第58話 〈~カイン視点~〉 勇敢なる者



「お前ら2人だけで俺を倒せるとでも思っているのか?」


 拳を前に出し、戦う気満々の町長が言った。

 どうやら武器を使わずに戦うみたいだ。


 だが、町長の身体から黒いオーラがにじみ出ている。

 俺は何度も見た事がある魔力のオーラだ。


「お前、まさか魔族なのか?」


 俺が見たのはこの前のパツール村と、

 あの紫の魔族と同じモノを感じるし、

 あのの様な力の一端を感じる。

 威圧感は足りないが、同系統の質だ。

 第6魔法『闇』の魔力を感じるんだ。


「ギャハッ、ギャハハハハッ‼

 俺が、俺ごときがあの方と同じ種だと?

 笑わせるなッ‼

 あのお方こそが我らの救世主なのだッ‼

 あのお方こそが神ッ‼

 唯一の種なのだッ‼

 人間風情が偉そうになるなッ‼」


 お前も亜人とはいえ人間だろう?

 何を言ってるんだ?

 それよりこの町は既に魔族に乗っ取られているな。

 このやり口、似ているしな...

 あの町長の崇拝ぶり、アレは...


「セドラ、か?」


「ッ!?何故その神名を知っているッ‼」


 どうやらここは俺にとってもアタリの様だ。

 あの女の息がかかっている。

 そして町長の口ぶりから洗脳されている事が分かった。

 どうにか洗脳を解いてやりたいが、

(どうすればいい?気絶させれば治るか?)


 それに町長だけとは限らない。

 どこのどいつが洗脳されてるかが分からない。

 つい今町長の洗脳に気付いたんだ。

 普通に暮らしていたら分からねぇぞ?


「あのお方の神名を知っているとはただの大使ではないな?

 同士か敵か...いや、どちらでも構わない。

 私の目的の為に死んでもらおうかッ‼」


 町長は俺めがけて突っ込み、大振りに腕を振り下ろしてきた。

 その動きは大きすぎて避けるには十分すぎる早さだった。

 

「なんだ?そんな大振りで、俺、」


 ズガァンッ‼


「ぅおっ!?」


 町長の拳は地面にめり込んで大きな地割れを起こしていた。

 その衝撃で地面が揺れた。

 その一瞬の油断を町長が見逃す筈がなかった。


海仙闘かいせんとう 体術スキル『深蒼しんそう』ッ‼」


 町長の叫びと共にスキルが発動し、

 拳が青く光る。

 その光はどんどん拳に収束されていく。

(避ける余裕は無いか?どんな攻撃か分からねぇしな)


「盾技スキル『皇盾エンペラー』ッ‼」


 俺のスキル効果により眼前に大きな盾が発現する。

 俺の盾技の中でも最高の強度を持つシールドだ。

 欠点は正面以外は守れない事だが、防げるだろう。


「なかなか頑丈そうな板だなッ‼

 今の俺には、通用せんぞぉぉッッ‼」


 それは一瞬、一閃だった。


 気付いた時には俺の盾は砕かれ、

 かろうじで避けた俺の脇を五指が抉った。

 傷は浅いモノの、どうやら見た目通りの強者らしい。

 俺も流石に本気を出さないとヤバそうな相手だ。


「だ、大丈夫ですかッ!?エリ、カイン殿ッ‼」


 おいおい、俺の名前間違えんなよ?

 誰だよエリなんとかさんって?

 それよりはこいつだろうが。


「か、カイン様ッ‼地下への入り口を見つけましたッ‼」


 なんつータイミングだよ。

 俺はカイン殿だっての!

 しかしいいタイミングかもな?

 もし俺の推測が正しければここにいるだろうよ。

 俺達の救世主様が、いや、

 俺達の聖女様が、な。


「フンッ‼見つけた所でお前らは全員俺様が消してやるッ‼

 出来るなら俺様から白いガキを救って見せろッ‼

 無理だろうがなッ‼ギャハ、ギャハハハハッ‼」


 あー、ここにいる訳ね。

 力で救って見せろって?

 馬鹿にすんなよ?

 

「おい、ゴルディ。聖女様を急いでここに連れてこい。

 それだけで

 それまでは俺が相手をする」


「ハッ‼早急にッ‼行くぞッ、お前達ッ‼」

「「「ハッ‼こちらですッ‼」」」


 ゴルディ達に任せてどれくらいで帰ってくるか?

 10分くらいか?30分か?

 倒すのは簡単だが、聖女の力を確かめておきたいしな。


「おい、貴様。

 俺とサシで相手になるとでも思ってるのか?」


「ハッ‼本気で言ってんのか?

 間違えではないが、意味が違うぞ?

 思ってんのか?」


 俺の本気はそこらの有象無象とは違うぞ?


「第5魔法、『無』...【勇敢なる者】」


 俺の身体を薄く白い膜が覆う。

 この力を使う時がまた来るとは、な。

 時が来たって事なんだよな?


 今度は、今度こそは守って見せるさ。



 俺は目の前の魚人を睨みつけた...

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る