第629話 問題の洗い出し

「他の金属のように、熱して曲げる。みたいな加工が出来ない。って事ですよね?」


『そうだね。摂氏六千度まで熱しても、変化なかったよ』


 六千度!? 太陽の表面温度並じゃないか! 地球で一番液化する温度の高いタングステンの融点はおろか、タングステンが気化する沸点よりも高い温度でも変化なしか。そうなると加工のしようがない。


「う〜ん。私が『白金化』のスキルを覚えて、バヨネッタ様と息を合わせて、エクスカリバーをせーので変成させようかと思っていましたけど、変成は可能でも、それで精密なものは造れそうにありませんね」


『しれっと凄い事を言っているねえ。またジョンポチ帝に頼んで、スキルを授けて貰うつもりだったのかな?』


 ビジョンの向こうのオルさんは、興味津々な顔付きだ。


「いや、まあ、そこは裏技を覚えまして」


『そんな事よりも、何であれ、エクスカリバーの生成が可能ならば、武器の供給くらいは出来るんじゃないのか?』


 口を挟んできたのはラシンシャ天だ。


『剣程度なら生成するのも難しくないはずだ。エクスカリバーは魔法やスキルの性能を増幅させる媒体としても優秀だと聞く。それを大量生産して、兵士たちに持たせるだけで、兵士一人一人の生存率が上がるんじゃないか?』


 鼻息荒くラシンシャ天がまくし立てる。へえ、流石はエクスカリバー。そんな性質もあったんだなあ。まあ、言われてみれば、バヨネッタさんが生成する金剛金も、魔力伝導率が高いとか何とか言っていたもんなあ。それを材料に使うなら、言われたような性質を持ち合わせていても不思議じゃないか。


『そうですねえ。ラシンシャ天がおっしゃられる事はもっともで、単にエクスカリバー製の『何か』を兵士に持たせるだけでも生存率は上がると思います。が、仮にハルアキ宰相が『白金化』以外にもスキルを覚えられるのなら、それが精密なエクスカリバーを造れるものなら、それによって、エクスカリバー製の護符アミュレットや、魔力増幅器、スキルや魔法の強化器を造れたなら、その方が更に有用ですしねえ』


 オルさんの発言に、その場の全員の期待が俺へと向けられる。


「出来るか出来ないかは、オルバーニュ氏が期待するスキルが、どのようなものであるかによりますね」


 今度はオルさんに期待の眼差しが向けられる。


『そうだね。ハルアキ宰相の話を聞いて、僕が引き合わせたいと思った魔法科学研究所の人材は、『合成』と『再現』のスキルの持ち主だよ』


「『再現』ですか」


『再現』はオルさんやゴルードさんが持っているスキルだ。


『魔法科学研究所で働くようになって判明したのだけど、どうやら『再現』持ちは、パソコンに入力された製図や3Dモデルを、正確に現実に再現出来るようなんだ』


 へえ、それは凄いな。実物がなくても再現可能なのか。


「つまり、バヨネッタ様が作り出した金剛金に、私が作り出した『清塩』と白金の合金、そして魔石を用い、『合成』と『再現』で精密なエクスカリバー合金を作り出せる訳ですね」


『ああ。実際、魔法科学研究所で作り出したエクスカリバーは、その『合成』と『再現』の持ち主によって作り出されたからね』


 実績あり、か。


「それじゃあ、ハルアキの場合、『再現』さえ使えるようになれば、私とハルアキが同時にスキルを使用する事で、互いのスキルが干渉し合い、『再現』によって精密部品を作り出せる、と?」


『ええ、まあ。可能は可能になります』


 バヨネッタさんの発言に、しかしオルさんは少し歯切れが悪い。


「このやり方に、何か問題でもあるのですか?」


 俺が尋ねると、一拍置いてからオルさんが口を開いた。


『魔力効率が悪いんだよ。何せ作り出すのは世界最硬の合金だからねえ。先程、我が魔法科学研究所で、エクスカリバーの生成に成功した。と言ったけれど、成功したのは十センチ角の直方体で、それを『合成』『再現』するのに、そのスキルの持ち主は二時間掛かった。本人のレベルが低かったのもあるけど、もし精巧な部品や、大型の建材を生成しようとなったら、いったいどれだけの時間が必要になるか。それこそマナポーションをがぶ飲みしながら、丸一日の作業になるだろうね』


 それは……、現実的とは言えない、か? 俺は『有頂天』が使えるから、いくらかマシだろうけど、そればかりに時間を取られる訳にもいかない。


「その『合成』『再現』持ちは何人おられるんですか?」


『両方持っているのは一人だね』


 まあ、それはそうか。普通は狙って『合成』と『再現』を手に入れられないもんなあ。


「他国ではどうでしょうか?」


『私の国ではまず無理ですね』


 モーハルドのストーノ教皇が断言する。モーハルドはデウサリウス教の一神教国で、スキルは生まれた時に授かる一つだけとの不文律がある。可能性としたらスキルとギフトで揃っている時くらいか。


『余のところは、スキル屋を回れば、何人か確保出来ると思うぞ』


『こちらもそうだな』


 オルドランドのジョンポチ帝とラシンシャ天はそんな意見。他の国も概ねそんな感じだ。


「では我が国から、金剛金と『清塩』を使った白金……、面倒なので清白金せいはっきんと呼びましょう。を提供しますから、各国で精巧部品を作ってください。モーハルドへは、我が国から部品レベルで輸出させて頂きます」


『ありがとうございます』


 ストーノ教皇からの素直な感謝。モーハルドとは色々あったけど、この人がトップなら大丈夫だろう。


「ハルアキ、私の宮殿ロボの問題が解決していないんだけど?」


 バヨネッタさん、まだ諦めていなかったのか。


「それなのですが、もしかしたらどうにかなるかと」


 そう口を挟んできたのは、カッテナさんだ。俺たちがあーだこーだ話し合いをしている後ろで、ダイザーロくんと何やらひそひそ話をしていたが、その結論が出たようだ。


「金剛金と清白金と魔石を、バヨネッタ様とハルアキ様の『黄金化』と『白金化』を同時に使う事で、エクスカリバーを生成するんですよね?」


「そうよ」


「そこに、私とダイザーロくんを噛ませて頂けないでしょうか?」


「? どう言う事?」


「私は隔仙として『付与』が使えますし、ダイザーロくんは雷霆王であり、電気で動くパソコンを一ビットレベルで動かせます。そこにハルアキ様の『六識接続』を合わせれば、エクスカリバー製の精密な部品を作り出す事は可能ではないでしょうか?」


 成程。それなら『再現』を覚えなくても精密部品を作り出す事も可能だろう。けど、


「四人で魔力を四分割しても、宮殿ロボは無理なんじゃないかな?」


 この俺の発言に、物申してきたのはダイザーロくんだ。


「それなのですが、身の丈に合わない過ぎた要望で恐縮ですが、我々二人に、ガイツクールを頂けないでしょうか?」


「ガイツクールを?」


 これには各国のお歴々も口をつぐんでいられなかったらしく、動揺と不満が口からこぼれ、議場がざわつく。それはそうだろう。現状この異世界でガイツクール(化神族)を持っているのは、パジャン天国のパジャンさんと、モーハルドのバンジョーさん。そしてバヨネッタ天魔国のバヨネッタさんと俺だ。現状一時的にオルさんのいるサリューンに他のガイツクール(化神族)は集められているが、その所有者はいない。それなのにここでカッテナさんとダイザーロくんが所有するとなると、それこそ三百人委員会が危惧していたように、戦力バランスが崩れる。


「どう言う事か、しっかり説明して貰えるかしら?」


 バヨネッタさんが鋭い視線をダイザーロくんへ向ける。


「ガイツクールがあれば、ガイツクールリンクシステムが使えるようになります。そうすれば四人の魔力量が増えるうえに効率的に扱えるようになり、精密部品を早く作るどころか、建材を作り出す事も可能になるかと。そうなれば、我が国でエクスカリバーの製造を一手に引き受け、より早く製造して、各国へ分配する事も可能になるかと」


 おお! 凄く考えられている。でもこの意見が通るかどうかは五分五分だなあ。

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