第624話 種明かし
『どう言う事だ!?』
思わぬ事態に声を荒げる光の人間像の一人。
「どう言う事、と言われましても。そちらとしたら、専守防衛を掲げ、他国への侵略を禁止している国が、魔王と関わりを持っている疑いがあるうえ、強力な兵器を有しているのが看過出来ないんですよね? だったら簡単な話だ。それらを全て他国へ渡せば良い」
『他国、だと!? いったいどの国へ!』
『分かったぞ! 小僧! 貴様、自国であるバヨネッタ天魔国へ引き渡したのだな!』
まるで鬼の首を取ったかのように、興奮した声で俺へ指摘してくる誰だか分からない光の人間像。
「いえ、違いますけど」
『なっ!? ならばどこへ引き渡したと言うのだ!』
五月蝿い。三百人がキャンキャン
「それに付いては、私の方から説明させて頂きます」
ここで声を上げたのは八車女史だ。彼女の一言に、場がその一挙一動を見定めようと静まり返る。
「先程ハルアキ宰相よりご指摘がありましたように、日本国としましては、ガイツクール及びサンドボックスを国内に所有している事は、今後各国と足並みを揃えていくうえで障害になると考え、これらの所有を放棄し、先日、異世界のサリューン国へ譲渡致しました」
『さ、サリューン国?』
そう、サリューン国。オルさんの生国である。
「サリューン国は、異世界の西大陸の東端にある国で、西大陸では一番魔大陸に近い場所にあります。貴国は日本で魔法科学研究所の所員として活動されていた、オル氏、本名オルバーニュ氏の生国であり、大量の魔石が採れる国、そして異世界のほぼ全土に支部を有する、異世界有数の財団であるオルバーニュ財団の本部がある国です」
『あの研究者が、オルバーニュ財団の人間だと!?』
オルバーニュ財団は知っていたんだな。まあ、異世界と取り引きしようと思ったら、頻繁に出てくる名前だろうから、地球の支配者たちからしたら、良く聞く名前か。
「はい。オルバーニュ氏はその名から分かる通り、オルバーニュ財団の総裁です。ですので、我々はオルバーニュ氏に今回の事態を説明し、その財団総裁としてのお力添えを借り、オルバーニュ財団へガイツクールとサンドボックスを譲渡する代わりに、財団が所有する魔石、ポーション、ハイポーションを譲り受けました」
『…………』
無反応。いや絶句しているのかな? 自分たちのものになるはずだった玩具が、名前を聞いた事があるくらいの、どこの誰だか知らない人間に掻っ攫われたのだ。自分たちの感情の行き場をなくしているのだろう。
「良かったですねえ。強力な兵器なんて言う戦争の火種を、この地球から引き取ってくれたのですから。これで地球は平等で平穏だあ」
『小僧、貴様の入れ知恵か! ふざけた真似を! 我々を敵に回す事が、何を意味しているか分かっているのか! 貴様だけでない! 貴様らの家族も、無事に済むと思うなよ!』
本音が口からまろび出たな。そうやって標的の大事な人を人質にして、今まで言う事を聞かせてきたのだろう。だけどそれは、俺相手には後手だったな。
「ああ、大丈夫です。うちの家族もジジババも、タカシの家族も、シンヤのところも、浅野、トモノリにリュウちゃんのところも、全員異世界へ避難させてあるので」
『━━!』
転移門が使える相手に、言葉だけで人質を取れると思うなよ? まあ、うちのジジババなんかも監視されていたから、もうちょっと遅かったらやばかったけど。
「反論がなくなりましたけど、言いたい事はそれだけですか? それとも今度は経済制裁で日本国民全員を人質にしますか? アメリカのロバート・ミラー上院議員」
『なっ!? 何故私の正体を!?』
ふふふ。一人の正体が分かっただけで、三百人全員が動揺している。面白いな。
「何故って? 簡単な事ですよ」
パチン。
俺が指を鳴らすや否や、光に包まれていた人間像が、全て正体であるご本人の姿形へとすげ替わる。
『なっ!?』
『何だこれは!?』
『どうなっている!?』
おうおう、動揺している動揺している。三百人が右往左往見渡しているのは壮観だな。
「すみません貴き皆さま! 今、上の者から、この映像が全世界に発信されているとの連絡が! 更には皆さまの個人情報が、ネットで晒されていると!」
事ここに来て、鹿島議員がこの場に乗り込んできた。
『何だと!?』
『ふざけるな!』
『どうなっている!?』
うはは。偉そうなジジイババアどもが狼狽える姿は、笑えるねえ。大人だったら酒の肴にでもしているところだ。
仕組みとしては簡単だ。ダイザーロくんがいる事で、回線関係はこちらの手中にあるも同然。奴らは自分たちを高貴な存在に見せる為に、光の人間像なんて阿呆な姿で接触してきたが、使っている回線自体はネット回線だ。そんなの雷霆王であるダイザーロくんに掛かればハックするのは至極簡単だ。
とは言え、1と0の組み合わせが何を意味しているのかはダイザーロくんには分からない。なので、この情報をとある場所で待機しているアネカネに送り、アネカネとお友達であるAIに解析して貰えば、誰がどこからどのように、ここへアクセスしているかなんて一目瞭然である。
解析完了した情報は、アネカネからダイザーロくんへ、そこからピルルさんの『念話』を通して俺の脳に送って貰う。そして頃合いを見て俺の指パッチンに合わせて、カメラ越しに俺たちを見ている三百人の正体を晒し、アネカネは同時にこいつらの情報をネットへ流出。ここの映像はピルルさんが『遠隔念話』で会社で待機している武田さんのところへ送っている。Future World News にはオルさん謹製の『念話』を電気信号に変換するAI内蔵魔導具を置いてあり、これで映像化されたものが全世界へ流されているのだ。どちらにせよ、このロッジ程度の情報遮断機構では、ダイザーロくんもピルルさんも止められない。
「こちらだけ顔バレ身元バレって、アンフェアじゃないですか。だから、全世界の人々に皆さんのご尊顔を、よ〜く覚えて貰おうかと。サプライズになりましたが、私なりに趣向を凝らしたつもりです。気に入って頂けると嬉しいのですが」
『ふざけるな!』
『早く止めろ!』
「まあまあ、そうイキり立たずに。イギリスのハリー・ホワイト貴族院議長に、フランスのL&Gグループのイザーク・ガッションCEO。取り乱した姿を全世界に晒すなんて、みっともない」
これに閉口する二人。
『何が望みなんだい? 我々を地上に落とす事が狙いかね?』
ここにきて話し掛けてきたのは、欧州の影の女帝と言われるオーストリアのアーデルハイト・テレーズだ。望み、か。まあ実際にこいつらの鼻を明かしたかったのは半分本当だけど、
「勇者の居場所。もう判明しているんじゃないですか? 勇者は魔王に対して特攻だ。それを隠しているのは、それこそ世界に対して不誠実じゃないですか?」
これに対して、静かながら三百人委員会からの動揺を感じる。
『…………教える事は簡単さね。でもねえ、誰もあの男を勇者だなんて、認めやしないよ。道具として使いたいなら勝手におし』
どうやら、地球の勇者は勇者らしからぬ人物らしい。
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