第32話 何を守りたいのかが大事
僕達は村の外へと場所を移動した。
辺り一面草原で、草花以外何もない平らな場所。
村から近いからか魔物の姿は見えない。
凄く安全な場所だと思う。
お日様の陽射しがポカポカと心地いい。
(出来ればここでピクニックでもしたいくらい。
ゴロゴロしたい。しようかな?)
でも今から何かあるかもしれない。
僕の視線の先にはアビゲイルさんとカインさんが向かい合っていた。
「おい、何をしたら私を認めるんだ?」
「
(はて?なんで手合わせ?
条件ってなんだろ?)
カインさんは腰のナイフを取り出して既にやる気だ。
「
アビゲイルさんが剣を抜いてカインさんを強襲する。
「なかなか、やるじゃねぇ、のッ‼」
カインさんはナイフ1本で防いでいる。
アビゲイルさんも凄いと思うけど、それを刃渡りが短いナイフで防ぐカインさんも凄い。
僕はポカポカ温かい草原の上で呑気に座って見ていた。
「お前の覚悟はそんなもんなのか?俺を魔族と思って殺す気で、来いよッ!」
「後悔しても知らんぞッ!ケガで済むと思うなよッ‼」
(え?大丈夫なの?
2人とも、手合わせじゃなかったの?
僕の魔法で治せるならいいんだけど)
そんな僕の心配とは裏腹に、どんどん打ち合いが激しくなっていく。
「あの魔族は、俺みたいに、優しくないんだ、ぞ?こんな風になッ‼」
「悪ぃな、嬢ちゃんッ‼盾技スキル【
カインさんはアビゲイルさんの
(ほ?なんで僕に魔法を?)
僕の周りに黄色い膜が覆っている。
「何をしている?私が相手、なのだろッ‼」
アビゲイルさんはカインさんの魔法に気を取られずに攻め続けている。
「これが
「ユウに
(僕にもよく分からない。
何が条件付きって事なんだろ?)
「もし
「ッ!?」
(え?これ、防御魔法じゃないの!?)
〈...大丈夫...防御魔法だよ...〉
(そうだよね?防御魔法だよね?良かったぁ~っ)
「もしこの結界の中に毒が入っていたら?最悪の事態は想定出来てるか?」
「ユウは今死んでいた、かもしれない?」
2人の攻防は止まっていた。
アビゲイルさんは俯き拳を握っている。
もしかしたら僕は本当に今死んでたかもしれない。
ちょっとゾッとした。
「ま、そういうこと。敵は何をしてくるか分からねぇ。だから考える。考えながら最悪を想定して動け。それが守るって行動に繋がる。
これがこの手合わせの
「あぁ、望むところだ。私を認めさせてやるッ‼」
「仕切りなおす前に設定を決めといてやる」
「それに順応しながら守ればいいんだな?」
「あぁ、俺の魔法効果は3分。だから魔法の中に毒があると思って制限時間として魔法が切れる前に俺を倒せ。そして俺は結界に攻撃する。防げて5回。分かるな?」
「3分以内にお前の攻撃を防ぎつつ結界を守りながら倒せばいいのだろう?」
「上出来。いいぞ、いつでも来いよ。時間は待ってくれねぇぞ?嬢ちゃんが死んでしまうぞ?」
「フッ。タチの悪い魔族だ。だが、私の守りたいモノの為に倒れて貰うぞッ‼」
(え?僕の立場は?なんか巻き込まれてない?)
〈...赤い人の為に...大人しくした方がいいよ?...〉
(そ、そうなの?でも僕に攻撃してくるんでしょ?
怖いんですけど?)
〈...ユウには怪我させない筈だから...大丈夫...〉
(う、うん、わかったよ。
でも、なかなかハードな条件じゃない?
ゲームでそんなbossいたら倒せないかも)
でもアビゲイルさんは諦めてないみたい。
僕は大人しく見守ってよう。
「第3魔法『土』【ロックニードル】ッ‼」
ガガガッ
「ぅわっ!」
僕に向かって尖った石が何発も地面から飛んできた。
(怖っ‼コレ死んじゃう奴だよっ!?本当に大丈夫なのっ!?)
「おいおい、あと1~2発で壊れるぞ?大丈夫かよ?」
「ッ‼分かってるッ‼まだ諦めた訳ではないッ‼」
「守るって言葉はただの飾りかッ!?」
「うるさいッ‼」
(んー?
アビゲイルさん余裕が無くて焦ってる。
大丈夫なのかな?)
〈...大丈夫...問題ないから...〉
問題ない?
でもルナが言うんだ、最後まで見届けないと
「私は、私はもう誰も、失いたくッ、ないんだッ‼」
アビゲイルさんは僕への射線上に立って守りながらもカインさんへ攻撃している。
それだけでも凄い。
ちゃんと周りを見ている。
自分に出来る事を全部やってる。
それでもカインさんには届かないみたい。
「たしかにお前の剣は凄い。だが、守るってのは
カインさんの言葉と同時に僕の周りの結界は消えた。
この手合わせの終わりの合図。
(制限時間が過ぎたって事、だったよね?)
「あ、ああ...終、わった?」
僕の周りの結界が消えたのを見てアビゲイルさんはその場で崩れ落ちた。
(ルナ?終わったんだけど?
大丈夫じゃないじゃんッ‼
問題なくないじゃんッ‼)
〈...大丈夫だから...怒らないで?...〉
え?終わってないの?
「お前の覚悟、熱は、分かったよ」
「何を、言っている。私はユウを守る資格も、傍にいる資格も無いのだろう?認められなければ意味が無いだろう?」
たしかにカインさんの設定はクリア出来なかった。
だからカインさんは認めてくれないかもしれない。
「あ?あー、俺は認めてねぇぞ?お前の
「は?」
ん?どう言う事?
(僕を守る資格が無いとか、
ついてくる資格が無いとか、
責任とか、覚悟とか、そんな話じゃなかったっけ?)
生き方?
「そもそも認めるかどうかは嬢ちゃんだろ?俺が気に食わねぇのはお前のい・き・か・た!」
「はぁ?」
「護衛だの守るだの言って何も出来てねぇその生き方が嫌いだ。出来ねぇならハナから言うな。言葉にするなら守れ、責任を持て」
「なっ!?お前は私に責任が持てないなら着いてくる資格が無いと言ったではないかッ!?」
「実際そうだろ?お前は守るという割に守れてねぇじゃねぇか」
「あ、あぁ、そうだが」
「だから守るとか簡単に言ってんじゃねえよ。
出来ねぇ責任を背負うんじゃねぇよ。
もっと気楽に一緒にいたいって言えばいいじゃねえか」
出来ない責任を背負う?
アビゲイルさんは無理してたって事?
いや、そうか。
カインさんはアビゲイルさんの為に...
「嬢ちゃんと義姉弟で信頼し合ってるんだろう?嬢ちゃんといる覚悟があるんだろう?」
「あぁ、そうだ」
「一緒にいるって
「お前の答えとはそう言う事、なのか?」
「あぁ、なんでもかんでも守れねぇ。出来ることを守れよ。それが責任だ」
そっか。
自分に出来る事をするだけ、だよね。
出来ないなら無理するなって、事なんだよね?
カインさんが何を言いたいか分かった気がする。
「お前に言うのは
アビゲイルさんはカインさんへ頭を下げた。
その顔ははっきりと答えを見つけた顔だ。
守るっていうのはただ身を守るだけじゃなかった。
言葉を守るって事だってカインさんは言いたかったんだ。
きっとカインさんはこの守るって事に何か思う事があるんだろうな。
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