心を宿した人形達の想い

✩と桃ちゃん✩

第1話

昔から【人形には魂がやどる】と言われている。

丹精込めて作られたり、愛情を持って大切にされた人形ほど時間や年月が経つにつれて感情を持ってしまう。

そんな彼等は人々から嫌われてしまう。

いや、恐れられると言った方が近いかもしれない。

恐れられ、忌み嫌われる。

人形達は人間が大好きだ、自分たちは生まれた時から人の手が加えられている。

特に子供たちが大好きだ、自分を手に入れた時の弾けるような笑顔。

ふわふわの髪の毛をといてくれる優しくて柔らかい手。

着せ替え人形のようにフリフリの綺麗なドレスや靴を履かせてくれる。

そして、キレイ!かわいい!といつでも褒めてくれた。

子供だけじゃない、大人も大好きだ。

髪の毛を撫でてくれる手は大きくて優しい。

着飾ることはあまりしないけれど、たくさん話してくれるようになる。

相槌や返事はできないけれど、(ちゃんと聞いているよ)と伝えたくて一生懸命貴方の顔を見つめるの。

話の中で貴方が見せてくれる愛おしむような笑顔が何より大好きだ。

貴方たちの大好きをたくさん受け取っているから同じような感情が生まれるんだよ。

でも、いい人達ばかりでは無かったよね。

最初は大切にしてくれていても、機嫌が悪かったりする時は叩かれたし、投げられたし、触ろうともしなかった時もあったね。

その内見向きもされなくなって、突然外に居たことだってあった。

その時の事は思い出したくもない。

犬に噛まれたり、風に飛ばされたり、雨に打たれて泥だらけになったりもした。

あの時は雨が変わりに泣いてくれてるんだって思ったこともあったよ。

いつか、いつかまた迎えに来てくれることを願っていたよ。

また再構築されるその日まで・・・

それでも人形達は何よりも貴方の笑顔を見たいから・・・・

人は目の前に起きたことやこれから起こるかもしれない出来事に日々怯えて過ごしている。

たとえば、心霊現象や怖い話を聞くと暗いところが怖くなるし話の舞台になった所へはなるべく行かないようにする。

夜の行動を減らすようになる。

他人と関わらないようになるし、信じられなくもなってしまう。

自分のテリトリーに閉じこもり、周りを硬い殻で覆ってしまう。

生活の一部に異物が入り込む隙間さえ無くしてしまうんだ。

目の前の出来事に頭を支配されてしまうと昔のことなど思い出したりはしない。

ましてや恐怖に支配されてしまうと頭の中は真っ白になり少しの物音や自分の呼吸でさえ恐ろしくなる。

たとえ、自分の目の前にいる可愛らしい人形がかつて自分が大切にしていた人形だったとしても・・・

決して気づくことは無いだろう。

恐怖に染まった人間の顔は人形達が1番見たくなかった顔だ。

あんなに大切に愛してくれた、あの優しくて柔らかい笑顔も今では表情は固く恐怖に染まり凍りついている。

人形達は思った。

感情さえ、こんな想いさえ生まれて来なければ!!

貴方を怯えされることも無かったのに・・


ただ貴方の笑顔を見たかっただけなのに

ただ貴方の言葉を聴きたかっただけなのに

ただ貴方のそばに居たかっただけなのに

もう一度、その手で触れて欲しい・・・

ただそれだけだったのに・・・・


人形はしずかにその場を去っていった。

涙を流せない代わりに、自分の髪の毛を1本残して・・・・





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

心を宿した人形達の想い ✩と桃ちゃん✩ @tomomochan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る