第626話 不毀金

「オルさん、今大丈夫ですか?」


『オルさんなら今、席を外しているわよ』


 製図室を出て、バヨネッタさんたちが会議をしている議場へ向かいがてら、オルさんに研究員を派遣して貰おうと、イヤーカフの通信魔導具で連絡を取ったら、返事をしてきたのは女性だった。声からして、アンリさんじゃない。そもそも日本語だし。


「ええ〜と、どちら様でしょう?」


『立花よ』


 ああ。魔法科学研究所の主任研究員である、立花橘湖女史か。


「あれ? オルさんの通信魔導具に連絡したと思ったんですけど?」


『合っているわ。オルさんは今、こっちの世界の世界会議に出席しているの』


「ああ、成程。オルバーニュ財団の総裁として、通信会議に出席している感じですか?」


『正解。全く、持たざる者の嫉妬と言うものは、世界を混沌とさせるわね』


 ははは。立花女史的にも、地球のやり方には色々思うところがあるようだ。


『それで? 何で連絡してきたの? 地球の方針が決まった?』


「いえ。俺たちがリークした情報で、今はまだ混乱しています。メイソンロッジズの会員情報を洗ったら、裏で魔王軍と繋がっていた事が発覚しまして、どうやらメイソンロッジズは、今回の戦争で、どちらが勝利しても、会員が良い地位でいられるように確約させる為に、立ち回っていたみたいです。しかもそれが、会員以外はどうなっても良い、それこそ生贄や人体実験のモルモットでも構わない。との方針だったようで、まあ、各国荒れまくっていますね」


『…………はあ。吐き気がするわね』


 立花女史の声は本当に吐き捨てるかのようで、この問題を嫌悪しているのが声だけで分かる。


「でも、これが以前までの地球だったら、デモやストライキなどで終わるんですけど、現在の地球には、天賦の塔が世界各国にありますからねえ」


『暴力でゴリ押せちゃう訳かあ』


「そのように行動する人間も少なくなく、ある国では天賦の塔を市民が不法占拠したり、もっと酷いと塔を巡って内戦状態になりかけていまして。日本としては、魔王軍との戦争より先に各国へ武力介入する事になるかも知れない状態です」


『はああああああああ…………。今が四月下旬。魔王軍との交渉と言う名の戦争が七月上旬。どうする?』


「どうする? と言われましても、俺も戦争屋じゃあありませんから。どうしましょうねえ」


 とは言え。俺も一国の首席宰相である。今度の戦争に何某かの意思表示をしなくてはならない立場だ。どうしましょう。と言っていられない。


『それで? その事をオルさんに伝える為に連絡してきたの?』


 話題が変わった。


「いえ、オルさん、いや、魔法科学研究所にお願いがありまして」


『お願い?』


「はい。ええ〜と、あの〜、スーパーロボット作れる人って、いません?」


 我ながら、なんて陳腐な事を尋ねているんだ。完全にアニメと現実を分けて考えられない人間の発言だ。


『ほほう? 詳しく聞こうじゃない』


 乗ってくるんだ……!


「バヨネッタさんが国を作った。いや、統一した。って言う方が正しいのかな? まあ、それは置いておいて。その関係で、宮殿を建てる事になったんですよ。それでその宮殿を、ロボットに変形するように設計出来る人を、魔法科学研究所から派遣して欲しくて…………。すみません、馬鹿な事を頼んでいるのは承知の上なんですけど、どうにかなりませんか? 素材はバヨネッタさんの炭素と金から出来ている合金を、いくらでも使って良いので……」


 うう。自分で言っていて、頭おかしい気がしてしょうがない。何だよ、国の象徴である宮殿を、変形ロボとして造ってくださいって。


『無理ね』


「ですよねえ。バヨネッタさんにも無理だって伝えます」


『いえ、変形ロボットを造るのが無理だとは言っていないわ』


「え?」


『金剛金だと、その大きさのロボットにしようと思ったら、強度の問題で脆いロボットになってしまうの。素材を変えれば、造れるわよ』


「マジっすか!?」


 え? 造れるの? 人ひとり乗るロボットとかではなく、巨大な宮殿を変形ロボットにするんだよ?


『出来るわ。最近合成に成功した合金を使えば、そのサイズの変形ロボットも造れるわ』


「最近合成に成功した合金、ですか?」


『ええ。バヨネッタ陛下の金剛金に、工藤くんの『清塩』、それにプラチナと魔石を合成する事で完成に至った至高の合金。その名も、『不毀金ふきのはがねエクスカリバー』』


「エクスカリバーっ!? うえ? いや、へ?」


 何でそんな名前なの!? 剣じゃん!?


『分かるわ。私も、何でそんな名前なの? って思ったもの』


 おんなじ感想だ。


『でもね。それはどうやら私たちの世界に持ち込まれた一振りの剣が、エクスカリバー製だっただけってみたいなの。色々調べて分かったのだけれど、湖の乙女よりアーサー王が賜った聖剣エクスカリバー。どうやらその湖の乙女が、あなたと同じ、『超空間転移』が使えるこの世界の人間だったみたい。そして湖の乙女がたまたま渡した聖剣がエクスカリバー製だったから、現代まで、『聖剣エクスカリバー』なんて名前で言い伝えが残っているのよ。まあ、実際にエクスカリバー合金は凄い合金なんだけど』


「…………」


 何も言えない。それってプレイング・カードがトランプとして伝わったみたいな話だよな。あれはトランプが、カードの中で良いもの(切り札)=質の良いものとして間違って伝わったんだっけ。


 まあ、何であれ、


「そのエクスカリバーがあれば、変形宮殿ロボも造れるんですね?」


『ええ! ばっちりよ!』


 そっかー、造れちゃうのかー。

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