第21話 聖女の片鱗



 僕と黄色い髪のお兄さんは悲鳴が聞こえた方へと走っている。



「おい、白い嬢ちゃん!魔物がいるから俺から離れるなよッ‼」



(白い嬢ちゃん?あ、僕の事か。

 そういえば全身白一色だった。)

 

「はいッ‼魔物がいるんで離れませんッ‼絶対に‼」


(襲われたら僕1人じゃひとたまりもないもん。

 大丈夫か分かんないけど離れませんよ?

 そういえば悲鳴を聞いて来たけど僕なんで来たんだろう?)


 魔物がいるのに。倒せる訳でもないのに。


 なんか反応しちゃったんだよね。

 今となっては仕方ないよね。

 1人でいるよりは多分安全だし?

〈...大丈夫...それよりあっちだよ...〉


 良かった。大丈夫らしい。


(あっちね。分かった。ありがとうルナ)

 ルナは知っている気がする。


 そんな事より今は、


 「お兄さんあっちです‼」


 僕はルナが教えてくれた方向を感じた方に指を差す。


 そこにいるんだろうね。

 そして多分ルナが言うから助けられる。


 ルナはウソつかないし、無駄な事は今まで言った事ないから。


 「あ?分かったそっちだな‼」






 


 走っていくと鎧オーク2体に囲まれた7歳くらいのリス?っぽい女の子がいた。

 どうやら間に合ったようだけど僕たちは何も出来ない。


 武器がないし盾もない。

 素手で鎧オークをどうにか出来る?

 いや、無理。

 オークは武器を持っている。

 死にに行くようなもんでしょ。






 リスの女の子は泣き崩れて動けそうにないみたい。

 

 考えてる暇がない。

 今にも襲われそうだ。

(どうしよう?どうしたらいい?ルナ?)


 考えていたら事態は意外な形で解決した。






 「盾技スキル【守護陣シールド】ッ」

 「第3魔法『土』【バレット】ッ‼」


 それは黄色い髪のお兄さんが叫ぶと同時に起きた。


 リスの女の子を囲うように黄色い膜が張られた。

 鎧オーク2体に向かって無数の岩が飛び、

 何発か身体を貫いた。


 一瞬で終わった。

 僕にとって未知の魔法。

 それに、スキル。

 アビゲイルさんも使っていたスキル。


(この村で落ち着いたときに色々聞こうと思ってたんだけど...)

 今は非常事態だから出来ることをしないと。


 「君、大丈夫だった!?」


 僕はリスの女の子へと駆け寄った。

 泣き喚く女の子は会話どころではなかった。

 一瞬の出来事とはいえ、まだ横に襲おうとしたオークの死体があるし。


 仕方なくリスの女の子の状態を見てみた。


 どうやら足を斬られて怪我してるみたいだ。

 血は流れているけど大怪我ではなさそう。

 もし怪我したままだと何かあった時に逃げられないよね?


 僕には戦って助けることが出来ない。



(でも癒すは持ってるんだ)



 僕がここにいる理由があるとするならば、

 今なんじゃないかな?


(ルナ?いいよね?僕はこの子に魔法を使いたいんだ)

〈...いいよ...ルナは手伝う...〉



(ありがとう。ルナ)


 僕は出来ることをしたい。

 自分の為に、人の為に、出来ることをやりたい。

 


 なんでこの世界は死が当たり前にあるんだろう?

 

 この世界は血だらけだ。

 みんな死に物狂いだ。

 生きたいのに身体が、心がケガしてる。

 そんなの見たくない。


 僕は笑顔で楽しく生きたい。

 平和な世界で生きていたい。


 だから僕は僕の出来ることをやって、

 少しでも誰かの役に立ちたい。


 僕は両手を女の子へと伸ばし、目を閉じた。




 「白い嬢ちゃんどうした?...クソッ!オークにやられたのか。まだこの村に何体いるか分からねぇの、に?はぁっ!?魔ほ...ウソだろッ!?」



 黄色い髪のお兄さんが僕の魔法を見て驚いていたようだったけど気にしない。

 僕の魔法は無事に成功している。

 血の跡すらない。になってる。


 「大丈夫?痛くない?」


 僕は怖がらせないようにリスの女の子へ笑顔で聞いてみた。


 「ヒック、痛く、ない。ヒック、ありがとう、綺麗なお姉ちゃん。」


 「良かった。」


 僕が、僕の魔法が役に立った。

 凄く嬉しいんだけど、未だにこの村は危険だったんだった。

 でもこの子と同じように他にも生きている人がまだいるかもしれない。


 「お兄さん、まだ助けられる人がいるかもしれません‼

 手伝ってもらえませんか!?」


 僕を見ている黄色い髪のお兄さんはただ、僕を見つめていた。

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