第62話 光


 ゴルディさんに担がれて、階段を上っていき、

 ようやく地上へと出れた。

 地上と言っても、どこかの家の一室みたいだけど。


「ふぅわあぁ、久しぶりの光だぁ~。

 明るいよ~ぅ、暖かいよ~ぅ、生きてるよ~ぅ」


 何日ぶりの地上だろう?

 久々の明るさに少し感動した。


「聖女様、感激するお気持ちはよく分かりますが、

 早々に町長の下へ行かねばなりません」


 あ、そっか。

 エリックさんって人が口喧嘩してるんだった。

 よく分かんないけど行かない、と...?

 ん?あれ?なんで僕が行かないといけないの?


「ねぇ?なんで僕が行かないといけないの?」


 喧嘩の仲裁なら大人がやればいいのに。

 なんで子供の僕が大人の喧嘩を止めないといけないの?


「行けば理解できるのでは、と。

 正直私共では相手になりませぬ。

 エリック様も聖女様が来れば終わると申しておりました」


 なんで僕が行くだけで喧嘩が収まるのさ?

 チンプンカンプンだよ?


「んー?行きたくはないけど行かなきゃだよね?

 ゴルディさん、困ったときは助けてね?」


「もちろん。命に代えても守ってみせます」


 命賭けるなんてどんな喧嘩なのさ?

 逆に気になってきたよ、その喧嘩。

 


 僕とゴルディさんは話しながらも居間へと向かった。





 ~町長の家・応接室~



「エリ、カイン殿ッ‼

 無事に聖女様をお連れしましたッ‼」

「ふぇッ!?」


 ゴルディさんは勢いよく扉を開いて部屋に入った。

 いきなり大声で叫ぶもんだから僕はビックリして声が漏れた。


「...遅くねぇ?もう終わってんだけど?」


 僕は部屋の中を確認したんだけど、

 カインさんが大きなサハギン?っぽい人?の上に座っていた。

 他には誰もいないみたい。

 あれ?エリックって人は?


「カインさん無事に解放されたんだね?

 ところで、なんでここにカインさんがいるの?

 エリックさんって人はいないの?」


 僕の質問にカインさんはジト目で僕の方を見てきた。

 というか、ゴルディさんへ?


「あー、ゴホンッ。

 ゴルディ侯爵?後でちょーっと話しようか?

 それになんで嬢ちゃんの手足縛られたままなんだよ?」


「え?話、ですか?」


「いや、それは後でしっかり話しよう。

 それよりなんで縛られたままな・の・かッ‼」


「そ、それは、この縄がヤワ草で出来た拘束具のようで...」


「はぁ。まぁ、仕方ねぇか?」


 言いながらカインさんは僕達の方へと近付いてきた。

 凄く面倒くさそうに。

 

「嬢ちゃん、悪いが少し熱いかもしれないが、

 自由の為に我慢してくれ」


 カインさんは腰のナイフを取り出して僕に言ってきた。


「第1魔法『火』【熱変動】嬢ちゃん動くなよ?」


 言いながらカインさんは何の変哲も無いナイフを、

 僕の足を縛っている縄へと向けていく。


「え?あれ?めっちゃ切れてるッ!?」


 ゴルディさん達が必死に切ろうとしてた縄がいとも簡単に切れてしまった。

 なんだったんだろう、あの時間...

 というか、カインさん2種類も魔法使えるんだ?

 いいなー、羨ましい。

 僕は第7魔法しか使えないのに。


 考えてる間に腕の縄も切ってもらった。

 これで本当に自由だ!


「ありがとうカインさん!

 自由に動けるってこんなに嬉しいんだ!」


 僕は腕をグルグル回したりジャンプしたりして、

 身体の自由を体感した。


「嬢ちゃんが無事なだけでも良かったよ。

 それで、出て来てすぐで悪いんだが、

 嬢ちゃんには一つ仕事をしてもらいたい。

 あの魚人を嬢ちゃんの魔法で癒してくれないか?」


 カインさんは親指でアレって指さして言ってる。

 別にいいんだけど、大丈夫なのかな?


「いいけど、治ったら襲ってきたりとかしない?」


「なにかあれば俺が守ってやる」


 カインさんが口だけの人じゃないのは知っている。

 だから僕はカインさんを信じてやってみる事にした。


 僕は口から泡を吐いて倒れている魚人へ歩いて近付いて、

 地面に膝を着き、両手を翳した。

(怪我の具合はよく分かんないけど、

 中ぐらいの光で、)


〈...ダメ...それだとユウが危険...強い光にして...〉


 唐突にルナ先生が助言を出してくれた。

 どうにも中くらいの光だと僕が危ないらしい。


 ...僕が?なんで?

 改めて考えたらおかしいよね?それ?

 なんで回復する側の僕が危険なの?

 まぁ、いっか。強い光だったら問題ないみたいだし。



 スゥー...

『治れッ‼』



 いつものように目を閉じて魔法を使う。

 今回はエヴリンの時の様な光が無いからずっと掛け続ける。

 そういえば、強い光を使ったのって2人目だよね?

 大丈夫なのかな?

 

 考えながらも僕は魔法を掛け続けていく。

 次第に身体がふらつき始めてきた。

 あー、やっぱダメかもー。

 徐々に意識が薄れてくる。

 薄い意識の中で何かが聞こえてくる。


「...れだ、...ら出て...ッ‼」


「...じゃな...綺麗...わぁん?」


 あれ?聞いたこと無い声が、する?

 あー、ダメだー、おやすみ、し、まー...す...



 僕は2度目にしてもやっぱり意識を失ってしまった。

 予期せぬ珍客に気付かないままに...


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