第59話 帰って来たルナ



「ん...はぁ、はぁん」


 僕はいつまで経っても消えない感覚に抗えずにいた。

 どうしようもないんだよ、コレ。

 身体中が火照って凄く敏感になってる。

 少し前に比べたら大分慣れてきたんだと思うけど、

 まだ何かに触れると反応してしまう。

 何とか動かない態勢をキープして少しは考えれるようになった。


 でも、どうにかしないと何されるか分かんないよね?


 少し前に来た人達は僕の事を商品とか言ってた。

 きっとこのままここにいたら誰かに売られると思う。

 売られるって事は、多分奴隷って事だと思うんだ。


(どうしよう?動いたらまたあの感覚が来るしなぁ)


 そもそも、腕と足を縛られて逃げれるとは思えない。

 ちょっとでも動いたら...

 その、気持ちよくなっちゃうし...

 はぁ。


 なんでこうなったんだろう?

 なんで僕はこんな目に遭わないといけないんだろう?


 「っふぐっ、うぅぅ、うぅぅぅっ」


 なんだか悔しくて涙が出てきた。

 僕は何か悪い事したのかな?

 この世界に来て穏やかに過ごせたことが全然ない。

 僕にとっては地獄の様に感じる。

 もしかしたらここは本当に地獄で、

 僕の死ぬ前の行いが悪くて来てしまったのかもしれない。

 




〈...ユウ?...ルナだよ?...分かる?〉


 ッ!?

 ル、ルナ先生ッ!? 

「あっ!?ひゃぅんッ、はぁん...はぁ、はぁ」

 

 僕が絶望に気を落としていたら唐突にルナの声が聞こえた。

 驚いた拍子ひょうしに地面に胸がこすれて反応してしまった。


〈...ごめんね?...気配を消さないといけなかったの...〉


 気配を、消さないと?

 ...なんで?なんでッ!?


 ルナ、なんで急に消えたんだよッ‼

 僕は、僕は...ルナがいなくて寂しかったッ‼

 こんな目に遭って、辛かったッ‼

 何もかもが苦しいんだよッ‼

 ルナ...助けてよぉ...


 僕は心の中の不安を全部ルナにぶつけた。

 ルナのせいじゃないのはもちろん分かってるんだ。

 それでも、子供の僕にはこの絶望が耐えられない。

 誰かに助けてもらわないと何も出来そうにないんだ。


〈...ルナが...ユウを絶対助けるよ...〉


 親友のルナが僕の為に助けてくれる。

 その言葉だけでも今の僕には心強い。


〈...ところで、ユウ?...何で魔法を使わないの?...〉


 え?魔法?僕のこれって魔法で治るの?


〈...だって治す魔法だし...〉


 あ、そうなんだ。

 僕の魔法って治せるんだ?

 へー。

 

 ...ま、マジ?嘘でしょッ!?


〈......マジ...なるほど?...〉


 あー、なんか戻ってきたって感じがする。

 ルナって結構僕に対してイジるんだよね。

 それにしてもこの感覚を治せるんだ?

 じゃあ、早く治そっと。


『治れッ』


 僕は腕を縛られてはいるんだけど、

 なんとか手のひらをお尻に当てて魔法を使ってみた。


 お、おぉ!?なんともないッ‼

 転がりまわってもなんともないッ‼

 ヒャッフゥー!


〈...元気過ぎて...鬱陶しい...〉


 ルナ先生は元気になった僕を冷たい言葉で突き放した。

 いやぁ自由な感覚って素晴らしいよね?

 手足は縛られてるけど。

 

〈もうすぐ助けが来るはずだから大人しくしてて〉


 助けが来てくれるの?

 流石はルナ先生、だね?

 なんでも知ってる優秀な先生だよね。

 優秀な先生が大人しくしろって言うんだから大人しくしとこ。


 僕が大人しく地面で横になってたら扉が開いた。


「ゴルディ様ッ!ここですッ‼聖女様はここに幽閉されてますッ‼」


 見知らぬ人が見えない通路の方へ声を掛けているみたい。

 それにしても、ゴルディ様?

 なーんか、どっかで聞いた名前だなぁ?


 僕は思い出せないまま、扉の方をみた。

 


 現れたのは優しそうな顔をしたおじさんだった。

 あぁ、侯爵さんの名前だったのか。



「あーーーーーーッ‼」



 今頃思い出した。

 僕がなんでここに居るのかを。









 ~とある裏通り~



「ん、もぉ~相変わらず陰気な場所ねぇ?」


 誰がどう見ても変態だと思う格好の男が眉間に皺を寄せて言う。

 綺麗なモノが好きな男には不快感しか感じない様な場所だ。


 その裏通りの狭く暗い通路先の、

 さらに奥、人の寄り付かない狭くカビ臭い通りの先に

 ある筈の無い大きさの店がある。

 その店はサーカステントのような形の大きいモノなのだが、

 一般人には見つけられない。

 通りにある結界が認識を阻むからだ。

 その結界を超えるには特定の魔法を使わなければならない。

 特定の魔法とは、『闇』。

 第6魔法を使う魔族ぐらいしか入れない場所なのだ。


「ようこそいらっしゃいませぇん。ローザ様ん。」


 ツカツカと歩く変態に店の方から声が掛った。

 店の入り口から出てきた小太りの男は相変わらず醜い顔だ。


「久しぃわねぇ?ドリトミーくぅん?

 ところで、私をの商品ってなぁにぃ?」


「フォフォフォぅん、史上最高の天使を捕まえましたぁん。

 全身真っ白の紛れもない天使でございましょぅん?」


 変態は自身の身体を抱き寄せ、震えた。

 綺麗と可愛いは変態にとっては最高のエクスタシー。

 史上最高という言葉だけでも込み上げてくる。


「フォー-----ッ‼史上最高のッ!全身真っ白のッ!天使ちゃんですってッ!?どこよッ!?早く見せなさいッ‼モタモタしてんじゃねぇッ‼」


 変態は我を忘れて素が出てしまう。

 しかしそれ程までに早く迎えたいのだ。

 自身の奴隷として。


 まさか、天使ちゅぁんだなんて...全身真っ白の...ぅん?全身、真っ白?それって、もしかして、あの?【シロツキ】?


 ぅふん?ふふ、ふふふっ


 本物なら尚更早く会わなくちゃねぇ?

 あの鹿殺すなんてもったいないわ

 私のモノとして大事にしなくちゃ、ねぇ?

 こんな汚いトコに天使は必要ないわ

 私の横が相応しいでしょう?

 もし奴隷に出来るならもう他のモンはどうでもいいわ


「どこよッ!早く案内なさいッ‼」


「今は町長の家の地下に幽閉しておりますぅん

 あの媚薬も使っておりぃん、感度抜群ぅん、

 表情もとろけておりますのでご安心をぅ」


 なんてこと...

 私の『男』が反応している?

 あぁっ、早く迎えに行かなくちゃッ


「分かったわ。待ちきれないからもう1人で行くわ

 また来るわ?」


「早いお帰りを願いますぅん」


 

 待っていてねぇ?私の天使ちゅぁん?


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