第61話 地下からの脱出



「くそっ、切れないッ!

 このままではエリック様がッ‼」


 僕の後ろでゴルディさんが何やら焦っているみたい。

 エリック様?

 はて?エリック様とは?

 侯爵よりも偉い人が来てるのかな?

 僕の知らない人も協力してくれてるみたい。

 僕の為に色んな人が動いてくれてるのかな?

 それにしてはゴルディさんには余裕がないみたいだけど?


「あの、どうかしたんですか?

 急いでるみたいですけど?」


 僕の言葉にゴルディさんの手が止まった。

 いや、手は動かして欲しいんですけど?


「エリック様はこの真上、居間で現在町長と戦っておられます。

 私共は聖女様を早く連れ出せと命令されているのですが...

 ですので一刻も早くここから連れ出したいのですが、

 縄が切れなければ...」


 え?町長と戦ってるの?

 なんで?

 町長って町の一番偉い人でしょ?

 それに居間で戦ってるって、規模が狭いよね?

 もしかして戦いってのは口でなのかな?

 口喧嘩でもしてんのかな?

 ってか、ココ町長の家なの?

 ツッコミどころいっぱいでよくわかんないや。


「よく分かんないけど出るだけなら出来るんじゃないですか?

 手足縛られてるだけだし」


「あ。そ、そうかッ‼

 だが、それだと聖女様に...」


 え?な、なに?

 僕変な事言っちゃった?

 ただ、僕を担いで出れば外に出れんじゃない?

 って思っただけなんだけど?

 もしかして気付いてなかったの?

 そんなに慌ててたの?


「僕を担いでくれたら出れるじゃないですか?

 急いでるならそうしないと間に合わないんじゃないですか?

 僕にはよく分かんないけど」


 慌ててる理由がよく分かんない。

 でも、早くここから出たい。

 出た後で縄を切ってくれたらいいじゃん。

 

「よ、宜しいので?

 天罰は下らないのでしょうか?」


「僕は聖女でも神様でもないですってっ‼

 普通の女の子って言ってるでしょッ!?」


 まったく、僕をなんだと思ってるんだ!

 僕はどこからどう見ても普通の女の子でしょう?

 というか、

 心は男なのになんで女の子アピールしないといけないの?

 頭おかしい子って思われたくないけど、さぁ?


「か、かしこまりました。

 ではっ‼」


 ゴルディさんは僕の膝下と腰に腕を入れて僕を持ち上げた。

 初めてされたかもしれない。


 お姫様抱っこ


 いや、担いでとは言ったけどコレかぁ。

 てっきり肩に担いでせっせと運ばれるのかと思った。

 なんだか悪くはない。

 悪くはないんだけど、恥ずかしい。

 だって慣れてないし。

 

「あ、あの、早く行きましょう?」


 僕は上目遣い気味にゴルディさんを催促した。

 手足を縛られたままだし、恥ずかしいからちょっと照れながら。


「ッ!?...」


 その僕を見たゴルディさんは止まっていた。

 早く解放されたいのに動かなくなってしまった。

 ゴルディさんも急いでたハズなのに、どうしたんだろう?


「ゴルディさん?早く行きましょう?

 急いでたんでしょう?」


 僕の声にハッとして、やっと歩き出した。

 なんだったんだ?

 僕の顔に何か付いてた?

 思ったよりブサイクだった?

 別になんだって構わないんだけどね?


「聖女様はのようですね?」


 僕の隣でエディさんが話しかけてきた。

 んー?男殺し、とは?

 僕自身が男だからか意味分かんない。

 第一殺してないし。

 ゴルディさんはピンピンしてるし。


「僕は人を殺した事なんてないですよ?

 それに、ゴルディさんもしてるじゃないですか?」


「えぇ、多分でしょう」


「こ、これっ!エディッ‼前を歩けッ‼

 いや、早く他の使用人を集めてこいッ‼」


 ゴルディさんはそんなに急いでいたのか、

 忘れてたかの様にエディさんに指示を出した。

 なにか隠し事がバレたみたいに慌てながら。

 エディさんは何事もない様にその場で一礼して離れて行った。

 なんだったの?男殺しって?


 考えながらもゴルディさんの足は進んでいく。


 僕にはよく分かんないけど、やっと外に出れそう。

 何日ぶりなんだろ?



 僕は上りの階段を担がれながら久しぶりの光を待ち焦がれていた

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