




「――――――はい、冒険者登録完了!」

「よっしゃ~!」

「やったね、お姉ちゃん!」


 冒険者が集う地、冒険者ギルドに初々しい声が響き渡る。受付のお姉さんはくすくすと笑みを漏らした。


「登録だけなら誰だって出来るわよ、もぉ」

「いいんだよ、こういうのは気分だ! なぁ妹よ!」

「そ、そうだよね! お姉ちゃん!」

「いやまぁ、別にいいんだけど」


 お姉さんの困った顔など気にも留めず、姉妹ははしゃぎ合う。


「あとはモンスター共をガンガンシバき上げて金稼いで強くなる!」

「そうすればお父さんとお母さんも喜んでくれるよね!」

「当然だろ! あ、そうだ。ついでに魔王退治してやろうかな?」

「そ、それは流石に……」


(ふぅ、妹ちゃんも大変ねぇ)


 妹の方はある程度冷静な事に安堵したお姉さんは、思い出したように言った。


「そうそう、さっき冒険者生活を始める上での注意書きを見てもらったと思うけど、追加でそれも見てくれる?」

「えー、あれ読んでるだけでめちゃ頭痛くなったのに」

「お、お姉ちゃん、あと少しだから頑張ろ!」


 妹に促され、姉はお姉さんの指さした先に貼られた紙を覗き込む。



『当ギルド所属、冒険者歴二ヵ月のヨクバ・リ・ヤロウさんが先日、自宅にて亡くなられました。

 死因は、アクセサリーの過剰装備と思われます。

 知っての通り、アクセサリーは二つ以上装備してはいけません。ですがヨクバさんは、あろう事かリングを両手足の全指に装着し、ネックレスも三重に装備していたとの事。数で言えば、約25。

 ヨクバさんはそれらアクセサリー類から注ぎ込まれる魔力を体内に貯め込み過ぎてしまい、爆発四散してしまいました。肉片一つ残らなかった事から、よほどの魔力に晒されたものと思われます。

 冒険者の皆様。ヨクバさんの失敗をどうか胸に刻み、快適な冒険者ライフを送ってくださいね!』


「……だってさ。ま、若気の至りって奴だろうけど、君たちもあんまり無茶しないようにね?」

「お、おう!」

「わ、分かりました!」


 お姉さんにそれぞれ挨拶し、姉妹は冒険者ギルドを後にした。

 その額には、玉のような汗が浮かんでいる。


(あっぶな……家から持ってきたリング5個、全部装備しようとしてたし)

(お姉ちゃん、ネックレスが嫌いだから、手に入ったネックレスは全部私が装備しようと思ってたよぅ……)


 それぞれの思いを胸に、二人は天を仰ぎ見る。


(でも、3つ……いや、4つくらいなら大丈夫、だよな?)

(25個がおかしかっただけ、だよね?)


 姉妹の運命やいかに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る